81.ドラゴンの血
Bランクに昇格した翌日の朝、4人はギルドに集まった。
いつものようにエイシェルが先に到着し、残りの3人を待っていると少し遅れて3人がやってきた。
「3人ともおはよう……なんか……アリス、顔色悪くないか?」
フラムとフルームはいたって元気そうなのにアリスだけ目の下にクマが出来ていた。
「3人一緒に寝たはずだったんだけど……私達が寝た後もひとりだけ起きてたみたいで……」
フラムがそういう言いみんなでアリスを見るとアリスがそっぽを向いた。
アリス達3人は練習した後に布団に入ったところまでは良かった。
そのあとアリスは竜玉が気になり魔力の残量を確認してしまったのだ。
それが間違いだった。
竜玉の魔力がほとんど空になっていたので魔力を込めておこうと考え魔力を込めると先程よりもたくさん魔力が込められた。
そうなると再び好奇心に火がついてしまい、"あと一回魔力を空にして入れ直したら寝よう"を繰り返してしまったのだ。
アリス自身、アリスの魔力2人分ほど竜玉に込められるようになったあたりからよく覚えていない。両手で同時に魔力を込めるには生命力が足りないと思い、片方の竜玉に魔力を込めたながらもう一つの竜玉を使って生命力を回復したところまでは覚えている。
あとは交互に魔力の出し入れをするだけの為自動魔力移し替え人形となっていた。
そして気付いたらアリスの魔力3人分込められるようになっておりほくそ笑んでいると朝になって起きたフラムと目が合ったのだ。
……ちなみにアリスと目が合ったフラムが一瞬ひぇっ……と思ったのはフラムの心の底にしまわれた。
朝起きたら目の下にクマを作ったアリスが両手に竜玉を持った状態で不気味に笑いこちらを見たのだ。
朝最初の光景としては心臓に悪い。
「で、でも、この竜玉にわたしの魔力3人分はいるようになったよ……?」
「……えぇっと、昨日の夜何をやっていたのか聞かせてくれ。おれの生命力は分かるほど減ったりしなかったから気づかなかったが……そもそも3人分なんてどうやって入れたんだ……」
「あれ?アリス?エイシェルに回復魔法のこと話してないの?」
「……そういえば話してなかったわね」
エイシェルの目の前でルミナドレインを使った事はなかった。故に説明することもなかったのだ。
アリスはルミナドレインについて説明し、ついでに昨日の夜の出来事についても説明した。
最初アリスが生命力を意図的に回復させることができると言った時は驚いたが、よく考えれば何も不思議ではなかった。
最初に村で猿の魔物を倒した時、明らかに生命力不足だったにもかかわらず生き残れたのだ。きっとアリスが生命力を回復してくれたのだろうと思い至ったのだ。
そしてフルームの剣についても話を聞いた。
魔法で剣を生み出せるなんて聞いたことがなかったがとても頼もしく感じた。
戦っている最中にいざ剣が無くなると生存率が著しく下がってしまう為、いざと言うときの助けになるのだ。
フラムも憧れていた魔法を練習でき、実戦で使えるレベルにはなったらしい。
フラムはアリスが話している最中に不満そうな顔をしていた。
どうやらフルームと同じように剣を生み出せるようになりたかったようで、そこまでには至らず単純に攻撃に使えるレベルの魔法が習得できたところ止まりだったことに不満を感じていたらしい。
アリスが説明を終えるとフラムと、なぜかアリスまで毎日練習すると意気込んでいた。
「3人とも特訓してたのか。おれも弓の練習しなきゃな……」
「エイシェルは昨日の夜何かしてたの?」
「新作のサンドイッチを作ってた。お昼に味見してもらおうと思ってたくさん作ってたんだけど……」
「エイシェルはそのままでいいよ」
「うん、わたしもそう思う」
「あなた達……いえ、もう何も言わないわ……」
人それぞれで伸ばすべき能力があるんだと確信するフルームとアリス。
フラムは何やら諦めたような表情で2人を見ていた。
一通り話し終えた4人はまずセラスに挨拶をする事にした。4人とも冒険者登録からBランク昇格までお世話になったのだ。昨日話してはいるがやはり出発前にも挨拶しておくべきだろう。
「セラスさん。おれたち今から出発します。色々ありがとうございました」
「やっぱり行っちゃうのね……気をつけて行って必ず帰ってきてね。あなた達に頼みたい依頼が沢山あるんだから……!」
「はは……私たちにできる事であれば、ただ、お手柔らかにお願いしますね」
セラスはブレなかった。アリスが乾いた笑いをしてしまったのも仕方がない。帰ってきたら一体どれだけの依頼を頼まれるのだろうと思ってしまったからだ。
それでも、嫌な気はせずむしろ楽しみであった。
「そうだ、忘れてたわ。あなた達王都のウルブスに行くならそこで冒険者ギルドに寄るでしょ?手紙を書いたから向こうのギルドマスターに渡してくれない?」
「いいですよ。王都に着いたら渡しておきますね」
手紙を預かるアリス。昨日聞いた話だと王都のギルドは設備がいいとのこと。他にもきっと色々なものがあるのだろうとまだ見ぬ王都に期待を寄せるのであった。
次にフラターに挨拶をしに向かった。
フラターは相変わらず買取カウンターで忙しそうに書類仕事をしている。
「おじさん、私達今から王都に向かうね」
「おぅ、フラム。もう行くのか。またしばらく会えなくなるな。フルームも、エイシェルも嬢ちゃんも元気でな」
「はい、お元気で!」
「おじさんまたねー!」
「フラターさんも元気で!」
4人は簡単に挨拶を終え馬車を探しに行こうとする。
するとフラターから声がかかった。
「あ、そうだ!これから馬車探しに行くんだろ?探してる間にフラムを借りていいか?」
「え?何か用?」
「ちょっとした世間話だ」
そういう事なのでフラムを残して3人で馬車を探しに行くのだった。
「それで、話って何かしら?」
「……ドラゴンの幼体を討伐したって本当か?」
「あぁ、セラスさんから聞いたのね?本当か知らないけど、ワイバーンなのに火を吹いたりしたから可能性はあるって」
「そうか……その時に少しでもドラゴンの血を飲んだとか無いよな?」
「あー……私もフルームも飲んじゃったわ……事故みたいなものだったから仕方なかったけど……それがどうかしたの?」
フラムの回答を聞きフラターは天を仰いだ。
まさかとは思ったが本当に飲んでいたとは思っていなかった。
むしろこうならないようにと事前に話していたはずだった。
「どうかしたのじゃないだろ……前に話したことは覚えているな」
「歳をとるのが遅くなるってあれよね?でもそれはドラゴンの成体で、しかも大量に飲んだからじゃないの?」
「おいおい、成体の血だから俺みたいになるとかは分かってないぞ。それこそ幼体の方が何かと効果は高くなりそうなもんだが……ちょっと悪いが付き合ってくれ。……ちなみに他言無用で頼む。……フルームに伝えるかは任せる」
フラターはそういうとその場でナイフと取り出し手のひらを傷つけた。
「おじさん!何やってるの!?」
「まぁ見てろ」
フラターの手のひらから血が流れる。
しかし、布で血を拭うと切ったはずのキズが無くなっていた。
「え……?」
「これがドラゴンの血の効果……俺は一種の呪いみたいなものだと思ってる。浅いキズならすぐに完治する。どんなに深傷を負っても死ななければまず助かるだろう。……例え味方が誰ひとり生き残らなくてもな」
フラターの心が折れてしまった理由の一つだ。ドラゴン討伐後の依頼で高い期待に応えようとして仲間を失った。
前に話していたようにみんなを守る事が出来なかったのである。
全滅した時もあった。それでも自分だけは生き残ってしまうのだ。
「もちろん、こんな身体になったことは誰にも話してないし、今後話す気もない。かわいい姪っ子が同じ轍を踏まないようにと思っての助言だ。……もし、本当に同じ状態になっていればだけどな。同じ状態になってなかったらあの嬢ちゃんに治してもらってくれ」
フラターはそういうとナイフをフラムへ差し出した。
フラムは一瞬躊躇するもののナイフを手に取り左の手のひらを傷つける。
「ッ!」
痛みがフラムを襲う。当然血が滲み出てくる。
その血をフラターと同じように布で拭うと、
……そこにあったはずのキズがなくなっていた。
その結果をみて、やっぱりかといった表情でフラターはフラムに言う。
「……まぁ、その、なんだ。何かあったら相談に乗る。溜め込まないように気をつけるんだ。フルームも同じ状態のはずだから、さっきはああ言ったがどこかで教えてやってくれ」
フラムがずっと黙っている事に心配になるフラター。しかし、フラターの心配をよそにフラムは答えた。
「私はおじさんのようにはならないと思う。だって、ひとりじゃないから。フルームがいるのは勿論だけどおじさんもいる。……おじさんこそ溜め込まないでよね?これからは私達も同じ仲間なんだから」
フラムはそういうとフラターへ手を差し出す。
フラムを心配しての話だったが、逆に励まさせるとは思わなかった。
フラターは苦笑いを浮かべて手を握り返す。
「まさか俺の方が励まされるなんてな……。ひとつ忠告だ。エイシェルとあの嬢ちゃんは大丈夫だと思うが、他の奴らにこの身体の事は知られるなよ。特に国のお偉いさんとかには絶対だ。人体実験とか非道な事をされかねない」
「そんな、国がそんな事を許容するとは思えないんだけど……」
「そう思っててもいい。だが絶対に漏らすなよ?」
なにやら真剣な顔で話すフラターを見てフラムは何か知っているんだろうと感じた。
しかし、フラターがそれ以上言わなかった為、あえて聞くことはやめたのだ。
フラムがただ頷くとフラターは満足そうな表情をした。
話しが済んだ為、フラムはフラターと別れギルドを出た。
他の3人が港町へ行く馬車を見つけギルドへ戻るとちょうどフラムが出てくるところだった。
「フラム、馬車見つかったよ。フラターさんなんの話だったんだ?」
「……別に、気をつけていけよとかそんなところ。たいした話じゃなかったわ」
「ふたりきりで話すなんてちょっとあやしくない?……まさかフラム!フラターさんと……!」
「ないない。どうしてそんな思考になるのよ」
「まぁ、また戻ってこよう。それじゃあ出発するか」
フラムはフラターのと会話を誤魔化した。
ああは言ったもののフラム自身気持ちの整理が出来ていないのだ。その状態でアリスやエイシェルにはもちろん、フルームにすら伝える勇気がなかった。
アリスがよくわからない事を言い出したおかげで話が逸れ、エイシェルが助け舟を出して港町へ出発する事ができた。
エイシェルは以前フラムがなにも聞かずに今回の渡航に協力してくれたことに感謝しており、何か事情があるのだろうと考えたのだ。
いつか話してくれるだろうと期待するも、エイシェル自身もいつか話さなくてはならないと考えていた。
……そんな中、フラムが呼び出されてから終始フルームが考えことをしていたことには誰も気付かなかった。
港町へ向かい馬車に揺られている4人。
以前の道中と比べ物にならないくらいに何事もなく進み、夕方には港町へ到着することができた。
途中お昼休憩の時はエイシェルが作ったフルーツサンドに女性陣3人は大満足であり、3人とも少々食べ過ぎてしまうほどだ。
フルーツの甘さを引き立てる為に甘さを控えめのクリームを選び、程よい分量でパンに挟んだのだ。
パンのしょっぱさとフルーツとクリームの甘味がなんともマッチし大成功の一品であった。
「ついたー!夕日の海って綺麗だったわね」
「前回はそれどころじゃなかったもんな。ゆっくり見られてよかった」
「私はあのフルーツサンドが忘れられない……」
「今回ばかりはフルームに同意ね。果物をパンに挟むなんて考えもしなかった……。とても美味しかったわ」
「よろんでもらえてなによりだ。これからも試作品持ってくる事があると思うからぜひ意見を聞かせてくれ」
「まかせて!どんなにたくさん作ってもわたしがちゃんと食べるから安心して!」
花より団子の3人。たしかに夕日も綺麗だが、美味しいものは美味しいのである。
いつもはアリスやフルームにツッコミを入れていたフラムでさえエイシェルの料理が楽しみになっていた。
4人は港町に着くと早速船着場へと向かうのだった。




