8.抜き打ちテスト
続アリスのターン
いきなり課題が出されるとは思っていなかったが、クリア出来れば無条件で許可が出そうだ。
(問題は、どんな魔法にするかね……)
ふと夢?の中で、待ち合わせのためにと魔王が放った魔法が頭によぎる
(そうだ!あの魔法にしよう!あれなら派手だし、キレイだから認めてもらえるはず!……ただ、暗くないと分からないのよね……真っ暗になればいいんだけど……あ。あるじゃない。ちょうどいい魔法が。ただ、規模が広すぎて私の生命力じゃ足りないのでは……?)
課題をクリアするため思考を巡らせるアリス。
あと一歩のところまできたがどうしようも無い問題に直面した。
いや、"以前であれば"どうしようもなかった問題に。
(!……ふふ……ふふふ……ふははは……今度はこっちが使ってやろうっての!誰か知らないパートナーさんの生命力もなんとなく感じられる。しっかり回復してるなら少し分けてよね!)
しばらく歩き丘に着いたアリス一家。丘には誰もおらず本当にただ広い草原が広がっていた。
「じゃあアリス。今の最高の魔法を見せてごらん。……危ないのはダメだからね?」
「わ、分かってるわよ……」
するどい……流石我が父である。
(危なく…はないと思う。生命力もパートナーストックがあるし)
「危なくはないけど、広範囲の魔法でよくみて欲しいからちょっと離れるね」
そう言うとアリスは2人から離れていった
「複雑な気持ちだけど、なんだか応援したくなっちゃう!頑張れー!アリスー!」
今日の旅立ちを反対していた母が何故か応援している
アリスはなんだかんだ応援してくれる両親に感謝しつつ今の最高を持って魅せてやろうと意気込んだ。そう、とてもヤル気だ。
両親から50m程離れたアリスは魔法を唱える
「ダークネス」
するとあたり一面が闇に覆われた
「すごいな!アリス!こんな広範囲を闇で覆うなんて……これ、なんの魔法だ……?」
「……私も見たことが無いわね」
2人とも娘の使う異質な魔法に困惑するも、繊細な魔力操作に娘の成長を感じていた。
「よし!アリス!もういいぞ!これだけしっかり魔法が使えるなら何も心配いらないだろう!」
(え、こんなのでいいの?……いやよ、こんな中途半端な……まだまだなんだから!ふふふ……"私の最高"はこんなものじゃないんだから!!こんなチャンス滅多にない!もっと集中して……ギリギリまで攻める!!)
アリスは暴走していた。
未知の魔法に対する憧れから、今の自分にどこまで出来るのかワクワクしながら自分の最高に挑戦していた
「私の最高はこの魔法よ!!!」
アリスは叫び魔法を放った
「闇夜に咲きなさい!!エクスプロージョン!!!」
「「!!」」
両親は更なる魔法の発動に驚き、アリス自身も驚いた
特大の魔力が空に上がったのは良いが、予想以上に生命力がガリガリ削られたのだ
(あ、調子乗った……)
魔法を放った瞬間冷静になる。
あ、これやばいやつだ。と
空に放った魔力玉を爆発させないように魔力を注いで押さえつけている状態だが、調子に乗って魔力を魔力玉の方に注ぎすぎたのだ
このままだと至近距離で爆発するかアリスの生命力が枯渇するかの2択である
どちらの選択肢もいただけない。
アリスはとっさに一気に減った生命力をひたすらに回復することにした
「ルミナドレイン!ルミナドレイン、ルミナドレイン!ルミナ……」
魔力玉に、魔力を注ぎながら、別の魔法を発動する。
アリスが初めて"三重魔法"の発動に成功した瞬間だった
そう、闇を維持しながら魔力玉を打ち上げて押さえつける。さらに生命力回復の魔法も発動させたのだ。
(や、やればできるじゃないの……これなら問題なさそうね……でも、本当に気をつけよう。そして見知らぬパートナーさん。会った時はちょっと怒るくらいで許してあげるわ…………いや、調子乗りました。ほんとごめんなさい)
反省しつつしっかり魔力操作を行う
魔力玉が十分に打ち上がったのを確認し、押さえつけていた魔力を解放する
ドーーーーーーーン
闇に囲まれた世界が一転し鮮やかな光の粒が空を覆う。夢で見たよりもとてもキレイに光の花が咲いていた
「なんと……これ程までの実力があったのか……」
「きれい……」
アリスの両親はその光景に圧倒されていた。
「うわぁ……我ながらこれはすごいわね……」
アリス自身も感動していた。自身の魔法の最高傑作。
(夜にやれば闇を操作しなくてよくなる。そうなるとさらに改善できるのでは……ふふふ……これは楽しみだわ!)
先程の反省はどこかに行ってしまったのであった。
「どう?お父さん!お母さん!これが私の最高よ!!」
アリスは魔法を解き2人のもとへ戻り自信満々に言った
「……アリスよ。旅なんか辞めて国軍の魔法部隊に入らないか?父さんが全力で推薦するぞ?」
「ち、ちょっと、何でそうなるのよ!さっきは旅してもいいような感じだったじゃない!」
「い、いや……その……なんだ。今の魔法を見た限り、恐らくアリスの方が父さんよりも既に魔法を使うことに長けてる。間違いなく国軍歴代最高の魔法使いになる」
「えっ」
やばい、やり過ぎたか。そりゃヒト2人分以上の生命力を使っての魔法だ。アリスの魔力変換効率を考えたら誰にも真似できないだろう。
「それに、あれだけの魔法使ったにも関わらず身体は問題ないのか……?」
「そうよ!危ないじゃない!あれだけの魔法使ったら死んじゃってもおかしく無いのよ!」
「あー……ダイジョウブデス」
自重という言葉を覚えようと本気で思ったアリスであった
「……それに、あの闇に包む魔法や空に光の花を咲かせる魔法……父さんも母さんも知らないんだが、何処で覚えたんだ……?」
「あぁ、あの魔法は……あれ?」
……どこで覚えた?エクスプロージョンは夢?で魔王が使っていた。ではダークネスは?
何も不思議に思わず自然と使っていた。
あたかも"最初から"知っていたかのように
「あー…タブン、本デ読ンダノカモ」
とりあえず誤魔化した。完全に棒読みになっていたが気にしない。原因は恐らくあの夢関連だ。
説明がとてもめんどくさいし、説明しようにも自分でも分からないものをどう説明していいのか分からない。
「とにかく!わたしの魔法を見たでしょ?旅をするのに問題ないくらいの実力はあるはずよ!……約束は守ってくれるよね?」
必殺上目遣い。相手は落ちる。
「くっ……仕方ない……約束は守る。ただ、条件がある」
「ぶー、後付け禁止ー」
「まぁそう言うな。……無茶をするんじゃないぞ?それが旅の条件だ」
「……うん、ありがとう」
「お母さんからも言わせて。あなた普段は何も言う事ないのに魔法のことになると暴走気味になるんだから……旅に出るんならそう言うところも直すように意識しなさい」
「う、…ワカッタヨー……」
「またには手紙くらい寄越しなさいよ?……辛くなったらいつでも帰ってきていいんだからね?」
「うん、お母さんもありがとう」
両親のやさしさに触れ改めて愛されて育てられた事を実感した。定期的に手紙を送ろうと心から思うアリスであった。
……急いで旅に出なきゃ行けないと考えた理由がすっかり頭から抜けていた事に気付くのはもう少し後の事である
次回は久々のエイシェルのターン