68.セラスの依頼
アリスが魚を釣ったことでみんな帰る事になった。
結果、アリスの釣った魚が一番大きく、一番小さいのはフルームとなった。
フルームはまさか自分が最下位になるなんて思っていなかった為、しばらく魂が抜けたような状態になってた。
「あの子……どんだけショックだったのよ」
「さっきのアリスみたいだな」
「……わたしあんな状態だったの?」
フルームの事は気にしない事にして4人は依頼者の元へ向かった。
結論、依頼者に大変喜ばれた。
魚が大きすぎる為、飼育できるのか不安だったが、依頼者の水槽にはもっと大きな魚がいた。
おそらく同じ種類だろう。白地に赤と黒のマダラ模様が特徴的だ。
どうやら今回釣った魚はメスのようで、上手くいけばつがいになるかもしれないとの事。その為、依頼者はとても張り切っていた。
もともと一匹では寂しいから適当に仲間を増やそうと考えたらしいが予想外の結果となった。
依頼者にサインをもらい追加報酬も貰えた。
ほくほく顔のアリス達4人はギルドに戻るのだった。
ギルドへ戻った4人。フラムが代表して受付証明書をセラスへ提出した。遅れて3人も続く。
セラスは何やら忙しそうにしていた。
「セラスさん。依頼達成しました。確認お願いできますか?」
「あぁ、はいはい。サイン入ってるならそれでいいわよ。そこに置いておいて。はいこれ報酬」
「……もはや別人って感じですね」
セラスがろくに確認もせずに報酬を渡してくる。少し前まではカチカチで確認も丁寧にやっていた気がするのだが……。
フラムはそう思い思わずポロッと言葉をこぼした。
「んー?あなた達のことは信用してるからねー。依頼達成率100%だし。私もちから抜けるところは抜かないともたないわよ」
それは仕事としてどうなんだと思う4人だったが、信頼されていると言われるのは嬉しかった。
セラスが仕事に戻ろうとした時にふと4人を見た。
セラスが信頼する4人の若者である。依頼達成率は100%で、多少無茶な依頼もこなしている。
セラスはいいことを思いついたとばかりにニヤリとした。
「ねぇ、あなた達?このあと時間あるかしら?」
「え?私は大丈夫ですが……みんなはどう?」
「私は大丈夫だよ」
「おれも問題ない」
「わたしも」
「それなら、私から指定依頼出させてもらうわ。書類を届けるだけだから簡単でしょ
?」
4人の予定が空いている事を確認したセラスはギルドの依頼として書類運びをお願いする事にした。
エイシェルとアリスが早くランクをあげようとしているのはここ数日の受注状況を考えれば容易に想像ができる。
セラスとしても実力のある冒険者にはそれ相応のランクになって欲しいのだ。
「依頼として受けれるなんて一石二鳥じゃないの。どうする?2人とも?」
「もちろんやるよ。セラスさんにはお世話になってるし」
「よくしてもらってるからね」
フラムの確認に快諾する2人。エイシェルもアリスもセラスが困っているのなら手伝ってあげようと思えるほどには世話になっていた。
2人の回答を聞いたセラスは笑顔で依頼内容を伝える。
「ありがとう!それじゃあこの書類を武器屋に、こっちは道具屋に、それからこれはギルドの厨房にお願い。あぁ、あれは鍛冶屋に持っていってもらえるかしら?ついでにこっちも買取カウンターにお願いね?」
……セラスはここぞとばかりに依頼した。
ギルドマスターの仕事がある為そんな外出する余裕などない。
ただ、職員も足りていない為困っていたのだ。
余談だが、こういう時はフラターがパシリに使われる。しかし、今はフラターも忙しくて余裕がない為……というより、先日忙しいのにパシろうとして怒られた為、4人を捕まえたのだ。
最後に依頼したフラターへの書類運びは、セラスが小言を言われたくないが為についでに依頼した物だった。
依頼を受けた4人は分担する事にした。
「全部で5箇所ね。せっかくだから、みんなどこか行きたいところある?わたしはフラターさんに書類届けてからもう一つ行くわ」
「わたしはどこでもいいわよ?武器屋とか行っても特に見るものないし、余ったところでいいわ」
「それじゃあせっかくだし、おれはギルドの厨房に行ってくるよ」
「はいはーい!私は武器屋に行きたい!」
「それなら、私は二つめをここから近い鍛冶屋にしようかしら」
「じゃあわたしは残りの道具屋ね」
それぞれ意見を出し分担が決まった。
分担が決まると4人はそれぞれの宛先へと向かっていった。
フラムはそのままフラターへ書類を運んだ。
「おじさーん。セラスさんから書類預かってきた」
「あ?なんでまた……あー、小言を言われたくないからか?全くあの人は……。すまなかったな。助かる」
フラターはフラムが書類を持ってきたのを不思議に思ったが、すぐに理由に思い当たる。
言っても効かない為仕方がないと思いフラムにお礼を言った。
「気にしないで、セラスさんにもおじさんにもいつも助けてもらってるからね」
「そうか」
フラムがこれくらいなんでもないと言ってくれ、フラターは微笑んだ。
「今のパーティは楽しいか?あの2人といると退屈しなさそうだが」
思わず聞いてしまった。昔の自分と重ねて見えたのだ。あの頃はとても楽しくて全てが輝いて見えていた。
「もちろんよ。……それに、あの2人がいたから私は今ここにいる。あの2人と出会わなければどうなっていたか分からないわ……」
フラターも報告で聞いている。剣が通じない猿生物に巨大な白蛇。
あの日は余程のことがない限り港町へ行く事は変わらなかっただろう。
もし、あの2人とパーティを組まなかったら。そう考えるとフラターは姪っ子2人の命を救ってくれたエイシェルとアリスに感謝した。
フラターも命の危機に陥った時に仲間に助けられたのだ。
人を助けることの難しさ、助けられた側の気持ちは痛いほどわかっている。
そんな事を考えているとフラムから質問が飛んできた。質問というよりも相談に近い内容だった。
「……おじさんが剣を握らなくなったのって……やっぱりドラゴン討伐が原因なの?ドラゴンが恐かったから冒険者を辞めたとか……あ!別に嫌なら話さなくていいんだけど……。私、この前にもう剣は握れないかもって思った瞬間があったから……。おじさんもそうなのかなって……」
フラムはあの白蛇のことがまだ引っかかっていた。気持ち的に持ち直しているとは思うが、いざあの白蛇と対面する事があるのかと考えるとやはり不安になるのだ。
絶対に勝てない相手。恐らく何も出来ずに終わる。そう思ってしまいまた動けなくなるのではないかと。
フラムが質問をして少し間が空いたが、フラターは答えてくれた。
「……フラムが言っているのは例の白蛇のことか。……分かった。フラムには話しておこう。フルームには言うなよ?」
今まで誰にも話したことのない胸の内だが、かわいい姪っ子が似た経験をして相談しにきたのだ。叔父として、そして冒険者の先輩として真摯に向き合わないといけない気がした。フラムにはフラターと同じになって欲しくないのだ。
「おれがあのパーティにいた事は知っているよな?俺はその時16歳で兄さんと一緒に修行しながら旅をしていたんだ。そんな中、魔法をぽんぽん使うから珍しい4人組と一緒に依頼をする事があってな。4人とも危険を顧みず他人を優先して助けるような人達だったよ。中でもアランはそこんとこずば抜けてた。火事でいつ崩壊するか分からない建物に水を纏って飛び込んでいくようなやつだったよ。その心の強さに憧れて同行を申し出たんだ」
フラターが6人パーティを組んだ時の話をする。まさにフラムやフルームがエイシェルとアリスについていこうと思った理由と同じだった。
フラムが驚いているとフラターが続ける。
「しばらくは俺も兄さんも活躍して6人パーティとして名が売れてきた。そんな時にドラゴン討伐の話が来たんだ。結果から言うと、俺は足手まといだった。ドラゴンの懐に潜り込み心臓をひとつきしようとしたところを爪で薙ぎ払われたんだ。盾は吹き飛び、ドラゴンの爪が迫る。正直死んだはずだった。だけど俺がドラゴンに薙ぎ払われる瞬間にアランが後ろに引っ張りドラゴンからの攻撃を少しずらしてくれたんだ。爪が迫る中に飛び込んできたんだぜ?そこまでして助けてくれるやつなんかそうそういない。」
フラターはその時のことを思い出してか苦笑しながら話す。アランはとても頼もしかった。でも助けられるばかりになってしまった。そんな思いがあたまを巡ったのだ。
「結果、俺は即死は免れたものの胸に大きな裂傷を負い瀕死には代わりなかったんだ」
「え!そんな話聞いたことないんだけど……」
「当然だ。多分アランしか知らない。俺が瀕死のキズを受けたと同時にアランがドラゴンの心臓を突き刺したんだ。……あたり一面にドラゴンの血が吹き出した。そこで……あまり覚えてないが結構な量のドラゴンの血を浴び、そして飲んだ。……ドラゴンが倒れてみんなが集まってきた頃には胸の傷がなくなっていたんだ。……多分そこから歳をとるスピードが遅くなったんだと思う」
衝撃の告白だった。ドラゴン討伐の話は色々な場所で語られる。そこで聞く話といえばトドメの瞬間、剣士がドラゴンの攻撃を弾き、その瞬間を突いて魔法剣士がトドメを刺したと言うものがほとんどだ。
事実と違う話が広まっているのだった。
そしてもう一つ。フラターの若さの秘密。それがドラゴンの血によるものだとフラターはいう。予想外の話でフラムは少々困惑していた。
フラムが困惑していても構わずフラターは続ける。一番言いたいことを言えていないのだ。
「なんとなく察しはついたと思うが、俺は本来なら殺されてた。なのに気づけばドラゴン討伐で最期の隙を作った英雄扱いだ。俺に憧れてくれる冒険者も沢山いた。……俺の実力と余りにも乖離した周りからの期待。それに応えようと頑張っていたが、出来なかった。目標に届かないのに期待だけ高く、その後の依頼で全ての人を助ける事が出来なかった。目標としていた誰をも守る心の強さ。それを手に入れられなかった。諦めてしまった。それが俺が冒険者を辞めた理由だ。フラムは俺と似ているところがあると思っている。俺はできなかった。アドバイスも出来ない。ただ、フラムには夢を叶えてほしいと思ったから話したんだ」
「おじさん……」
フラターの想い。成し遂げられなかった夢。
今のフラムに近過ぎるのだ。そのためフラムはフラターの気持ちが痛いほど理解できた。
このままだと同じ道になる。
2人はそう思ったのだ。
「……話してくれてありがとう。私、多分おじさんと同じ道を歩んでる。旅の目的も同じだし、考え方も似てる。私は私なりにだけど頑張ってみようと思う。……話してくれてありがとうね」
フラムは決意を固めた。何をしていいかは分からないけど、フラターが話してくれた事を胸に刻み自分に負けないように頑張ろうと思ったのだ。
今まで誰にも話さなかった事を自分に話してくれた事。それが嬉しかった。素直な気持ちでお礼を言うと自然と柔らかい笑みが溢れたのだった。
「おぅ、頑張れ!まずは残りの依頼もやらなきゃな。他にもあるんだろ?」
「そうだった!行ってくるわね!」
フラムはそう言うと鍛冶屋へ走り出した。
フラターはそれを見送ると満足そうに笑うのだった。




