48.乗船券
ながながと港町にいます。
王都までの旅費を考える回です。
何事も計画大事ですよね。ほんとうになにごとも……
朝ごはんを食べたエイシェルとアリスはこの後について相談する。
「今日どうしよっか?もう今から依頼達成の報告しに行く?どの道馬車を捕まえないといけないけど……」
「そうだな……。馬車を探すのも大事だけど、王都方面行きの船も見ておきたいんだ。どれだけ旅費で資金を集めればいいのか確認しておきたい」
ギルドへ依頼達成の報告に行くのにも移動で一日潰れてしまう。
折角港町に来たのだからせめて情報収集をしてから帰らないと時間が無駄になる。そう感じたエイシェルは船の確認を提案した。
「それもそうね……王都に行くのが今の目標だもんね。まずは船を見に行きましょう!」
遅くなればなるほど帰るのが遅くなってしまう。2人はテキパキと自分の荷物を纏めて宿を後にした。
……余談だが、エイシェルは宿を出るときに料理長からここで働かないかと勧誘されていた。エイシェルが断ると料理長はすごく残念そうな顔をしてエイシェルを見送るのだった。
エイシェルとアリスは船着場へと着き物珍しそうに辺りを見回した。
「はぁー……こんな大きいものが水に浮くのか……」
「話には聞いてたけど……どうなってるのかしら……魔法……じゃないわよね……?」
エイシェルもアリスも船を直接みるのは初めてだった。
船自体初めてみるのに王都行きの船を見たため軽く想像できる範疇を超えていたのだ。
王都方面とこの港町の間では途中で補給するような陸地がない。そのため、1週間は航行出来るように食料や必要な資材を船内に蓄えておく必要がある。
さらに一度に100組は乗れるように設計されているようで客室もその分完備している。
客室一つ一つも大きく、家族連れに対応できる設計になっている。
そのため、とても巨大な船になっているのだ。
「これ……乗るのに相当お金が必要なんじゃ……」
「そ、そんなはずないと思うんだけどなぁ……。お父さんが王都で働いてて、いつもこれに乗って帰ってくるって言ってたから……」
誕生日前に帰ってきた時にも船に乗ってきたと話していた。
アリスの父親は帰る時はもっぱら船を使っていたのだ。
「お父さんが陸路で行く10倍くらいっていってたから……馬車に乗るのって一度に銅貨3枚とかじゃない?1日平均2回馬車を使ったとしても……60回乗ったとして金貨1枚と銀貨8枚ね……。だから、そこまで高くならないと思うのよ。仮に60回って言ったけど、絶対60回も乗らないと思うし。そこに宿代とか含めても……陸路は節約すれば金貨5枚程度には収まるんじゃないかな?だから一人当たり金貨50枚くらいじゃないかな……それでも高いわね……」
「メルカさんから貰った金貨5枚が大金に見えたんだけどなぁ……。それ聞いちゃうと船は手が出せない気がしてくる……。陸路も検討し直しか?」
「まずは実際の金額見てみましょう?もしかしたら全然安いかもしれないし」
エイシェルとアリスは実際にかかる金額を確認するため、乗船券を販売している場所を探した。
船の周りを少し探して歩くと小さな建屋を見つけた。
「船着場総合案内所……ね。たぶんここね……」
「……他にそれっぽい建物ないもんな……」
アリスとエイシェルは少し困惑していた。船が立派なのにもかかわらずその乗船券を扱う建物が想像よりも小さかったからだ。
実は違うところかとも思ったが他に乗船券を取り扱いそうな場所が無かったため2人は入ることにした。
2人が入るとカウンターに受付が1人座っていた。見るからに暇そうにしているのが伝わるくらいだらけている。
受付が2人に気づくと慌てて座り直した。
「……はい。どのようなご用件でしょうか?」
何事もなかったかのように話し始める受付。
エイシェルもアリスも気にしてはいけない雰囲気を感じたため、特に何も言わなかった。
「えぇと……おれたち王都に行こうと思ってるんだけど、王都方面行きの船のチケットの値段を確認しようと思って来たんだ。あと、この港からどのくらいの頻度で王都方面の船が出ているのかも確認したい」
エイシェルは目的を簡潔に伝えた。試算の段階で今買えるとは思ってなかったので、次にいつ出発するのかも確認しておきたかった。
「あぁ、そういうことですね。おふたりは冒険者ですか?」
「ん?はい、冒険者登録しています」
「それではランクを確認させてください。冒険者の方はランクに応じて値引きをしているんです。航海中は魔物が出る事もあるのでその時に戦っていただく事が条件になります」
これは嬉しい誤算だと思ったエイシェルだったが、所詮Eランクのため対して安くはならないんじゃないかと思い直す。
「わたしたち、まだEランクなんですけど……どうですかね?」
エイシェルと同じことを考えたのか、アリスがダメ元という感じで受付に聞く。登録すれば誰でもなれてしまうので値引き自体あるか怪しかった。
そして、予想は的中する。
「Eランクでしたか……。申し訳ございません。値引きの対象はCランク以上とさせて戴いております。……そうなりますと一般の乗船券になりますので……おひとり当たり金貨150枚になります」
「はぁ!?そんな高いの!?」
試算の3倍の値段にアリスが叫ぶ。
無理もない。父親が毎回船を使って帰ってきているのだ。
家庭的にお金に困ったことはないが、それにしても高すぎる。
もし家に帰ったら父親にしばらく帰って来なくていいと言ってしまいそうな金額であった。
ちなみにエイシェルはあまりの金額にフリーズしている。
「はい。この価格で提供してます。……冒険者の方であればランクをあげれば安くなりますのでご参考に……Cランクで金貨100枚、Bランクで金貨75枚、Aランクで金貨50枚となります。」
アリスの試算はAランク冒険者に相当するらしい。こうなると利用する人がいないんじゃないかと思ってしまった。
そう、利用する人が少ないのだと。
(この金額で、さっき入ってきた時の受付の人の態度……船ってみんな使わないのかしら……?もはや貨物船?お金を貰って冒険者に護衛をさせてるのでは……?)
アリスは核心に迫っていた。
これだけ高いと船を利用するのは余程お金に余裕がある人か、急いでいる人である。
おそらく客室に運搬する貨物を置いて物流がメインになっているのだとアリスは推測した。
(わたしたちのランクはE……Cって確か……単騎で複数の魔物の討伐が出来ること……だったわよね……Dランクになるのもまだまだ依頼件数足りないのにいつになるのやら……)
アリスは半ば航路を諦めていた。ここまで高いと資金集めだけで何年もかかってしまう。それなら多少お金を貯めれば1ヶ月で着く陸路の方が良いと考えたのだ。
そんなことを考えていると受付が補足する。
「あぁ、忘れてました。ランクAの人の付き添いであれば追加で2名まで金貨50枚で乗船できます」
そんな都合よくランクAの知り合いがいるか!とアリスは内心悪態をつく。
「あとは……出航のスケジュールでしたっけ?わりといい加減なのですが、だいたい毎月1往復しています。……今回ですとそうですね……。到着したばかりなのでまだ具体的な日程は出ないのですが、出発まであと10日から15日はかかると思います」
アリスはもう陸路で行く案を考えていたため、話半分に聞いていた。
「そうなんですね。ありがとうございました。少し検討してみます。エイシェル、行きましょう?……エイシェル?」
ここで得られるものはもう無いと思ったアリスは案内所を出ようとするが、エイシェルが固まったままであった。
「とぅ!いたっ!?」
「いて!」
固まっていたエイシェルにいたずらしたくなり、アリスがエイシェルの頭にチョップする。……そして自爆した。
ここ数日、痛みを共有する事がなかったため完全に忘れていたのだ。
「ごめん、こんな強くやるつもりはなかったの……」
「い、いや、ぼーっとしてたおれも悪かった。とりあえず出ようか」
チョップした側なのに何故か頭を押さえるアリスをみて、受付は不思議に思うのだった。
次回はやっと帰り道!




