4.親の仇
『ミツケタ』
オージンの言葉は魔物によって遮られた。
「「!!」」
霧が完全に晴れたところで魔物が"言葉をはなす"のが聞こえた。その目の先にエイシェルを捉えながら……。
「あの魔物……喋れるのか……?」
『ソコノコゾウ、ココデキエテモラウ』
魔物が大きな身体とは裏腹に素早く動き出し一気に迫る。しかし、エイシェルは魔物が言葉を話したことに驚き身動きが取れなかった。
「……っく!!」
「させるかよ!!」
オージンが槍で魔物を迎え撃つ。目にも止まらない槍捌きで、……いや、目にも"止まらなかった"であろう槍捌きで魔物とやり合っている。
その隙に急いで魔物から距離をとり弓を構える。
(なんだ……さっきから感覚が違う。身体がよく動くとかじゃない……どう動けば良いかイメージが湧いて身体がイメージについて行く……?)
パシュッ
即座に放たれた矢は魔物の足に命中した。オージンの槍捌きを去なすにはしっかりと踏ん張らないと対応出来ない。そこで注意が向かなくなった足を狙ったのだ。
しかし……
ガキンッ
刺さるはずだった矢が魔物の肉体に弾かれる
『……ホウ、コノタンジカンニジョウキョウヲヨミ、コウドウニウツシタカ。ダガ、ソンナモノデハワタシヲキズツケラレヌ。……ソコノヤリツカイ、ウットウシイワ!!』
魔物が槍を弾きオージンを蹴り飛ばす
「ぐふっ……!」
「おっちゃん!!」
『ツギハオマエダコゾウ!』
魔物が凄い勢いで迫ってくる。
どうする、矢は効かない、おそらく生半可な物理攻撃は通用しない……。2年前あのバケモノは傷を負って逃げた…… 両親はどうやってこのバケモノを傷つけた……?
(魔法か……!!だから2人は出し惜しみせず全力で魔法をぶつけたのか……!?でも、2人で全力を出しても倒しきれなかった相手だ。オージンさんは魔法はからっきしって昔に言ってたし……俺一人で何ができる……?)
オージンが突き飛ばされてから数秒の間に核心に迫るエイシェルだったが、あと一歩足りない。その間にも魔物は迫りその大きな腕を振り翳していた。
「やめろおおぉぉぉ!!」
吹き飛ばされたばかりのオージンが不安定な体制のまま槍を魔物目掛けて投擲した。槍が到達すると同時に腕を振り下ろした魔物は投げられた槍に気付くことなく背中から心臓を貫かれた。
『ナニ!!?……キサマ"ラ"……コシャクナ……!』
エイシェルは魔物に蹴り飛ばされていた。魔物が腕を振り翳した時に矢を同時に二本構え両目を狙って矢を放ったのだ。
いくら魔物が頑丈とはいえ、目は無事では済まないかもしれない。たとえ目も傷一つつかないとしても視界が矢でいっぱいになったらその瞬間は何も見えない。その隙に少しでも距離を取ろうと考えたのだ。
結果、魔物は矢を振り払い代わりにエイシェルを蹴り飛ばす選択をしたのだが、背中から槍が刺さったことで思った力が出せず、エイシェルは致命的な状況だったにも関わらず即死は免れることができた。
『キサマ……!!コノヤリハナンダ!!ナニモノダ!!』
「心臓貫かれてピンピンしてるやつに言われたくねぇなぁ……いくら魔物でも心臓潰れて生きてるなんて聞いたことがねぇ」
(魔物とオージンさんの問答が聞こえてくるが会話の中身が頭に入ってこない。蹴りは予想してたが一瞬呼吸が出来なくなるとか……俺にとっては十分なダメージだ……意識が朦朧としてくる……)
意識が飛びそうな中、再び夜空を見ていた時に見た会話のイメージが流れ込んできた。今度は鮮明に……
※ ※
『誓おう。勇者の名に賭けて』
『あぁ……お前を信用しよう。ヒト族でこの魔王を味方に付けたのはお前だけだ。』
『これよりジェミニの魔法を発動する。これからは一心同体。生命力は共有され、身体的痛みも共有される。片方が肉体的に滅びればもう片方も滅びる』
『『全てはこの星の為に』』
※ ※
なんだこれは……何もかもわからない。だがあの魔物を消し去る方法はわかる。イメージが流れ込んでくる。
星座を冠する魔法。かつて勇者に与えられたと言われる12の魔法。その中でも神をも殺したと言われる星座の魔法。
「スコーピオ」
気づけばエイシェルはその名を口に出していた。この星座魔法だけでは何も起きない。
とある魔法の封印が解かれるだけだ。その魔法を使えば対象は肉体が滅び2度とこの世界に関わることができない。
「ルミナレクイエム」
エイシェルの生命力が魔力に変換され、魔法を発動させた。生命力が急激に消費されていくのと同時に魔物は闇に包まれ徐々に小さくなっていく。
『ナニッ!!?コノチカラハ!!バカナ!!アノカタモスデニメザメテイタノカ!!……テオクレダッタ……コレデハ…タダノドウ…ケデハナイカ……』
カランッ
刺さっていた槍を残して、魔物は闇に包まれて消滅した。
「倒せた……の…か……」
エイシェルは魔物が消滅したのを見届け、そのまま意識を失った
「エイシェル!」
オージンさんがエイシェルに駆け寄る。その手には地面に落ちていた筈の槍が握られている。
「……驚いた。あれだけの魔法を放っても生きてやがる」
オージンはエイシェルの容体を確認し、安静にすれば問題ないことが分かるとエイシェルを担ぎ家まで送った。ただ、猿の魔物が現れたことで村はまだ混乱している……脅威が去ったことを村人みんなに説明して回らないといけなさそうだ
「ったくよぉ……こんな夜中じゃなくても良いのによぉ……」