112.続ランクアップ祝い
店に着いた一行は見知った顔に出会った。
「おや、先程ぶりですね。……といっても冒険者の皆さんがここに来るのは当たり前でしたね」
そこには船で別れたはずのメルカがいた。メルカはエイシェル達が倒した猿の魔物の素材を持ち込みに来ていたようだ。この素材を使って何か防具など作れるものなのか、作るとしたら何を、どれだけ、いくらで作れるのかを確認してもらっているらしい。
メルカはここにいる理由を簡単に説明した後に、そういえば思い出したとばかりに言葉を続けた。
「……そうだ!皆さんBランクに上がったんでしたね。是非お祝いをさせて下さい」
メルカの提案に4人は顔を見合わせる。会うたびに良くしてもらっている為少し申し訳なかった。
「いいんですか?メルカさんにはいつも良くしてもらってるのでそれで十分な気が……」
4人を代表してフラムが答える。他3人の様子を見る限り皆同じ考えのようだ。そんな4人を見たメルカは苦笑しながら答える。
「皆さん慎ましいですね……。考えて見てください。私は皆さんに2回命を助けられているんです。最初はカスース町からパエニンスラ港町への護衛の時。次は船の上です。こちらとしては護衛の時のお礼すらしきれていないんですよ?なので、遠慮しないで欲しい物を言ってくださいね」
そこまで言われてしまったら断るのは失礼だろう。改めてお礼を言う4人。何にしようかと考えたところでエイシェルから声が上がる。
「なぁ、フルームの剣を新調してもらうのはどうだろう?」
「え!?そんなの悪いよ!」
エイシェルの提案にフルームが驚き声を上げる。フルームとしては自分の取り分から剣を新調する費用を出そうと考えていたのだ。
もっとも、そうしようとしたところで他の3人が反対しみんなで出し合う事になっていただろうが…….。
そうである事を示すようにアリスがエイシェルに続く。
「悪くないでしょ?フルームが頑張ってくれたからあの魔物を倒せたんだし」
「いや、私、吹っ飛ばされて寝てただけだよ……?」
「私がこう言うのはおかしいかもしれないけど……、おかげで私はあの魔法の剣の使い方が分かったから、倒せたのはフルームのおかげよ?」
「フラムの言う通りだ。フラムが足止めしてくれなかったらあの魔物には逃げられてた……だから、パーティとして今最も必要なものはフルームの剣だと思う。メルカさん、お祝いはフルームの剣をお願いします!」
「みんな……。うーん、そういうことなら、ありがとう」
フルームは釈然としない顔をしていたが、アリス、フラム、エイシェルが譲る気はないという態度でいたため諦めたようだ。
そんな様子をメルカはこれまた苦笑いをしながら見ていた。
だいたいの冒険者は自分の利益を優先する。それもそのはず、危ない橋を渡って依頼をこなしているのだ。実際に命を落とす冒険者もいる。そんな仕事をしているのだから報酬として何か貰えるとなった場合に、我先にと報酬の希望を言うだろう。
しかし、エイシェルたち4人はどういうわけか欲がほとんど無いように感じられる。言ってしまえば冒険者らしく無いのだ。それはメルカにとってとても好ましかった。
もちろん、4人がそれぞれ欲しいものを言ったとしてもメルカは喜んで全ての希望を叶えるだろう。むしろ最初はそれを望んでいた。しかし、4人とも仲間どころかメルカにすら気遣う始末。今時珍しい若者達と言うこともあり、メルカは意地でも何かをあげたくなっていたのだ。それは単純な奉仕の気持ちではなく、縁を大切に今後も末永く付き合いを続けたいと思ったからである。
そんな思いからメルカは4人の会話に続けて話す。
「皆さん遠慮しすぎですよ。剣は分かりました。フルームさんが選んだ剣を買いましょう。ただ、それだけでは私の気が済まないです。他に何か無いですか?」
剣だけでは気が済まんとメルカは他にないかと4人に訊ねる。フルームは剣を貰うからといい他の意見がなく、フラムもフルームの剣を理由に追加の希望はなかった。アリスも少し悩んだようには見えたが特に無いらしい。
そんな中エイシェルがメルカのそばまで歩いてきて何かを耳打ちした。すると、メルカが何やらニヤニヤしながら快く承諾したような素振りを見せた。
「さて!他には良いですか?ちょっとだけ外に出る用事を思い出しましたので、また何かあれば後で教えて下さい。では、フルームさんも後ほど買うので欲しい剣を選んでおいてください」
そう言うといそいそと外へ出ていくメルカ。メルカは思い出したと言っていたがエイシェルが何か言った後に外へ出た為、エイシェル関連なのはバレバレなのであった。
「エイシェル何お願いしたの?」
「いや、ちょっと恥ずかしいんだが……。携帯用の小さくなるフライパンとか無いかなって。調理器具ってかさばるからどうしても長距離移動中は料理が作れないから。なければないでいいんだが、もしあればって思って」
アリスが質問するとエイシェルはそう答えた。今までも道中で空腹になった時にキノコなど食材がそこらに生えている事があった。ただ焼いて食べたこともあったがせっかくなら美味しくいただきたいのだ。
「いいわね!もっと畳める鍋とかあればいいのに」
「エイシェルの料理が食べられるなら全力で探さなきゃ」
「こればっかりは私も同意するわ。手伝えることは言ってね」
「お、おぅ……」
まさかの反応でたじろぐエイシェル。アリスとフルームならまだ分かるがフラムまで乗って来るとは思わなかったのだ。エイシェルはたまに料理を3人に振る舞っていたが、どれもそこらの店より美味しい。むしろ店で食べると残念な気分になりエイシェルの料理が恋しくなる時もある。それ程にエイシェルは3人の胃袋を掴んでいた。誰しもおいしい物を食べたいと思うのは当然である。もしかすると食は究極のコミュニケーションツールなのかもしれない。
エイシェルはそんな事を思いながら剣を選びに行こうと言う3人について行くのだった。




