11.地獄と天国
続アリスのターン
慈悲などない
夕食はパンとシチューだった。この宿では日によって食事のメニューが異なり、宿泊客は皆同じものを食べているようだ
(美味しそうじゃない。おなかぺこぺこだけどゆっくり味おう)
「いただきます!」
アリスはスプーンでシチューをすくい口に入れた瞬間大変なことになった
「!!??かっっっらぁぁああ!!!」
見た目のクリーミーさに反する辛味を強烈に感じた
「ぁ……み、みずぅ………」
アリスはコップの水を一気に飲み干した。それでも緩和されない舌の、いや、口全体に広がるヒリヒリ感
「す、すみません!お水ください!出来るだけたくさん!!」
アリスは店員さんに涙ながらに懇願し、できる限りの水を出してもらいがぶ飲みした。
「ひぃ……ひぃ……なんで……あぁぁ……」
(しゃべるだけで口の中が刺激されて痛いんですけど!!!私が何をしたの!?嫌がらせなの!!??)
アリスは辛いものは得意ではない。むしろ極力避ける程苦手である。今まで経験したことの無い辛さに全身から汗が吹き出す
(辛い辛い痛い痛い!!……ん?痛い?)
アリスは気づいた。気づけば対処は簡単である。
「ひーぅ(ヒール)」
呪文を唱えると辛みが急に和らぐ。
それでもまだ少し残っているのは呪文の発音が正しく無いからか、辛さが異常に強かったからか……アリスにはわからなかった
「はぁ……はぁ……はぁ…………これは……あれよね……」
アリスは自分の推論を確かめる為に恐る恐る再度シチューを口にした
「!!?お、美味しいぃ……!」
アリスの目に自然と涙が溢れた。そして食に感謝した。
ただのシチューでは無い。バターがふんだんに使われているだけでなくチーズも溶け込みシチューのコクをより濃厚にしている。そこに粗くすり潰した胡椒が味のアクセントを醸し出す。
パンにも手を出したがこちらもバターをふんだんに使ったであろう甘味が押し寄せるが、ふんわりとした優しい食感がこの甘味を緩和し、しつこく無い絶妙なバランスを生み出す。
焼き加減も完璧で香ばしい香りも口の中に溢れる。
「ぅ……ひっく……おいしいよぉぉ……」
泣きながら食べるアリス。
その様子に他の客や店員は………
ドン引きしていた!慈悲はない!
当たり前である。突然水をがぶ飲みし出し、急に泣き出すのだ。
あるものは「そんなに貧しい環境だったのだろうか……?」と憐れむ始末だ
「……ご馳走様でした」
アリスは食べ終わると言葉少なげに食器をカウンターに返した。
そのまま部屋に戻り部屋の扉を閉め
パタン
「わあああああああああああ!!なんなの!!恥ずかしすぎでしょ!?なに泣いてるのよわたし!!」
悶絶していた。
仕方がなかったのだ。今まで経験したことの無い辛さに理性など吹き飛び、満身創痍であんなに美味しいものを食べたら涙も出る。
「そして、なにしてくれてるのよ……向こうは……!!」
全ての原因に対して怒りを隠せないアリスだったが、落ち着いて考えた
「……というか、辛味って"痛覚"だったんだ……いや、たしかに知らなかったけど…………知らなかったからと言って許せるかぁあ!!」
落ち着いたところで無駄であった。
ここまでの醜態を晒すなんて初めてである。
「あーもう!また汗だくじゃないの!!うぷっ……水飲みすぎた……」
昨日は旅に出る前にさっぱりリセットしたのにまたベタベタで気持ち悪い。
ただでさえ長距離を移動して早くさっぱりしたかったのに最悪である。
そして水飲みすぎておなかタプタプなのも不快の要因だった
「……うぅ……わたし……挫けないんだからぁ!…………とりあえず、お風呂入ろう……」
ぶっちゃけ心の支柱が何本か折れたがなんとか踏みとどまった
気持ちをリセットするためにも心身洗い流しに行くアリスであった
ところどころ厳密には辞書と違う意味で使う言葉がありますので、ご了承下さい。ただ、現代日本で一般的に広まっている使い方をしているつもりです




