108.色
エイシェルたち4人は港町に着くや否やあやしい集団に出くわす。
そんな中出会ったステラに声をかけられ、ステラが経営する道具店に連れて行かれたのだった。
「ここまで連れてきたのはいくつか理由が重なったからだよ。キミたちあの船から降りてきたよね?あの定期便は本来魔物に襲われる筈がないんだ。襲われないような魔法がかかっていると思ってくれていい。それなのにあんなにボロボロになって戻ってきた……。最初は船で何があったのかを聞きたくて近くにいたキミたちにその場で話を聞こうと思ったんだけど、事情が変わったからね」
「事情……あの集団の事ね」
「それもあるね。話した通り、あいつらは国王直属の部隊で表立ってできないような事をやってる集団なんだ。それがこのタイミングで来たら船に乗ってた関係者は残らず拘束されると思うでしょ?そんな事になったら話も聞けないし、キミたちもめんどくさい事に巻き込まれそうだと思ったからここまで来てもらったわけ」
ステラが説明を始めると真剣な表情で聞き入る4人。
途中フラムが合いの手をいれつつ話が進む。
ステラによると普段魔物に襲われないはずの船がボロボロになって戻ってきており、船で何が起きたのか話が聞きたいのだと。ただ、国王部隊が現れた為、話が聞けなくならないように、また、エイシェルたちを思って店まで連れてきたと言う事だった。
4人は顔を合わせてステラの話を信じて良いものか困惑していた。
話の筋は通っているがいくつか不自然な点があるのだ。
そこへアリスが質問をする。
「いくつか質問をしたいのだけどいいかしら?」
「いいよ?ボクに答えられる事ならね」
「まず、なんでわたしたちに話しかけようと思ったの?」
「ん?さっき言わなかったっけ?たまたま近くにいたキミたちに話しかけたって」
「そうなんだけど、わたしたち船を降りてから結構な時間話してたはずだから、他の人に話を聞くとか、もっと早くわたしたちに話しかけるとかあったと思うの。なんであのタイミングだったのかなと」
アリスは思った事をそのまま口にした。
ステラの説明は筋が通っているように思えるが、タイミングが良すぎるのだ。
それこそ船から降りてきた事を知っているならば、アリスが派手に転んだところからその場にいた可能性が高い。
それなのにも関わらず、4人の話し合いが終わり、あの集団が現れるまで待っていた事になる。
それは始めから4人を狙っていた事を意味する為、アリスとしては確認しておきたかったのだ。
しかし、ステラの回答はあっさりした物だった。
「あー、それはあやしく思うよね。多分気付いてないと思うけど色々な人に話しかけてたんだよ。忙しいからと断られたり、機密情報だとかで断られたりね。そんなこんなしてたらもう聞けそうな人がキミたちだけになったわけ」
どうやら色々な人に話しかけていた為に時間がかかったとのことだった。
それでたまたまあのタイミングで話しかける事になったらしい。
「……ボクだってちょっとは気遣ったんだよ。明らかに観光したいです!って感じ出してたから邪魔しちゃ悪いなって。でも、あのままほっといたら観光も出来なくなりそうだったから連れてきたんだ。こんな説明だけど納得してもらえたかな?」
「そういうことなら……分かったわ」
ステラの説明を聞きアリスは声をかけたタイミングが良すぎたのは偶然としてひとまず納得した。
ただ、それ以外にも引っかかることがあり追加で確認をする。
「あとは……わたしたちをここへ連れてきた理由としてあの集団がきたからって聞いたらそれもあるって言ってたけど、それもって事は他にも理由があるの?」
「それはおれも聞きたかった。むしろ集団から逃げる方がついでっぽく聞こえた」
「あー、そうだね。無意識というかなんというか……うーん、それも理由なのかなー?単純に興味があったからかな?」
アリスとエイシェルが問いかけるとステラから歯切れの悪い反応が返ってきた。
しかし、ステラは少し考えた後はっきりとした口調で話し始めた。
「……うーん、別に隠すことでも無いから話すよ。ボクはね……魂が色でわかるんだ。それで、2人から2つずつ違った色が見えたから気になって。あ、でも近付いて初めて気付いたんだよ?最初から分かってたら最初に声をかけてたし」
ステラの話を聞いて衝撃を受けるエイシェルとアリス。
それもそのはずである。今までは勇者と魔王の魂の存在を自分たちの中にあると分かってはいたものの、その存在は極めて曖昧な物だった。
それを何も知らない第三者から存在すると言われたのである。
驚かないはずがない。
「魂が2つ?それってエイシェルとアリスの中に別の人がいるって事?」
「二重人格みたいな感じ……?」
ステラの説明についていけてないフラムとフルームは自分なりの解釈で確認する。
エイシェルとアリスはまだフラムとフルームに勇者と魔王が中にいることを伝えていない。
恐らく2人はエイシェルとアリスが勇者と魔王の生まれ変わりだと考えている。
その為、いきなり魂が2つあるとか言われてもイメージがつかないのだ。
「あー……そのことなんだけど、2人にはまだ説明していなかったわね。あのイカの魔物と戦っている時に分かったのだけど、フラムの言う通りわたしもエイシェルも身体の中に……別の人がいるみたいなの。あ、でも勝手に出てくるとかは無いから安心して」
あえて内容をぼかして表現するアリス。
ステラがいる手前勇者だの魔王だの明言は避けるべきと考えたのだ。
以前フラムとフルームへ旅の目的を説明した時に勇者と魔王の話は仄めかしており、生まれ変わりではないかと話はしていた。
その為か、フラムもフルームもアリスの意図を汲み取り黙る事にしたのだ。
アリスがエイシェルと自身の中にもう1人ずついることを答えるとステラが急に喜びだす。
「ほんとっ!?いやーこんな人初めて見たから合ってるか半信半疑だったんだよね。そうかー合ってたかー。あ!それならさっきの転魂箱はいかが?箱を通してなにか質問できるかも!」
ステラの提案に顔を見合わせ頷くアリスとエイシェル。確かに真実を知るなら本人に聞いた方が良い。本当に機能するのかは分からないが2人にとって悪くない話だった。
「そうね……本当に使えるのであれば気になるわね。ちなみにいくらなの?」
「金貨10枚」
「「たかっ!?」」
「えぇ!?この値段でも結構抑えたつもりなんだけど……」
エイシェルとアリスが興味を持ち、アリスが代表して値段を聞く。
するとステラから予想の10倍ほどの回答が返ってきた為、アリスだけでなくエイシェルまでも驚き声を上げる。
その反応を見てステラがさらに驚くのだった。
魂を一時的にでも移す箱である為頑丈に作る必要がある。そうなるとより強固な素材を選び加工しなければならない。
そのような素材を加工するためには特別な工具で加工する必要があり……そのように雪だるま式に費用がかさむのだ。
さらにステラの技術料を加えるともっとかかるはずだが、あまりにも高くなってしまうため技術料を抑えた値段で金貨10枚である。
これが売れるのと売れないのとで今月からの生活が大きく変わる為ステラは必死に考える。そして考えた結果ある提案をした。
「分かった!きっと本当に使えるのか分からないから迷ってるんでしょ?それなら、もし動かなかったら全額返金するのはどうかな?あぁでも質問の回答が思った回答じゃなかったとかそういうのはやめてね。あくまでちゃんと機能するかの保証だよ」
「うーん……それなら……でも高いなぁ……」
ステラの提案にアリスが渋る。
乗船券を買った余りを4等分しようと考えており、一人当たりの持分が金貨30枚ちょっととなるのだ。
これからいろいろ観光しようとしていたところに大きな出費である。
商品の内容が胡散臭すぎるため、騙されないようにとより慎重になっているのだ。
アリスがそんなことを考えているとエイシェルが少し考えてから言った。
「ステラもこう言ってるし買ってみないか?後で分ける時におれの分も減らしてくれていいし」
エイシェルはこの摩訶不思議な道具を使ってみたいと思った。ステラが言う事に悪意を感じられず、本当に問題があったら返金してくれると思ったのだ。
「エイシェル……あなたこんなに怪しい店主の肩を持つなんて結構なお人好しね。……でも私も同じ意見よ。みんなで買いましょう?」
「さんせー。まだお財布ひとつだからパッと払っちゃおうよ。その代わり使う時はみんな一緒の時ね」
「みんな……。それじゃこれひとつ貰うわね」
エイシェルの発言にフラムもフルームも乗った。今となっては全員がその効果を気になっている為だ。
フラムもフルームも明言はされていないものの十中八九勇者と魔王に関連する事だと考えている。そんな伝記に書かれるような人の話が聞けるかもしれないのだ。そう考えると金貨10枚など安いくらいである。
アリスが購入の意思を伝えるとステラは一瞬何が起きたのか分からないような顔を浮かべ少し固まっていた。しかし、商品が売れることが分かるとステラの時が再び動き出した。
「ほんとに?買ってくれるの?」
「えぇ、その代わり使えなかったらお金返してよね?えっと……はい、金貨10枚」
アリスは財布から金貨10枚を取り出しステラへと渡した。金貨を受け取ったステラは代わりにと転魂箱をアリスに渡す。
「もちろん!不良品は現物と引き換えで返金するよ!……やったぁ……自信作だったんだこれ。売れたよぉ……これでしばらく害獣駆除のクエスト受けなくても生活出来るよぉ……」
商品が売れた瞬間に泣き出すステラ。余程生活に困っていたようだ。
「それじゃ行くわね。変な連中から逃げさせてくれてありがとう」
「元気でな」
「お店頑張ってね!」
「助かったわ」
「うん!買ってくれてありがとう!また来てね!」
エイシェルたち4人はステラが感極まっているところに挨拶し店を出る。
ステラもしっかりとお客様になった4人を笑顔で送り出したのだった。
「……あれ?なんか忘れてるような……」
ステラが船での話を聞きそびれたと嘆くまでに時間はかからなかった。




