107.ステラ道具店
ステラと名乗った人物について行くと人通りの少ない裏通りに案内される。
景観はそこまで悪くはないが建物の影になっており、暗い印象の通りだ。
しかしながら治安は悪くないらしく道にはゴミ一つ落ちていない。
隅々まで手入れが行き届いており流石は王都の玄関港と言えた。
そんな裏通りを進むと小さな店が4人の目に入る。
こぢんまりとした店だが外観は綺麗で2階のベランダに置かれている花もしっかり手入れされている。
「着いたよ。ここなら滅多に人が来ないからあまり大きな声で話せないような話も出来るんじゃないかな?さっきの集団のこととかね」
ステラはそう言うとそのこぢんまりとした店の扉を開けた。
店の入り口から中を見ると棚に物が陳列されているのが目に入る。物の数は多くないようだが綺麗に整頓されて置かれていた。
「えっと、ここはお店……だよな?」
「ん?見ての通り道具屋だけど?ほら、看板にも書いてあるでしょ?」
エイシェルの素朴な質問にステラが指を指して答える。
その指の先には看板が見え『ステラ道具店』と書かれていた。
ただ、エイシェルの疑問はそこではない。
「道具屋なのは分かるんだが、それならお客さんがくるだろう。あまり込み入った話しは出来ないんじゃないか?」
「それ、わたしも思った。お客が来た時は会話をやめればいいけど、そのお客がお店の外に出て盗み聞きをするとかもありえるんじゃない……?」
エイシェルの質問にアリスも便乗する。
フラムとフルームも頷いているところを見ると同じことを思っていたようだ。
「…………キミたちはヒミツの会話をどんだけ大声でやろうとしてるのさ」
ステラは少し呆れながらも、エイシェルたちの疑問はもっともである為、簡単に説明を始めた。
「まず、お客が来るかもってところだけど……来ない」
「えっと……なんで?」
「来ないから」
「いや、理由が知りたいんだが……」
「だから来ないんだって」
「どうしてお客が来ないんだ?」
あまりにもステラの説明が説明になっていない為アリスが訊ねる。
それでもステラの回答は変わらない。
エイシェルが理由を訊ねても来ないとしか回答がない。
エイシェルが食らいついて訪ねるとステラは少し声を荒げながら叫んだ。
「しつこーい!そんなのボクだって知りたいよ!!?お客が来なくて困ってるんだから!!」
「「「えー!?」」」
「し、しつこい……?」
密かにエイシェルは傷ついていたのだった。
ステラの話によると開店当初はポツポツとお店を訪れる人がいたらしいがひと月もしないうちにパタリと人足が途絶え、そのまま今の状態とのこと。
「ここの通りの建物みんな空き家になってるみたいで誰も通らないんだ……とうとう清掃員すら来なくなったからボクが定期的にこの通りを掃除してるんだよ……。絶対儲かるって言うからお店開いたのに……あの筋肉ダルマめ……!」
ステラはいつの間にか泣きながら説明していた。最後の言葉には恨みがこもっているように感じた。
どうやら誰かにそそのかされて道具屋を開いたが、お客が全く来なくなったと言うことだ。
悲しい理由だが来客は滅多にない理由が分かった。
「あぁ……ごめん。説明が途中だったね。お客が来ないのはこんな状態だからだよ。もうひとつの質問の外から聞かれないかだけど、この建物は防音性能が高いから、扉を閉めていればちょっと騒いだところで何も聞こえないよ」
「ぼーおん?」
「中の音が外に聞こえにくくなるってこと。逆も言えることだから、ほら、外の音何も聞こえないでしょ?」
ステラは防音性能を自慢げに話すが、4人の反応はいまいちだった。
それもそのはずである。
「……そもそもここ、外にいてもしずかだよね」
そんな中フルームがボソッとつっ込む。
それを聞いてステラは先ほどの話を思い出したのか涙目になるのであった。
「ち、ちなみにどんな商品を扱ってるの?」
「そうそう、お客さんが来なくなった理由考えてみない?ほら、フルーム!あなたも協力しなさい!」
「みんなの思いを代弁しただけなのに!」
「余計なことを言わないの!」
ステラが今にも泣き出しそうな顔をした為、アリスとフラムが急いでフォローしようとする。フルームが余計なことを言うがフラムによって制止される。
3人がそんなことをしている中、エイシェルはひとりショックを受けたまま立ち尽くしていた。
そんなエイシェルをよそにアリスがすぐ近くの棚から商品を拾い上げる。
「こ、この商品は何に使うの?なんだか小さな箱みたいだけど」
「あぁ……それは転魂箱だね。魂をその箱に移すことが出来るんだ。それでひとつだけ質問に答えて貰える」
「……え?」
「ヒトって不思議と自分の気持ちがわからなくなるんだよ。何かに迷ってる時にコレを使えば自分の本当の気持ちがわかるってわけ!……あー大丈夫だよ?身体から魂抜けたら普通死んじゃうけど、これは一時的に取り出すだけだから身体の繋がりは切れないよ?安全性は一番に考えて作ったからね」
ステラはアリスが手に持つ箱の説明をする。
ステラの説明によるとその箱の中に一時的に魂を移すことが出来るとかなんとか。
いきなりオカルトチックな説明を受けるアリス。
説明を受ける顔が引きつってしまうのは仕方の無いことであった。
アリスが困惑しているとフルームが商品を手に取りステラに訊ねる。
「ねぇねぇ、これは何?」
フルームが手に持っていたのは小さな瓶であった。
中には少量の液体が入っており、一見すると量が少ないポーションのようである。
「そっちはねラッキードリンクって言ってね飲むと一日いい事が起きやすくなるよ」
「いい事が起きやすくなる……?いい事が起きるんじゃなくて?」
フルームはステラの説明に疑問も持った。
それも当然である。効果があると断言せずに曖昧な表現をするからだ。
正直そんな説明をされると買う気にはなれない。
そんな事を考えているとステラから説明が入る。
「いい事って人それぞれだし、ようは気の持ちようなんだよねー。雨が降った後に虹を見たらなんだかいい気分になるでしょ?どんなに小さな事でもラッキーって気持ちになれるくらいの効力にしてあるんだ……もっとも、その気分になる為の出来事は起きないと意味がないから断言出来ないんだ。」
簡単にまとめると小さな幸せ発見薬というイメージの代物のようだ。
その説明を聞いたフルームは少し考えた素振りを見せ言い放った。
「……なるほど。ハイになれる危ない薬だ」
「違うから!?あんなものと一緒にしないで!?安心安全の薬だから!?合法だからね!!?」
凄い勢いで否定された。もし、そんな物を売ってると噂にでもなったら国の機関に目をつけられて店を続けられなくなってしまう。
例え店を続けられたとしても間違いなく望まない客が増えるだろう。
……客が増える分には悪くないのか?と一瞬考えたステラだったが、冷静になり健全な店にする事を心に誓うのだった。
ステラがフルームに対して必死に誤解を解こうとしていると今度はエイシェルが何かを見つけた。
「ん?これは……」
エイシェルは見覚えのある物を見つける。
それは毎日見ている物ではあったが、改めて見るとひどく懐かしく感じられる物だった。
「あ、それは最近作れるようになったんだー。ステルスシールって言ってシールを貼った人は誰からも視認されなくなる便利アイテム。効果は1時間、これ作るの苦労したんだよー」
「やっぱり、これと同じ物だよな?」
ステラの説明を聞いてエイシェルは確信する。
エイシェルは自分のポケットから2枚のシールを取り出す。
村を出発する前にオージンから貰ったものだ。
エイシェルはお守り代わりにポケットに入れていたのだ。
……濡れた時は乾かし、いつも肌身離さずに身につけるようにしている。
エイシェルが取り出したシールをみてステラは驚愕した顔をして訊ねる。
「それは!?……どこで手に入れたの……!?」
「おれが住んでいた村で道具屋をやってるおっちゃんに貰ったんだ。2枚しか用意できなかったって言われたけど……そんなに貴重な物なのか?」
「貴重っていうか……これを作れる人がいる事に驚きなんだけど。どんな人なの?」
「筋トレが趣味のおっちゃんだったな。見た目がもう道具屋とは思えないほどムキムキで、最初はちょっと怖かったけど、優しくて頼り甲斐があって村のみんなに信頼されてたな」
「筋肉……ふーん……そっか」
ステラはエイシェルの持つシールを誰が作ったのか気になり訊ねた。
エイシェルの回答を聞き少し思案する。
何か思い当たる事があるのかステラはニヤリと口を吊り上げて笑うのだった。
「もしかして知り合いとか……?」
アリスが横から口を出す。最近、世間は意外と狭い事を知ったアリスはもしかするとステラとオージンが知り合いじゃないかと思ったのだ。
しかし、ステラは首を横に振った。
「いや、そんな村の道具屋は知らないよ。ちょっと筋肉ムキムキな道具屋を想像して面白かっただけ。……キミ、そのシールはここぞの時に使うといいよ。ひとつ助言をしておくと、視認されなくなるだけだから音や匂いは消せないんだ。もともと視力が弱い獣とか相手にはあまり意味がないからね」
ステラはアリスの質問に知らないと言い、エイシェルに向き直った。
そして何故か助言を受けるエイシェルはちょっと困惑したものの頷き助言に耳を傾けるのであった。
「……えっと、そろそろ話してくれない?どうして私達をここに連れてきたのか」
やりとりをずっと見ていたフラムが痺れを切らして切り出した。
誰も通らない通りにある、あやしい商品が並ぶ店。
しかも見た目がエイシェル達よりも若そうなステラが店の主人である。
何か事情があるのは間違いない。
そんなあやしい人物に連れてこられたのだから警戒しないはずが無かった。
しかし、話が逸れて一向に戻ってこない。
話を聞いていてステラが悪い人には思えなかった為、何か事情があるのだと話を聞きたくなったのだ。
「あ、ごめんごめん。話逸れちゃったね。じゃあ始めようか」
ステラはそう言うと姿勢を正して話し始めるのだった。




