100.英雄
戦闘回続きです!
フラムはフルームの剣を持つと自分の剣に重ねてみた。
すると、驚くことになんの抵抗もなくフラムの剣に吸い込まれた。
(なに?この感触……これが……フルームの魔力……?)
いつも、アリスが入れてくれた竜玉の魔力を使っていた為わからなかったが、魔力にも個人個人で感触が違うようで、フルームの魔力はとても優しくフラムに馴染むような感覚があった。
(あの子ったら……魔力まで人に気を遣ってるのかしら……待たせてごめんね。もう大丈夫)
昔から姉のフラムは妹のフルームとなにかと比較されてきた。
剣術はもちろん、勉強や運動でも優越をつけたがる大人がいたのだ。
フェルスや騎士団員はみな優しくそんなことは無かったが、英雄パーティのひとり、フェルスの娘達とあっては世間的に注目されてしまうのだ。
そんな中でフルームは優秀だった。
剣術でもフラムの一歩先を行き、頭の回転も早く、運動神経も抜群。フラムはついて行くのが精一杯だった。
そんな中、伝記で読んだ魔法剣士の活躍。フラムは何かひとつでいいからフルームにない事をできるようになろうと必死に魔法関連の本を読み漁ったのだ。
だが、その時は練習をしても結果が出せず、ついには諦めることとなった。
そんな様子を見ていたフルームはいつの間にか、姉に気を遣ってなのか素なのか、ふざけたような気の抜けたような話し方をするようになっていた。
そして自分の訓練や勉強そっちのけでフラムと一緒に訓練することを選んだのである。
お陰でフラムはフルームと同じ実力を付けることができ、受け答えがしっかりとしている姉としての威厳を保てたのだ。
だが、フラムはフルームにはもっと実力があると考えていた為、その気遣いが苦しかった。
そのため、先日フルームが魔法で剣を出した時には悔しくもあり、嬉しくもあったのだ。
(やっと分かった。私に足りなかったもの。何事もフルームに追いつこうとして、姉らしくしようとして頑張ってきた。いつも不安ばかりで自分に自信なんてなくて……なりたい自分がぼやけてたんだ。……私はもう迷わない。フルームに負けたって構わない。姉らしくなくったっていい。私がなりたいのは……自分と戦える私だ!1年前の私よりも強く!1ヶ月前の自分よりも、1週間前の私よりももっと強く!……昨日の私よりもみんなを守れるくらいに強くなりたい!他の人と比べられるなんてどうでもいい!私は弱い私に勝つんだ!!)
フラムは手に持った剣を天に掲げ自分の魔力を込めた。
すると剣が光り赤い炎から青白い炎へと変化する。
まるでフルームの思いが詰まっているかのようなそんな剣であった。
「パパ!どいて!私が相手をするわ!」
「フラム!?フルームはどうした!?」
「あっちで休んでるわ!もう大丈夫!」
「そうか……だが、ひとりで行くのは危険すぎる。私も」
「巻き込んじゃうから下がってて!!」
フェルスに下がるように言うフラムだったが、フェルスは譲る気はなかった。
そんなことはフラムも分かっていた為、フェルスの話を遮り一喝する。
その気迫に押されフェルスは何も言えなくなってしまった。
「…………わかった。ただ、約束してくれ」
「なに?」
「……絶対に負けるなよ」
「……ふふっ。当然!」
そのやりとりを皮切りにフラムが突っ込んでいく。
先程のフラムの言い草からすると何やら近くにいると巻き込まれるものらしい。そのためフェルスは距離を取るようにと騎士団員に指示を出した。
「みんな!下がれ!フラムがなんとかしてくれる。今のうちに体勢を整えろ!こっちを終わらせたら後方の支援に行くぞ!!」
フェルスが触手の攻撃を弾き騎士団員に声をかけると統率の取れた団員達は瞬時に後方へ下がる。
それと同時にフラムが飛び込んでいった。
「よくもかわいい妹をいじめてくれたわね。……絶対に許さないんだから!これが私の今の実力!見せてあげるわ!!」
そう言うとフラムは魔力を操作する。
(全てはイメージと強い気持ち。ここ数日の特訓も無駄じゃなかった!全てはこの一撃に!)
「いっけええええええ!!」
フラムは剣を横から思いっきり振り切った。
触手はフェルスに弾かれた衝撃で天を向いており、フラムの剣は本来届かない距離にある。
しかし、フラムが剣を振った後には切断された触手と青白く燃えるその根元があった。
それはフルームの剣が振り切る瞬間に青白い光となって伸びたからだ。
その結果、フラムの剣は最後の触手を切り飛ばすことに成功していた。
ここ数日のことを考えれば分かることである。
フラムは特訓で魔力を好きな形に自在に操ることが出来るようになっていた。
それこそすごく長い剣のような形も練習にと作っていたのだ。
一方でフルームは魔力から物質の剣を生み出すことができる。
その2つが合わさればどういうことか分かるだろう。
土壇場で成功できたのはフラムとフルームの魔力が混ざり合ったからである。
既に物質化していたフルームの魔力と自在に操れるフラムの魔力とがうまく混ざり合った為に成せた技だった。
「お姉ちゃん……最高にカッコいいよ……!」
「……本当に、知らない間に子供は親を超えて行くんだな……。あの姿、まるでカレンのようだ……」
フルームはフラムの姿に心奪われていた。
かつての穴に落ちた仲間を見捨てたと言っていた姿は微塵も感じさせない、堂々とした騎士の姿がそこにあった。
フェルスもまたその光景に心を奪われていた。
フラムがいつの間にか自分を超える実力を持っていたことにも驚いたが、かつての仲間である魔法剣士のカレンの姿が重なって見えたのだ。
騎士団員もその姿に心を奪われていた。
束になっても抑え込むのに精一杯だった相手をただ横一閃薙ぎ払っただけで勝負をつけた。
その姿はまさに伝記で活躍する英雄そのものであった。
アリスは船の後ろでハクが追いつくのを待っていた。
「ん?あっちはフラムがすごいことしてるわね……さすが姉妹ってところかしら。……私もまだまだね」
フラムの活躍を横目で確認するアリス。
フルームと同じくアリスには考えもつかないような魔法の使い方をしていた為、素直に感心していた。
そうこうしているとアリスに向かってものすごい速さでハクが迫ってきた。まるで船ごとぶつかり沈めてしまおうとしているかの様に速度を落とす様子はない。
アリスは後ろを振り返りエイシェルが先程の位置から動いておらず、距離があることを確認するとハクへと向き直った。
「さて……このまま突っ込まれると流石に私も溺れちゃうかな。イメージの伝わる言葉ならなんでも魔法名になる。だっけ?理屈はわかるけどよくやる気になったわよね……アイスウォール!!」
アリスは魔法を唱えると目の前に分厚い氷の壁が現れた。
その瞬間目の前に迫っていたハクが氷の壁に衝突する。
ドオオオオオオオオン!
「うわっ!?」
その衝撃は凄まじく、高く水柱を上げるほどであった。
アリスが生み出した氷の壁のお陰で船に被害はなかったが、ぶつかった時の衝撃が凄まじく、打ち上がった水はまるで雨が降っているかのようになっていた。
そして、先程の衝撃でエイシェルが転び頭をぶつけて気絶していた。
「あら?エイシェルが倒れてる……。転んで頭でもぶつけたようね……大丈夫かしら……?」
アリスはエイシェルが倒れている状況を見て転んで頭をぶつけたであろうと推測する。
命に別状は無さそうなので目の前の脅威に向き直ることにした。
その時ちょうどハクが海面から顔を出したところだった。
氷にぶつかったハクは頭から血を流しながらもアリスを見る。
そんなハクに対してアリスは心底面倒臭そうな態度で話しかけた。
「はぁ、ハク?今私を狙っていたわよね?どういうつもりかしら?前の反応からして、私のこと分かってるんでしょ?」
「…………」
アリスの問いかけにハクはただアリスを見つめるのみで何も言うことはなかった。
ただ、その姿はどこか悲しそうで、そうしなくてはならなかったという雰囲気が出ていた。
「だんまりってわけね……それとも繋がりが切れたかしら?あ、そういえば雷属性魔法上手くなったわね。移動に使うとか普通考えつかないわよ?おっと!」
アリスはハクに向かって思っていることをただ話していた。
ハクも最初は話を聞いていたが、目的を達成するべく、再びアリスに向かって攻撃を始める。
ハクの魔力により雷が現れアリスに向けて放ったのだ。
しかし、アリスの目の前に水の膜が展開され雷がアリスは届くことはなかった。
「……ちょっと、まだ話途中なんだけど……本気で私と敵対するのね……?いいわ。もう終わりにしましょう。さようなら。ヘルフレイム」
アリスが魔法を唱えるとどす黒い炎がハクを包む。それは天にまで届くほどに立ち上る地獄の業火であった。
当然ハクはたまらず海中へと逃げ込む。
一瞬とはいえ、まともに魔法を受けてしまいかなりのダメージが入ったと考えられた。
「……あっけないわね。その炎は海中でも燃え続けるわ。それこそ燃え尽きるまでね……」
アリスはハクが沈んだ海面をただ見つめるのだった。
次回その頃エイシェルは?




