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まどろみと旅路

作者: 宮野

 夢を見ていた。ずっと続く靄のかかった道を歩いていて、終わりが見えない。一休みしようとしても、焦りか恐怖か、足を止めることができなかった。

 晴れが恋しかった。

 ふと思い立って、脇道に入ってみようかと言う考えが頭に浮かぶ。今まではずっと、ひたすらに真っ直ぐに歩いてきた。それが間違いなのか、正解なのかはわからないが、自分の中で、こうするしかないと思っていたのだ。

 しかし、意外なことだ、寄り道しようと思った途端に別れ道は無くなった。

 仕方がない、このまま真っ直ぐ、ひたすらに進もうか。そうして、また僕は靄のかかった道をひたすらに進むことになるのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 新幹線から、京都発車のアナウンスが聞こえた。

 そのけたたましい発車の合図で目を覚ます。涎が出ていないかを口を拭いつつ確認し、前方へだらしなく伸ばされている足を体に引き寄せ、姿勢を正した。

 車内の光が目に突き刺さるように飛び込んできて、思わず目を細めてしまう。どうにか体だけは起こそうと、とにかく前方にあるペットボトルのお茶を口に流し込み、二、三回回してから思い切り飲み込むとすっきりとした感覚が蘇り、気怠さが取れてくれた。


 携帯を見ると、東京を発車してから1時間前後経ったようで、少しのため息を吐く。

 窓の外を眺めると都会の喧騒が広がっていた。京都は田舎だと思っていたが、駅の周りは人で賑わっていて、存外、東京と変わらないものなのだと少しの落胆と安心感を覚える。いや、本当は落胆の方が大きい。

 四国も京都同様、人で賑わっているのだろうか。そうであるなら、僕はそんなところに何をしに行くのだろうか。と、少しのやるせなさが込み上げた。


 携帯を確認して、若者の間で流行りのSNSの美希と書かれたトークルーム(チャットルーム)を確認した。


 「香川に着いたら連絡してください!!

  迎えに行きます!!✨」


 出発前に確認したその一文をもう一度確認して、耳にイヤホンを指した。

 音楽を聴きたいわけではなかったが、周りの雑音や電車の発する金属音から、今は距離を取りたかった。耳栓かわりになればと言う、気休めである。



 

 大学生の春休み、四国に旅立ったのは、暇つぶしで始めた出会い系アプリのチャットルームで知り合った『M』と言う女性に四国の良さを熱弁されたことから始まった。

 思えば、東京から自発的にどこかに出たこともなく、鬱蒼とした日々を送っていた自分にとって、彼女から語られる四国はどこか神秘的に見えたのかもしれない。


 

 「行ってみたい」



 そういうと、『M』は「是非!!!」と言う返事を返してきた。

 来るなら勝手に来いってことか、と少しの落胆を飲み込もうとした時に



 「私が空いていれば案内しますよ!

  よければ、SNS交換しませんか??」


 と言う返事が目に入った。

 考えるより先に、文字を打っていた。



 「SNS、喜んで、

  春休みに伺おうと思います。」



 親には、なんで四国に行くのかだとか、なんとか言われたし、どうして自分でもこんなにいかなければいけないと言う気持ちになったのかはわからない。

 それでも、考えてみれば、人生初の寄り道のような気がしている。

 小学生や中学生、高校生から大学生まで、”そういうものなのだ”と言う感情に支配されてきた。

 部活がある、家族旅行がある、受験がある、テストがある、生活がある、そう言うものなのだ。これらを差し置いては、何にもなれない、これらを差し置いて、何もできやしない。

 そんな感情に支配されていた、それは、知らぬうちに靄の中を真っ直ぐに歩いている感覚に近かった。

 もちろん、躓くことも、怪我をすることも、立ち止まることもあった。

 しかし、”寄り道”はしなかった。

 ”寄り道”をする、のっぴきならない事情も思い浮かばなかった。

 しかし、こうして1人で旅に出るという、別段意味を見つけられない行為も、”寄り道”として、僕の大切な何かになるのではないのか。

 今は、そう思えて仕方がない。


 これはきっと、”そういうもの”ではないのだろう。

 少しだけ、靄が晴れた気がした。

 少しだけ、”僕は”から始まる行動をできたような気がした。



 もう一度、眠りに入る前に、再び、美希と書かれたトークルームを開き



 「13時50分に到着予定です。

  香川、楽しみです。」


 と、メッセージを送り、ゆっくりと目を閉じた。

 

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