7 エキストラ1
さくらさんとカードを交換してから一旦落ちて、お昼ごはんを済ませてから再開することにした。
今私は解禁された新しいマップ【誰彼神社・異界】にいる。どういうところかというと町の端っこの小山の上にある神社、町の風景は現代の日本のものではなく、時代劇で見かけるそれだ、境内も異界じゃない方に比べてかなり広い。一回りして機能を確認してみたら、社務所で買い物とミッション受注ができて、お賽銭箱でお金を払ってバフ効果が得られる、今は使えないがあっちこっちにある鳥居は転送処置のようだ。町へと続く石階段を下るとミッション経過時間のカウントがスタートするのをみるに、町の方はやっぱり戦闘フィールドだ。
NPCに一通り話しかけたあとクエスト一覧を確認してもメインクエストらしきものが発生していない、つまりRPG的に何をすればストーリーが進むかは不明。チュートリアルと同じなら町のどこかにいるボスを探し出して倒せば次にいける、でもシリーズ的に受注できるミッションを一通りクリアしたら次の地域が解禁すると思うから、とりあえずミッションをこなしながら経験値稼いでキャラを強化しよう。
ん、メッセージが届いた。
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差出人:GM
件名 :エキストラ急募
PV用バトルを行います。
エキストラとして初期クラス飛天流のPCを募集。
すぐやられても問題ないが、できるだけ強い装備でお願いします。
集合場所:【誰彼神社・異界】正面鳥居の下
集合時間:今日13時
報酬:特になし
人数:28名
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報酬はないか、エキストラと書いているから強いて言えば自キャラがPVに映るのが報酬?目立ちたいわけではないが参加できるイベントは参加する、一也がそうしてきたから今回もそうする。
鳥居の下に着くと半透明の看板が浮いているのが見えた、PTメンバー募集用のアクセスポイントと同じ様式で「PVバトル 5/28」と表示が出ている。
まだこれだけか、と思いながら参加操作を行うと、周りから無関係のPCが消えた。
「よろしくおねがいします」
「「よろしくおねがいします」」
とりあえず挨拶、2人はかえしてくれた。聞こえてくる方向からすると巫女服の2人だ、ほかに見えるところにいるのはセーラー服の一人にビジネススーツの一人、遠いから聞こえなかったのかな。バラバラに戦うのはあれだから、PT組みたいな、せめてペアになれたら色々とやりやすい。
「わッ!」
いきなり背後に現れた人が声を上げる。低身長、黒髪ポニーテールに冬用のセーラー服、少女らしい声、顔は見えないが学生設定のPCかな。
そういえば参加してから一歩も動かなかった、新たに参加した人から見れば私がいきなり目の前に出現するようになっているかな。
「驚かせてごめんなさい、すぐ退きますね」
「は、はい、こちらこそ大声出してすみません」
場所移動しよう、ここにいると邪魔のようだ、横にいくのはちょっと変だから、前にいくか。
「あれ?ユキ、どこ?」
「後ろにいるよ」
私が移動して空いた場所に別の人が転送してきたようだ、こっちもペア参加か。
さてどうする、夏服だけどケバくて学生っぽくない人とビジネススーツでいかにもできる女風の人、どっちに話しかけるべきか。
「あ、そこの壬生狼さん、ちょっとこっちみて」
あれ、あとから来たユキの相方に呼び止められた。
キャラの向きはそのままカメラだけそっちに向けてみると、バンカラな少女?が居た。学ラン、学帽、マント、下駄、髪は赤いショートカット、胸の起伏がなければ男性キャラと間違えられそうな外見。キャラ名は“翼”、その隣にいる“雪”は普通にいそうな学生な分、二人が並ぶと目立つな。
でも心当たりがないな、IDも表示してみる?いや、聞いた方が速い。
「何か御用でしょうか?バンカラなお嬢さん」
「えっと、振り返ってこっちみてほしいな」
「翼、あの人背中向けているのに翼の格好がわかったよ」
あ、“こっちみて”ってそういうこと。それと雪にはどうやら説明が必要だ。
「すまない、三人称視点使っているからついそんな常識的なことを忘れてしまった。
これでいいかい?」
「やっぱり赤い瞳なのね、奏司という名前「ストップ!」」
片手を上げてこれ以上言うのを阻止する。
「そういう話はPTチャットでしようね」
「そうでした」
「それと場所を変えよう、ここはあとから人が来る。あっちの狛犬のところにいこう」
「「はい」」
◇
「奏に司と書いてそうじと読む人に心当たりありますよね」
「それなりにやっていれば知っていますよ、チーム新鮮組の沖田奏司。
だから今後こういう軽率なことしないでね」
「はい」
「雪…ちゃんはリアルのお友達?」
ちょっと迷ったけどちゃん付けで呼ぶことにした。
「「はい」」
じゃ、本人確認といこうか。
「司ちゃん、奏さんから私のID教えてもらっている?
見た目を確認する前にまずそれを見ようよ」
「ID?正確なものは知らないよ。ママはそのまんまだからすぐわかるとしか言ってなくて」
奏、それひどくない?娘が別の人に間違えてついて行ったらどうするつもりだ。
「表示のやり方わかる?やってみて。それと学校はどうした?」
「今日は休校」
「そうか」
「司は嘘を言ってません、同じクラスの私が証明します」
この子、たぶんネトゲ初心者だ。すこし注意しておこうか。
「疑っていないさ。でも雪ちゃんは個人情報をちゃんと隠そうね。
ネトゲは怖いところよ、キミたちのようなピュアな女の子はすぐ食い物にされてしまうぞ」
「はい、これから気をつけます」
「よし、できた。え?あのさ、これ、雪のこと言える?」
ID見れたか。言いたいことはわかる、本名をアカウントIDにしている人が「個人情報隠そう」なんていってる、まさに“お前が言うな”。
「若さゆえの過ちというやつだ、それにあからさますぎてかえて本名と思われない」
「そうなんですか?」
「そんなものです。そこから私がどこに住んでいるかはわかります?
私はさっきの会話で雪ちゃんがカンナシティに住んでいることが分かった」
「えぇ、どうして?あ、司の家知っているから」
「そうね、おじさんは私のリアルを知っているから推測できるのね」
「え、おじさん?」
「そうさ、中身がアラフォーのおっさんだよ」
「……ネカマ?」
「違うぞ、ネカマはプレイヤーが男なのに自分は女と嘘をつく人のこと。
私はただの女性キャラを使いたがる男性プレイヤー」
「でもママはしばらく気付かなかったと言っていたわね」
「それは彼女がそういうことを気にしてなかっただけ、
あとで判別方法教えるからネカマの話はおしまい。
とにかく二人ともリアルの情報をリアルの知り合い以外に漏らすなよ」
「わかりました」
「らじゃった」
らじゃった?その言い方はたしかあの18禁ゲームのあのキャラの……奏からうつったのよね、プレイしてないよね。なんか色々と心配になってきた。
「じゃこれからはキャラ名で呼ぶね、翼ちゃん、雪ちゃん」
「了解」
「あの、私は斎藤さんと呼んだらいいでしょうか?」
私か、好きにしたらいいじゃない。
「斎藤さんでも一さんでも一ちゃんでも、二人の好きなように。
奏司と同じようにいっちゃんでもいいよ」
「私、ママと同じ“いっちゃん”がいい」
「私は一さんと呼びたいです」
「じゃそれでいこう。
あ、ちゃん付けはいやか?なんかこう呼ばれたいのがあれば遠慮なく」
「じゃ、僕は翼くん、実は……ついてるんだ」
無音の部分は何なのかは察した。性別が両性といえばいいのに、わざわざそういう言い方するなんて、この子母親の影響受けすぎ。BMI適性うんぬんの前にそこをどうにかしたほうがいい、でも私と一緒にプレイするとますます悪化しそう。
「いっちゃん、返事は?やっぱ翼くんはダメ?」
「そんなことないよ、これからよろしく、翼くん。
えっと、雪ちゃんはどう?あ、あとから変えてもいいよ」
「いえ、私は雪ちゃんでいいです」
あ、キャラカードを送っとこう。
「うん、それじゃよろしくね、雪ちゃん」
「はい、よろしくおねがいします、一さん」
「今二人にキャラカード送ったわ、これがあればフレンドじゃなくてもメッセージを送れるの。あ、これも扱いに注意、もらっても必ず自分のを送り返さなければいけないものではないよ」
「わかりました」
「いっちゃんとはフレンドになりたいな、その方がカードより便利でしょ」
メニュー開くときにチラと見えた時間、あと5分で13時、二人と出会って戦闘準備がまだできていない。話の流れを切って悪いが、時間がほしい。
「いいけど、そろそろ時間だ、戦闘準備は済んだか?」
「あ」
「まだです」
「じゃ急いで準備しよう、カードとかフレンドとかはあとで」
「「はい」」