6 感想
冷静になった頭で情報整理。
刀より素手のダメージが大きいのはたぶん飛天流を取っているから。
ゲームではパリィタンクの面を強調され、正直言って単独で使うには微妙な性能、しかし設定では違う。
金剛流の始祖は達磨大師の化身に会い、少林寺と同じように絶技を授かれ金剛流を開いた、飛天流はその支流、女性用に特化している。現代の飛天流は退魔師の専門学校という面もあって、流派を背負っていく弟子と技を学ぶだけの生徒で分れている、ゲーム内で取れるクラススキルは生徒の方。
学校で何を教えているかというと、
まず筋トレと気の使い方。拳をを突き出すときに気がそこに行くイメージで突く、というカンフー的にいうと“外功を鍛えて内功を上げる”鍛錬の仕方。木人も叩く、前腕と肘とかぶつける部位に気を籠める練習でもあるから防御力が上がる。
肉体の酷使で精神力を鍛え心を強くしてから、“観の目”――全体を把握する視点――の速成法として死霊と契約してを視界共有。そこから魂関連もやっていく、卒業のごろは幽体離脱ができる。
刀の使い方もやる。現代でも持ち運びやすく、汎用性があるから。型稽古はすくない、卒業までの1年でたくさん憶えられものじゃない。攻撃は集団戦で邪魔にならない縦切りと突きが重点。防御は一通り教わる、とりわけ思考の高速化で敵の攻撃を迎撃すること、そこから反撃に転じる動きをいくつか覚え込む。
あと魔物知識、新人に回される仕事でよく出会う魔物と対処法を覚え込む。
という設定だから、生徒でも十分強い、退魔のプロになるための学校だから当然だが。
さくらさんが言っていた“体ができること”を“設定上の鍛錬法をやっているなら素手でも強い”と解釈したのは間違っていないようだ。
「すごく飛天流らしい戦いでした」
やっぱりそう思うかさくらさん、私もそう思った。
「それは、ありがとう、かな?」
一応褒められていると思う、だからkyo_juさんに「頭の中幕末かよ」と言われたときと同じ返しをした。
「もうBMI使いこなしているように見えます、すごいですね」
「いや、無我夢中で……
体を動かしているのか、キャラを動かしているのか、
スキルなのか、そうじゃないのか、
このゲームの技なのか、カンフー映画で見たものか、
わからなくなっていました」
切りつけるときの手の内とか、拳の作り方とか、そういうのをまったく意識していないので、体を動かしているとは思えない。“体を思うがままに動かす”というVRゲームの宣伝によく使われる文言とは違う感覚だ。
「そうですね、私も同じ感じでした。今はキャラに指示を出すつもりで操作しています」
「たしかにその方がやりやすそうですね。
スキルが暴発していたのはちょっと困ったかな。もっとBMI使いこなさないと」
2撃目で突き飛ばしたのもたぶんスキルが発動したから。
あのときすでに取ったスキルと同じ動きをしてほしいと考えていた。スキルを発動してほしいではなく、“両手で突く”その動作をしてほしいだけなのに。
そう考えると暴発しやすいものはあえてスキルを取らないのもいいかも……いや、やっぱり暴発しないように鍛えるべきだ。
「そうですよね、ほかに何かありませんか?」
「BMIの感想ですか?
そうですね。
どんな攻撃も出せるのは新鮮だけど、このゲームをつまらなくしたかも」
スキルの動きをまねると相手がそれに対応した動きをする、脇腹と金的をやったときの硬直が長い、この2つを見ると、用意した反応以外はできない、モーションデータの量というゲームの限界が見えてくる。VR格ゲーならもっとパターンがあったんだろうが、もともとはARPGだからそこまで多くない。
だから、見ごたえがない。
私にとってアクションゲームは技の見栄えも重要だから、敵を早く倒すだけのゲームはつまらない。
「つまらない、ですか?」
「あくまで個人的な意見です。
このゲームをそんなに長くやっていませんが、
今までより殺伐になりそうで面白くない」
今までは攻撃手段が限られているから行儀よく
入力しやすくなったのは私にとっていい変更だが、攻撃方法が自由すぎるとゲームが崩壊するとおもう。バランス調整できないし、バグが取り切れない。
「……私はつまらないとは思いませんが、殺伐になるのは同意ですね。
みんなが飛天流と同じ考えになるのは怖いです」
「たしかに、誰もが飛天流の考えに馴染んだら世も末です」
「ふふ、そうですね」
「殺れるなら手段は選ばない」というのが飛天流の教え。何でもありならさっきのボスだって着地地点に爆弾と拘束用の罠を置いてから出現させて、動き止まっている間に魔法連打するのが飛天流だ。刃物も銃も、爆弾も魔法も、みんなただの手段に過ぎない、そもそも“飛天流”すらも取り込まれた手段の一つ、あんまりにも親合性がいいから表向きの組織名にまでなった。
「話は変わりますが、
ロビーに戻るとキャラカードがもらえます。
もらったら交換しませんか?」
キャラカードがあればNPCとして連れまわせる、もしかしてこれのためにPT組んだのか。
でも私なりきりじゃないよ、姿の更新に期待しても無駄、そのことを確認しないと。
「新選組っぽい名前だけど、見た目はこれで行くつもりです、それでもいいならぜひ」
「はい、大丈夫です」
「そうですか、戻ったらよろしくおねがいします。
では、箱割っていいですか?」
「お願いします」
長持の見た目をした報酬箱の手前1メートルまで移動。
これを壊さないとリザルトが出ない、ミッション終了しない。
分配とかないのでだれがやってもいいけど、自分でやるのと他人がやるのとはわくわく感が違う。
だから今回はやりたい。
遠当て、せっかくだから試してみようかな、設定通りならできるよね。
突き出した拳から気でできた玉が飛んでいくのをイメージしながら左手を突き出すと命じる。
「お見事!」
「お粗末様でした」
やっぱりスキルになっていない能力は具体的にイメージすれば発動できるようになっている。変わっていないようでいろいろ変わった、クラスの性能の把握を急がないと。