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4 強くてニューゲーム

 体が軽い、さすがは最新のBMIだ、もう何も怖くない。


 今BMIテストを終えて、タイトル画面まで戻ってきたところだ。

 三人称視点がテスト以外でも使えるとわかったから、テンションが高すぎてやばい。


 神霊庁のお知らせは結局機材セットアップの間に読んだ。

 大したことは書いていない、要するに「おまえは監視下だ、大人しくしていれば殺しはしない」。

 これで今日は憂いなくゲームに専念できる。



 転移演出のあと、鳥居が私の前に現れた。


 どうやら、スタート地点は神社のようだ。

 私がいるのは境内側で、鳥居の向こうは普通の住宅街だ。

 空は夕焼け空、赤い雲が空を覆い、不吉な雰囲気を醸し出す。


 シリーズ作品の冒頭で見慣れた空だ。もうすぐ日が落ちて、魔が動き出す。


 マップを確認すると【誰彼神社・境内】になっている。


 知らない地名だ。


システム>クエスト:『チュートリアル1』を始められるようになりました。


 そういえば2キャラ目からはチュートリアルをスキップする設定にしていた。


 メニューオープン。

 声を出さずにキーワードを言うと意識すると、BMIが反応して顔の前にメニューが表示される。

 操作しやすいように位置を下げると意識するとそれが胸の前まで下がる。


 さすがは最新の製品、この精度なら全部BMIでよくない?

 と考えながら指でタッチしてクエスト一覧を開く。


 チュートリアル1、開始。


【クエストガイドがHUDに表示されます。指定の場所に移動してください】


 HUD(ハッド)オン。

 視界にいろいろな情報が映る、自分のHP(ヘルス)MP(マナ)AP(アーマー)SP(スタミナ)、残弾、50メートル以内の施設、10メートル以内のキャラ名。


 目的地までの距離と方向を示す矢印は真ん中に表示されている、それが指す先は……お賽銭箱の横だ。


 周りは誰もいない?とりあえず行ってみるしかない。


 ……たどり着いた、しかし何も起きない。

 周囲を見渡すと、チュートリアルと関係ありそうなNPCは見当たらない。

 境内のあっちこっちには少人数のグループができている、見た目からすると全員プレイヤーらしい、聞いてみるか。


 ロビーチャット起動。


一>こんにちは。チュートリアル受けたいですけど、NPCが見当たりません。

三下>ちわっす。NPCはもういない、PKされたらしい。

千ぱい>こん。NPCはキルされたからリセットまで待って

一>ありがとう。


 NPC殺害、ほんとうにやる人いるのね。


さくら>PKって言われていますが、フレンドリーファイアの悪用です。


 もともと攻撃は味方とあたり判定とる仕様だったが、ダメージはなかった。

 ダメージが入るようになったか。


さくら>貴方もFFに気をつけなさい。

一>はい、気をつけます。


 進行中のクエストをなしにしてガイドを消す。


千ぱい>戦えるならもうすこしで出発するグループと一緒にいけ

千ぱい>ボス討伐できたらいろいろ解禁する

一>了解、それに参加します。


 そういえば初期装備なかった。出発前に装備を整えておこう。


 装備画面を開く。

 あれ、防具が3枠?

 あ、今までの【衣装】【護符】【防護結界】から一つ選ぶのではなく、3つ同時装備か。


 TIPSは右上の?マークで開くか。


 え~と、アプデ前の仕様と同じ、防具はAP(アーマー)を上げる。

 アーマーはヘルスダメージを軽減する、軽減すればアーマーはダメージを受ける。

 そう、UIでHPと書いているそれはヒットポイントではなくヘルスポイント、これは重要。

 ヒットポイント満タンだろうと1%だろうとフルスペック発揮できる一般なRPGと違って、ヘルス50%をきると能力低下、10%以下だと移動するのも大変、1%切ると地面に倒れたまま動けない、俗称床ペロ。無敵ではないので、マルチプレイで見かけたら即回復案件。


 【衣装】は高い軽減率を得られるが、ミッション中のAP回復はアイテムを消費する。軽減率はデザインによる、肌を露出している場所に当たったら軽減されない、アーマーダメージは攻撃や素材次第。アーマーダメージ受けすぎると本来軽減できる個所でもダメージ素通りになったり、一番リアルな設定の防具だ。

 コスチュームブレイク機能アンロック(年齢制限コンテンツ)を買えば色々と楽しめる衣装もあって、10年間サービス続けられた理由の一つにあげられている。


 【護符】は軽減率が中、アーマーダメージは低く、さらに時間でAPが回復できる。即座に回復する手段がないので、複数持ちで手持ちアイテム枠(インベントリ)を圧迫するか、戦闘の度休憩とるかになる。


 【防護結界】は軽減率が100%、アーマーダメージは減らした分のヘルスダメージそのまま、MPでAPを回復できる。要は追加のHP。


 アイテムの性能そのままで3枠装備できるなら、防御ガチガチになれる。

 言い換えればそうしないと死ぬバランスでくる?

 見た目重視のエンジョイ勢に厳しくない?


 とりあえず目の前のことを考えよう。


 目立ちすぎるのはよくないから、衣装は巫女服に偽装した戦装のまま、倉庫から今のパラメータで装備できる護符と防護結界を出して……


 武器は最低ランクの刀と拳銃にする、これで見た目上はニュービーだ。

 拳銃のスキルは習得していないが、引き金(トリガー)引けば撃てる、これは掲示板で見た。


 ほかには回復アイテムも必要だ。

 ダメージを与える系は1枠のスタック数が多いものでいいか。

 ……

 …



 アイテムなどをいじりながら少し待った。


さくら>出発します。


 セーラー服2学ラン2の4人グループが鳥居に向かって歩き出す、それを見てほかのグループも動き出す、計20人ぐらいかな。

 こういう時、取りまとめる人がいるとすごく助かるのよね。


 私もそのあとに続くことにした。


 鳥居を潜り抜けると空が暗くなっていき、夜が降りてくる。


「目的地は駅前の赤いビル、私についてきてください」

 ピンクの小袖に紫色の袴を着ている彼女が先導する。

 キャラ名は「神宮寺さくら」、クラスはわからないが武器は刀だ。

 てっきりセーラー服のどっちかがさくらさんと思ったが、どうやら彼女のようだ。


 十字路で曲がり、車1台しか通れない狭い道に入る。


「途中の雑魚はできるだけ倒してください、でないとバックアタックされます」

 彼女が警告するやいなや、電柱の陰や曲がり角などから敵が続々と湧いてきた。


【餓鬼】だ。

 骨を皮で包んだような細い四肢、膨らんだ腹部、緑色の皮膚。屈んでいる姿勢のせいでもっと低く見えるが、背は120センチぐらい。

 いろいろな意味でファンタジー系RPGの定番モンスター「ゴブリン」を思い出させる敵だ。


 10匹ぐらいかな、偵察系のスキルがまだないから把握しきれない。


 最前列が戦闘に入る、周囲を巻き込まないで戦うために間隔は大きい。

 その間を敵が通り抜けて第2列の遠隔職に襲い掛かる。


 最前列の一人が仲間を救おうと反転、その背中をカバーするようにさくらさんが動く。

「中央のパーティー対応を頼む。油断しないで、囲まれたら死ぬわよ、1対1で確実に倒して」

 後半は反転した人と2列目向けかな。

 このシリーズの基本は1対1、たしかにこれは教えておかないといけないことだ。

 最大火力を発揮できる距離問わず、自分が肉薄された時の対処法は持たないといけない。後衛とか魔法職とかは言い訳にならない。


「後ろの人は後方や脇道を見張っていて」

 さくらさんは敵を倒しながら注意を促す。

 教えなきゃ「知性:人間並み」の怖さを初心者はピンとこないでしょう。


 私は最後尾ということもあって、戦闘に参加できずにいるから、さっきから警戒している。


 見つけた!家の庭を通って塀を登ってきた!?


「4時方向、かべの上!」

 左手に持っている自動拳銃で狙いをつけながらそう叫んだとき、その餓鬼はすでに一番近い狩衣を着た神主?陰陽師?を狙って飛び掛かる姿勢に入っていた。


 その人は慌てて振り向くが、まだ武器も手にしていない。

 神社を出たときに刀を抜いた私からすると、それはさすがに油断し過ぎだ。


 左手の拳銃を2連射して、右手の刀を両者の間に突き出す。

 1発当たったが、餓鬼は無視して神主に飛び掛かる――その軌道上に私の刀が伸びていく。

 上へ軌道修正した刀が何にのしかかられた感触を感じたとたん、それを地面へ叩きつけるように横斜め下へ払う――死んでない状態で遠くへ吹っ飛ばしてはいけない。

 目で追うと、皮に包まれている肋骨とでかいお腹の間を切られ、背中から地面に叩きつけられたが、まだ死んでいない。

 物理演算ではこれで致命傷になっていない、スキルなら結果は違ったかもしれない。

 追撃で胴体に向けて引き金を2度引く、ようやく動かなくなった。

 死亡演出――煙に包まれて消える――も始まり、これで一安心。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 マガジンを交換しながら彼に返事。ついでにキャラ名を確認、「三鷹」だ。


「うしろは大丈夫?」

 さくらさんが戦いながらこっちの状況確認する。

「はい、問題ない」

「それでは進みます」

 先頭は敵を倒しながら前に進む。


「ヘルスが減った人はパーティーと一緒に後ろのパーティーと交代してください」

 戦術はガチだな、さくらさん。

 この集団、近接職を外周に並べても連携取れないので、広い場所での戦いは不向きだ。この狭い道でなら敵はほぼ一方向からしか来ない――さっきのは例外だ、現に2匹目はこない。

 彼女と近接職3~4人で前衛、その後ろの同じパーティーの人が後衛、ダメージ受けたらパーティーごと交代。集団の半分が戦い、半分は警戒と回復。


 この調子なら初心者でもボスまでいけるだろう。


 私は非常に暇になりそうなんだが……


 ◇


 10分ぐらいかかったかな、たまにしか発生しないバックアタックとサイドアタックに対応しながら駅前広場まで来ました。


「事前に説明したようにボス戦はパーティー別です。あのビルの自動ドアの前に立つと屋上からボスが飛び降ります、戦場はこの広場です」

 さくらさんが説明を始める。


「ここまで戦ってきた餓鬼の大きいバージョンです、落ち着いて対処すれば大丈夫です。小さい餓鬼を召喚しますが、パーティー人数より多くは同時に呼びませんので、1対1を崩さないで戦えばいいです」


 たぶん【有財餓鬼(うざいがき)】、身長2メートル超えている大きい餓鬼だ。


「準備ができたパーティーから行ってください」

 ここでさくらさんは話を切り、集団から離れた。


 引率(パワーレベリング)してくれたお礼を言った方がいいかな。

 個人チャット(こチャ)だと皮肉に聞こえるかもしれないから口頭でするか。


 バス停のベンチに座る彼女に近づき、合掌してお辞儀する。

「ドーモ。さくら=サン。(はじめ)です」

「ドーモ。はじめ=サン。さくらです」


 のってくれた。

 お辞儀を終えた彼女はその黒い瞳でまっすぐに私を見つめる、真剣な眼差しだ。


決闘(PvP)のお誘いですか?」

「いや、ちょっとお礼を言いたくて。ここまで連れてきてくれて、ありがとう」

「どういたしまして。私にとってもいい経験値稼ぎになりますから、win-winです。」

 そう言ってくれた彼女の顔は一転して悲しい微笑が浮かぶ。

「……なんか、死亡フラグみたいですね」

 今の言葉がいけなかった、原作で大物と戦うときを思い出させたかな。4人(1PT)に1人は死ぬのがパターンだ、お気に入りのキャラが死ぬつらさ、シリーズのファンならよくわかる。


「私は死なない、とでもいえばいいか?」

「言葉はあてになりません」

 彼女は首を横に振る。

「経験者のようですが、それでも気を付けてね。パーティー組んでいないでしょ」

「ああ、注意して挑みます」

「……組んでください、とは言わないのですね」

「そこまで厚かましくなれない」

 道中は楽にさせてもらった、ボスは自分の手で戦いたい。

 あとソロPTなうえ自分でほとんど倒さなかったから、経験値はすこししか分配されなかった。


「そうですか。その為人(ひととなり)を見込んで一つ頼んでもいいですか?」

「何でしょう?」

「貴女がボスと戦うところを見たいです」

 つまり、彼女とパーティー組んでボス戦、しかし彼女は見ているだけ。

 その程度なら喜んで引き受ける。


「お引き受けします」

「報酬をせしめているようですみません」

 彼女は申し訳なさそうにほほ笑む、さっきとまったく雰囲気が違う人になった。

 それにしても表情コマンドを使うのがうまいな、さっきから内容もタイミングもパッチリだ。


「そんなことありませんよ、道中大変助かりました」

「貴女が居てこちらこそ助かりました。招待送りますね」


 彼女がメニューを操作するのを待つ。


「届きました」

 報告と同時に承認。

「それじゃ行ってきます」

「ご武運を」

「かたじけない」


 彼女は再びベンチに座り、私は振り返って歩き出す。


 黒髪ポニーテールの和服少女に見送られる銀髪の巫女、許可とってスクショに残すべきかな、

 なんてしょうもないことを考えながら、私は赤いビルへ向かう。

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