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3 BMIテスト

【BMIテストを行います。キャラクターデータを一時的に保存します】

 OK


 前BMIテストやったときは体を細かく動かすためにいろいろやらされるけど、ゲーム中はヴァーチャルコントローラーとかで操作していたから意味なかった。

 でもこれ終わらないとゲーム始められない。


【セーブ完了しました。必要でしたらで今までの設定の見直しを行ってください】

 OK


 あれ?一人称視点ではなく三人称視点のまま?

 キャラメイク用の部屋の中いるまま、カメラがキャラメイクの全身確認用位置に戻る。


【キャラクターを光っている円の中まで歩かせてください】

 カメラがキャラの横に回り、遠ざかる。

 キャラ前方5メートルぐらいのところにマークが出現。


 ベルトスクロールアクションみたいな画面だな。

 とりあえず歩く。

 右足を前に、太ももあげて、膝まげて、あ、こけた。

 一歩も歩けないなんて、前よりさらに難しくなっている。


【一人称視点に切り替えますか?】

 YES。


 直立状態に戻されて、カメラが一人称視点になった。


 再チャレンジ。


 またこけた。


【キャラの身長をリアルの身長に近づけることをお勧めします。メイク画面に戻りますか?】

 NO。

 リアルと2cmしか差がないから大きな影響はでないと思う。


【詳細診断モードに切り替わりますか?】


 新機能か、使ってみよう。

 YES。


【しばらくお待ちください。】



「詳細診断モードに変わりましたにゃ」

 語尾以外にもあざとい雰囲気がある、元気な女の子の声が聞こえてくる。


「リセットするにゃ」

 直立状態に戻された。視点は一人称のまま、前方の地面にマークが見える。


「まず自分の体と思って歩いてみてくださいにゃ」

 さっきと同じように、右足をあげて――「ストップにゃ」

 慌ててバランスをとるとまたこけた。


「オートバランサーと競合しているにゃ。ただ前にいくと考えてみてにゃ」


 リセット。

 オートバランサーときたか、ロボットかよ。ロボットゲームはそこそこやっている、いっそのこと背後視点とか肩越し視点の方がやりやすい。

 対話型だからできるかどうか聞いてみるか。


「三人称視点で背後斜め上から見下ろせますか?」

「そっちでもいいにゃ」

 視点が変わった。

 今度はキャラが前に行ってほしいと考えてみる。


 ……問題なく行けた。


「あなたは日本方式のBMIが似合うにゃ、これからは考えすぎないように注意してくださいにゃ」


 日本式?そんなところも診断するんだ。


「そのまま続けてくださいにゃ」

「わかった」


 ……無事円の中にたどり着いた、止まる時もスムーズ。


 考えすぎて思考ノイズが多いということか。


「はいにゃ、市販品の読み取り能力と処理能力では対処しにくいレベルなので――

「誰ですか?私の契約者にちょっかいを出すのは」


 一の口から私の言葉ではない言葉が出る。

 私をこの世界線に連れてきた女神フォルトゥーナ、その分霊だ。

 普段不干渉なのに、どうしたんだろう。


「にゃ?にゃあああ!女神!なんで女神が!」

「自分の契約者に分霊を入れてサポートするのが常識ではなくて?」

「殺さないでにゃ、悪気がなかったにゃ、心を読んでやり取りをスムーズにするだけのつもりにゃ」

「フォルトゥーナ、何が起きたか教えてほしい」

「魔力を吸われました。表層意識を読むだけなら私はなにも言いません、でも魔力を吸い取るなら看過できません」

「ごめんなさいにゃ、ごめんなさいにゃ、ごめんなさいにゃ。朝からずっと働きっぱなしで、もうへろへろにゃ、せめて何かおいしいものでもと」

「それで?美味しそうなこの子を見てつい魔が差した?躾がなっていませんわよ」


 なぜか長身の巫女にいびられている猫耳少女を幻視した、姿が見えないのに。


「許してあげてもいいじゃないか、私は何ともないし」


「私の取り分が減ります!」

 そういえば存在の維持以外にも毎日あまりそうな魔力は彼女が吸っていい約束だった。

 怒る理由それか、二人とも食いしん坊だな。


「魔力吸うために注意力が散漫になって、一也が口に出さなかったことに返事するミスまで犯して」

「ひぃ」

「飼い主呼び出し案件以外の何物でもありませんわ」


 ごもっともだ。

 私はフォルトゥーナのおかげでこっち側に踏み込んだ人間だからよかったものの、一般人だったらどうなっているやら。記憶を消すか?


「そんな未熟な彼女も使わなければならないほど、手が足りていないのでね」

 また別の声がした、高くはないが、そう低くもない女性の声だ。

 坦々とした話し方だ、感情がこもっていないように聞こえる。


 突然、空間が割れた、敵出現演出の一種だ。

 キャラメイク画面に敵?とは思わない。状況からして飼い主の登場だ。


 出てきたのは巫女服の女性だが、リアルタッチだ。

 すくなくともこのゲームで作成されたキャラではない。

 ボブカットできれいよりもかわいいという言葉が似合う東洋美人だ。


「初めまして、でいいかな、運命の女神の分霊とその契約者」

「初「初めまして」

 被った。


「同じキャラのままでは不便のようね、何とかしましょう」

 言葉が終わった瞬間、斎藤一が二人になった。

 元の位置にいるのが私かな、カメラ的にもそのはず。


「すごいな」

「元からそういう仕組みなので私の力ではありません」

「改めて初めまして、斎藤一也です」

「初めまして、フォルトゥーナです」


 えっと、どちら様?


「……そういえば名乗りませんでした。今は秋月(あきつき)ももよと名乗っています」

 ももよはたぶん百代だ、真剣で恋するあのゲームで知った。


「使い魔のタマミが勝手に魔力を吸ったことについて、厳しく処罰するので、1割増しで私から吸うことで手を打っていただけませんか?」

「フォルトゥーナ、それでいいでしょ」

「魔力はいりません。それよりもゲームを台無しにしたことについて彼に謝罪していただけませんか?」


「!それは気が回りませんでした」

 !

 秋月さんは息をのむほど驚いたようです、私も驚いています。

 GMに使い魔を使っている。一端とはいえ、このゲームの裏側を知ってしまった以上、ただのゲームとしてプレイすることができなくなったのは確かだ。

 しかしそれを女神がいいだすとは。


「大変申し訳ありません」

 深く頭を下げられた。

 感情がこもっていないように聞こえるが、形だけの謝罪はそれなりに見てきたから、これはそうではないと理解した。


「申し訳ありませんにゃ」

 こっちは嘘っぽい、なぜそれで謝るのかわからないという感じ。


「タマミ、タスクがスタックしているので次の現場へ行きなさい」

「はいにゃ、ただちに向かいますにゃ」

「今度ヘマしたら、ただの猫に戻しますから」

「ひぃ」


 坦々としているから怖い脅し、顔色一つ変えずに実行するのだろう。

 それとやっぱり猫なんだ、猫の手も借りたいほど忙しいだな。


「ごめんなさいにゃ、ごめんなさいにゃ、ごめんなさいにゃ~~~」

 使い魔の声が遠ざかっていく。


 残った秋月さんがまた口を開く。


「補填となる何かを考えますので、あとでまた伺います」


 断った方がいいか、どう伝えれば失礼にならないだろう、

 などと考えているうちに、秋月さんはまた空間を割って消えた。


 どうしょう、BMIテスト処理に戻らないから、積んだぞ。

 進行不能バグだ、チケット作らなきゃ。

 チケットとはバグトラッキングシステムでバグを報告するためのものである。


「現実逃避している暇はありませんよ」

「わかってるよ」


 ……本当にどうしょうかな。


 ◇


 ゲーム再起動。


「魔力に頓着しなさすぎ、そろそろ慣れてほしいところです」

「ごめん」

 リアルの耳に聞こえる声で彼女は答える。

 実は彼女とこうして会話するのは久しぶり――死んだ斎藤一也の体に私の魂を入れたあの日以来だ。


「“成り立て”は加減がわからないから、そのつもりがないのに吸い殺すことも多々ありますのよ」

「次から気を付ける」


 長い溜息が聞こえた。


「そろそろ魔力が体を出入りする感覚を掴んでほしいです」

「それとは無縁な社会で生きてきたからな、すぐには難しい」

「知られていないだけで、実際にはそれなりに魔力がある世界の出身なのですよ、キミは」

「確かにそう聞いたんですが」

「ですが?」

「アラフォーがいきなりそんな邪気眼っぽいことできるわけないだろ」

「退魔師ごっこは大丈夫なのに、ですか?」

「恥ずかしさが違う。ゲームというリアルを晒さない遊びの場で遊んでるから恥ずかしくないけど、リアルのパワースポットでポーズ取って魔力操作の練習は恥ずかしい」

「効率は落ちますが家の中でもいいですよ」


 そういうのは先に言ってくれ。家の中でならやってもいいかな。


「魔力が増えればこの分霊でできることがもっと多くなります」

「前もそういわれたが、何ができるの聞いてなかったな」

「そうね、霊的防壁がもっと堅固になります、さっきみたいなことは私が出てこなくても大丈夫なようになります」

 それは確かに助かる。


「あと、私が起きていられる時間が長くなります。目指せ1日24時間行動です」

「プライバシーを守ってくれるなら、目指してもいいけど」

 今は1日1時間、話しかけてこないが私の指定でお昼12時から13時は起きているはず。

 私と体を共有している今の状態で24時間起きていてもらっては困る。


「あれこれ恥ずかしいと思うなら、まず一体化状態をどうにかしましょうか」

 できるのか、早くやってほしかった。


「何か別の依代があればすぐにでもできますよ」

 依代ね、この家にあって、都合がよさそうなものというと……


「人型がいいならフィギュアでどうかな?」

「……マニアックですね」

 今どんなことを考えたかな、この駄女神。


「現状では人形は使いにくい依代です。五感がある生物なら感覚器官をそのまま使えますが、ただの物体ならその分霊視などでカバーするので消費魔力が増えます」

「ものを見る器官があって、音を聞く器官があって、声を出す器官もある、できれば移動能力も、そう考えると生物か」

 あれ、移動を放棄すれば、絶好なものがあるじゃない。


「スマホでどう?」

 カメラもマイクもスピーカーも備わっている、最高のボディじゃないか。


「いい考えと思います。一旦力を溜めますので、夜まで寝ます」

「わかった。おやすみなさい」

「おやすみなさい」



 ようやくキャラメイク画面まで戻ってきた。

 セーブが残っていてよかった。

 次はBMI――!

 お腹に違和感、リアルの体で何か起きたようだ。


 慌ててゴーグルを外して起き上がると、ベットの上に見覚えのない段ボール箱があった。

 どうやらこれが先までお腹の上に乗っかっていたようだ。


 箱に張り付いている紙を見ると秋月さんからのものだ。

 中身は……


 最新式のVRゴーグルとVRグローブ。


 なるほど、誠意は言葉ではなく、現物で示すときたか。

 週末発売予定の結構高い品物のはずなんだけど、ありがたく頂戴します。


 ほかには「神霊庁」からのお知らせも一緒に入っていると書いてあるが、今は無視だ。

 今ゲームがしたいんだ!


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