2 キャラメイク
VRゴーグルとVRグローブをつけてベッドに横たわり、口元のマイクに拾えそうな声で命令する。
「実行、たいましむすび」
音声入力に反応してゲームアプリは立ち上がる。むすびにも反応するようになっているのはいい配慮。
目を閉じて、視覚情報の入力をBMIのみに限定する。部屋は静かなので聴覚に関して何もする必要がなく、あとはただ待つだけ。
ロード画面は2Dのみのパートなため、真っ黒な空間に浮かんでいるモニターに映し出されているゲーム画面を映しているという汎用処理になっている。
眺めている以外やることがない、ロード中にミニゲームでも入れればいいのに。
そういえばあの特許、この世界線ではどうなっているかな、私がいた世界線では5年前に満期だった。
そんなことを思いながら、私は瞼を閉じていても見えるロード画面を見ながら静かに待つ。
◇
ロード終了。
アプデ前に比べて開始時のロードが長い、開始時の一括ロードはよくあるパターンだが、この長さはちょっとしたストレスだ。アプデ後の初回起動だからと希望を持っておく。
タイトル画面も暗闇にモニターなため、あっちでやっていたゲームと大差ないって感じ。
「ここを超えれば新しい世界が待っているぜ」的な高揚感を抑えて、タッチ操作でOK連打し、注意書きやアプデ内容の表示をスキップ。
バージョン表記が変わっているを確認し、新規追加されたアナザーモードを選択。
キャラ選択画面が開き、そこから自分の1stキャラクター、斎藤一を選ぶ。
【旧バージョンで作成されたキャラクターです。
アナザーモードで使用できません。
このキャラクターをもとに新規キャラクターを作成しますか?】
メッセージウィンドウが開いた。
スレですでに知っていたが、選択画面でるからついつい選んでしまった。
YESだ。
【キャラスロットを選択してください】
適当に空いているところを選ぶとキャラメイクが開始した。
【キャラクターの名前を入力してください】
フルネーム、姓、名、短縮表現、NPCからの呼ばれ方、全部元になったキャラのままでOK。
【種族と性別を決めてください】
種族は【人間】と【半魔】の2種。
性別は男女以外に【無性】と【両性共有】があって、計4種。
一也の記憶をたどってみたが、ガチ勢でなければ特に気にする要素はない。
一也が斬殺巫女をやらないのはおかしいから、そのまま【人間】【女性】で決定。
【素質を決めてください】
新要素?
なになに、合計値30になるように、心技体の3つのバランスを調整。【人間】は5~15、【半魔】は1~19の範囲内で変動できる。
心技体の値から見慣れた筋力(STR)などを算出するようだ。
一応新要素だが、シリーズで初見ではない、退魔師TRPGの方は種族関連と絡めてうまく処理していた。
そうか、MMO化にあたって、他人との差別化ができる要素を入れたか。
ぶっちゃけ無駄、どうせみんな同じように振るから。
バランス調整をユーザーに投げているに過ぎない。
最終的な構成を考えて、これは体15、心10、技5だな。
【キャラクターの外見を決めてください】
風景が白い壁と灰色床の部屋に代わり、目の前に半袖半ズボン型のダイバースーツを着た2.5D――体はリアルなバランスだけど顔はアニメタッチ――の女性が現れる。
たまご形よりの面長の顔型に高い鼻、左右の色合いが微妙に違っている赤い瞳。
背中の中ほどに届くロングストレートの銀髪、ライトが当たった時の反射光は薄い青にしたから、角度によっては水色にも見える。
胸部装甲は厚いとは言えないが、薄くもない。身長175cmだから数値上のバストサイズは大きいがカップ数はCかDぐらい。
このキャラ、斎藤一は斎藤一也が結で使っていたものをコネクトにコンバートして修正を加えたもの。好みが近いから、手を加えるところは少なかった、変更したのは2つだけだ。
一つは目だ、これは好みではなく、仕方なかった。
ただの3DモデルからVR用3Dモデルになったとき、一部のパーツは使用不可になった。制限内で切れ長の目を作ってみたが、目の開き具合で無理やり横長に見せているせいで半目気味。これは時間があったらまたいじろう。
もう一つは声だ。これは私と彼の差ではなく、作ったときと好みがちょっと変わったから。
好きな声優がよく演じる役柄は“10代後半のお姉さん”から“大人の女性”にシフトしていった。新開拓してもいいが、聞きなれた声はすこし低くなっても聞いてて落ち着くから、これがいい。
「これからもよろしく」
ボイステストで一言喋る。彼女にかけたつもりのその言葉は彼女の口から私に返ってくる。芯の強さを表した凛々しい声だ、この声らしく振舞うことをもう一度心の中で誓う。
これでOKだ。
【スキルビルドを開始します】
【まず流派を選択してください。
初期流派はリセットしてもレベル1となり、なくなりません。】
世界観に合わせて【流派】をクラスの概念に充てているのは変わっていない。
ここらへんはTRPG経験があるとわかりやすい、彼女はどうだろう。
【流派】=【クラススキル】に分類されるスキルを先に取らないとほかのスキルが獲得・使用できない。クラススキルはレベル30まで強化できて、クラスレベルがパラメータ補正とそのクラスで取れるスキルの条件になる。
ついでにいうと自分で経験値を振り込まないと上がらないというTRPG成長方式だ。これはクラススキルだけではなく、ほかのスキルも同じだ。
一覧から【飛天流退魔術】を探しだす。
飛天流退魔術
主な伝承者が女性の流派。金剛流退魔術と同一の起源をもつ。
素早い身のこなし、【切り払い】と【いなし】による防御が得意。
うん、相変わらずの「嘘はついていないが本当のことも言っていない」ぷりで笑いが込み上げる。
【経験値を振り分けてスキルを獲得してください】
以前あった「武器系は1種取得することがおすすめです」的な文言はない。
取らないと通常攻撃すらできない前の仕様とは違うんだな。
私の場合、武道の経験はない――正確に言うと高校の体育で柔道と剣道をやった程度、もう20年前だ――から、各種攻撃スキルが必須かな。
スキルツリーリストから飛天流退魔術を選び、その得意武器から刀のスキルツリーを開いて、「リストに追加」をする。スキルツリーリストまで戻って、飛天流と刀の2項目になったのを確認して刀のツリーを開く。これは今まで通りだから何の迷いもなくできた。
刀ツリーの中身も大きく変わっていない、一番左の列に始点となる【基礎】があって、そこから【上段の構え】【中段の構え】【下段の構え】に分岐。
【基礎】を取れば【振り回す】攻撃を自動習得。上段、中段、下段を取っていけばコンボパーツが解禁、と言っても獲得に経験値が必要だな。
最初の目標は使い慣れた【脇構え】から下段コンボ3段で人間サイズ以下の雑魚を確殺すること。
下段からの攻撃が3段まで出せるようにスキルを取り、経験値をすこし残して終了。経験値稼いだらコンボ各段を強力のものに置き換えていくつもりだ。
【2体目以降のキャラクターは初期装備がありませんのでご注意ください。】
けち。
でもただにするとキャラ作成→装備を倉庫送り→ほかキャラで売却でお金が溜まるから仕方ない。
【スキルビルドを終了します】
【衣装を選んでください】
現代の衣装――学生服、スーツ、ジャージ&etc.――と初期流派に関連あるものから選べる。
白衣に緋袴というシンプルな巫女装束――飛天流が表社会での擬態――を選ぶつもりだったが、候補に【飛天流の戦装(無印)】【飛天流の戦装(紅)】【飛天流の戦装(紅蓮)】……、歴代の衣装がそろっている、未実装だった劇場版最新作のもある、大サービスだな。
記憶をたどって【飛天流の戦装(激)】を選んでみた。
真っ黒。
一見忍者のように見えるが、製作者いわく当世具足。
最新素材や縫製技術で作られた21世紀当世具足から兜と胴を取った状態だそうだ。
インナーは和服ではなくボディスーツ、中にワンピース水着を着ているようなラインが胸元や鼠径部にある。
上半身に着ているボレロに見えるのは富永指貫籠手――満智羅が籠手と一体化したもの。アンダーバストぐらいの丈しかないからどこかの真田幸村みたいだ。
脇の下にはガンホルダー、左右一つずつ。
佩楯は太ももの正面から側面をカバーするように巻きつけられていて、それつるすためのガーターベルトは腰のくびれを強調する。よく見ると太ももの内側には御札入れがある。
そのしたは、つや消しされた臑当と甲懸はロングブーツのように足を包む。
これを普段着の下に着ているのが激の設定だ、だからかオプションで巫女服を着せられる。
やってみた。重ね着ではないが、単純なモデル流用でもない。
ちゃんと手足は籠手や地下足袋が見えるなど細かい差がある。
さらに普通の巫女装束と同じになる幻術オプションもある、一粒で三度おいしい衣装だ。
これにしよう。
【2体目以降のキャラクターであるため、コスチュームは品質0となります。
防具としての能力を発揮するにはリビルドが必要です。】
新システムかな?あとで調てみよう。
【BMIテストを行います。キャラクターデータを一時的に保存します】
ここから苦手なあれがくる。