故郷
ライブハウス コロップ
「今日で6年か…」
バーカンで酒を飲みながら携帯を見てる長髪の男が
ボソッと呟く
アイドルだけでなくオタクにも多大な影響を与え
今でも忘れられない人は沢山いる
「明音ちゃんのことですよね
ゼンさんに教えてもらって何度か見に行きました」
隣に座ってた男が財布からチェキを取り出し
テーブルに置き始めた
「兄ちゃん若いのにゼンくん知っとるんやな
あの日から何も音沙汰無いけど元気しとんやろか」
「人を魅了する歌唱力がーなんて言われてたけど明音ちゃんがステージで輝けた本当の理由はフロアを笑顔溢れる場所にしたゼンくんの力やったんかもな」
「かもしれないですね
ゼンさんが来なくなってから現場来なくなったオタクかなりいますもんね」
「ほんまに何してんやろか」
ーファミレスーー
「希美歌さんそれほんまに言うてるんですか」
「ええ、会社が倒産したばっかで路頭に迷ってるならかなり好都合かなって思ったのよ」
希美歌さんが知っててもおかしくはない
俺の会社は割と有名な企業だったので倒産した時に
ネットニュースで記事が上がってたからだ
「それはそうですが知識なんて無いですよ」
「そう言うと思った」
希美歌さんは鞄から1枚の紙を取り出し
机の真ん中に置く
そこにはグループ名とスタッフの名前だけが書かれ
メンバー欄には誰の名前も書かれていなかった
希美歌さんが俺に持ちかけてきたのは
ソリダリエタが解散してからずっと考えてきたこと
新しいグループで次こそはあの場所に立つ
「ソリダリエタに居たスタッフ達で楽曲と営業そしてメンバーの管理をしてもらうわ
ただ、メンバーを集めるのが君の仕事ってわけ」
「なるほど、引き抜くんですか?」
「その方が手っ取り早いんだけどグループのイメージ悪くなる可能性あるし対バンで共演したらメンバーが嫌がるかなと思ったからこの子を説得してみて」
希美歌さんは携帯のホーム画面を見せてきた
綺麗な赤髪をした女の子がギターを持って
楽しそうに歌っている
右上に小さく空歌と書かれていた
「妹なんですか?」
「ふふっ、勘が鋭いわね」
元アイドル運営だとしてもあんな事件が起きたら流石にアイドルの写真を毎日見るような待受にしない
だが、アイドルってよりもソロシンガー
オジサン現場と言われていたことぐらいしか情報がない
「仲悪いって訳じゃないんだけどね
あの子にはあの子の理由があって今活動してるから
あまり強く言えないんだよね」
「安定感を求めるタイプには見えないですよ
誰かに脅されてるんじゃないですか?
チケット毎回売り切らないからとかで」
希美歌さんは涙声になりながら口を開けた
「凄いねゼンくんは
何も言わなくても分かってしまうんだ」
ビジュアルなら人気が出ても不思議ではない
だが、この世界で上を目指すのに必要なモノ
それは知名度だ
希美歌さんが運営だったソリダリエタの名前を使えば今より良いステージに立てるかもしれない
でも、それを使ってしまったら自分がここに立ててるのは姉さんに頼ったこととなってしまう
その葛藤の中で今でもずっと出口のないトンネルを必死に走り続けているのだろう
「ライブあるのいつですか?」
「今日よ、場所は心斎橋コロップ
ゼンくんにとって思い出の場所だよね」
「人生ほんま何が起こるか分かんないですね
説得してみますよ俺も前向かないといけないんで」
そう言って俺はファミレスを出て
ライブハウスへと走っていった