始まり
第一話
アイドル戦国時代
そう呼ばれていたのも昔の話
かつて数多くのアイドル達が多くの人から注目されて人々の元気を与える存在として輝いてた
1人1人アイドルとして目指したかった場所は違えど
アイドルになった理由は皆同じだった
園原 明音
16歳で大阪の2人組アイドルグループ
Solidarietà(ソリダリエタ)に加入し2ヶ月後に行われた単独ライブで圧倒的な歌唱力を見せつけ大阪地下のオタク達に名が知れる存在となった
ソリダリエタで活動してる
響と花鈴
2人に足りなかったもの
それはどんだけ努力してもすぐには手に入れることの出来ない歌唱力
曲が良いとは散々言われるが生かしきれない
それが2人を次のステージに進むことの出来ない
大きな足枷となっていたのだ
そこに突然現れたの明音は曲を最大限に生かしつつ
2人をより輝かせることの出来る存在だった
明音が加入してから沢山の出演依頼が殺到し明音が18歳になった時にはオタクが沢山増えてキャパ1000未満のライブハウスでライブするのは限界になっており単独はZeppを使うようになっていた
不毛の地と呼ばれた大阪で輝く一番星となったが
3人の人生はそんな上手くいくことはなかった
自己紹介が遅れたが俺の名前は新谷 善
アイドルオタクの時は周りからゼンと呼ばれていた
俺は今墓参りの為に墓地にいる
じいちゃんもばあちゃんも元気だ
親も亡くなっていない
じゃあ誰の墓参りかって?
血は繋がっていなくとも大好きで大切な人
俺にとって世界でたった1人のお姫様
園原 明音の墓参りだ
ただのオタクが何でこんな所に居るのか分からない
でも、毎年この日になると自然と来てしまっている
「今年も来てくれたんだゼンくん」
聞き覚えのある女性の声が少し遠くから聞こえ
その場から立ち上がって振り返る
艶のある黒髪をなびかせてシュッとした顔立ちの女性はソリダリエタのプロデューサーだった
「お久しぶりです希美歌さん」
思わず涙が出てきそうになったのを気付かれないよう会釈してごまかした
「あれから6年か・・・.」
当時のことは今でも昨日のことみたいに
ハッキリと覚えている
朝ごはんを食べながらテレビを垂れ流していると
突然19歳の女の子が誰かによって殺害されたとの
速報が流れて頭が真っ白になった
場所は大阪のアイドルともゆかりのある大阪南港
snsでは1週間ほど明音の話題だけで埋め尽くされ
沢山届いてたオタク達のメッセージもまともに見れず1ヶ月は放心状態だった
ここに来れるようになれたのも去年希美歌さんに誘われて少し向き合えるようになったから
立ち止まっていても時間は流れ続ける
今ではもう話す人間も少なくなってきたが
毎年この日だけは皆が同じ気持ちになる
「前向かないとダメだって分かってるんすけどね
アイツの分まで笑っていないと合わす顔ないのに」
「明音がずっと嬉しそうに話してたんだよ
ゼンがフロアで色んな人と肩組んだり歌ったりしながらニコニコしてるの見ると元気になれるって
出会えて良かったなって心の底から思えた人だって」
「直接言えよバカ…」
一度も褒められたことなんてなかった
そんな俺を真っ直ぐな眼で褒めてくれたのは
明音だけだった
誰からも必要とされてない居なくてもいい存在
そんな俺を私にとっては宝物だよと言ってくれた
「ゼンくん今から時間あるよね?」
俺は頷いて希美歌さんと街へ向かって歩いた