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そして過去へ…

クレクルーザ師匠と俺と千夏は、魔術師団で師団長と副師団長に江西 安奈に施した魔術の件を話した。


案の定、団長達は頭を抱えた。


「誘導魔法…ということはその異界の女性が言葉を発する時に誘導…つまりは気持ちを引き付ける言葉を操れるということですね。老師~それは諜報部が使う特殊魔法じゃないですかっ…一般の女性に教えてはいけませんよ」


俺は副師団長から高等魔術~応用編~という魔術本を借りて読んでいた。因みに文字の読み書きや言語はクレクルーザ師匠が魔法をかけてくれているので不自由はない。


「あ、でも誘導魔法は術をかける者より高魔力を保持する者には効かない…とありますね」


「モエリアント王国民は魔力が無い…と言われている」


「あっ!」


魔術師団長がジロッと俺を睨んだ。え~と…慌てて次の項目を探す。


「時間停止魔法……文字通り物体の時間を外界と遮断して進行を止める術。但し生物や動植物には原則使用してはいけない。あれ?でも師匠は俺にもその術使ってませんでした?何か副作用があるのでしょうか?」


俺が魔術書から顔を上げてそう聞くと、老師は結構慌てている。まあ、師団長の前で堂々と違反してます!とは言い難いよな。


「副作用は…無い。じゃが無理やり時間を止めると寿命が縮むとも言われている」


うわ…俺、寿命縮んだの?明日死んじゃったらどうしてくれるんだよ…。


「では、老師の授けた誘導や時を巡る魔術もですが、その界渡りして来たエニシアンナは碌な知識も得ないまま、魔術を半永久的に使える状態になっている訳ですね」


「そんな術式…いつ開発されていたのですか!」


師団長と副師団長が怒ると、クレクルーザ師匠は更に縮こまって頭を下げた。


「当時はまだ開発の途中だった…。エニシアンナに、何とかこの世界でも生きていけるように魔法を教えてくれ…とせがまれて、術をかけた。そうして…数日たった後……エニシアンナは逃げていなくなった。そのチナツも言っていたが…………金も盗まれていた」


「あ…」


「酷いな…」


「まあ…」


「なんと!」


皆のどんよりした声が重なる。金品を盗って逃げたか……そりゃクレクルーザ師匠も嘘をついて誤魔化すよな。色呆けしている間に逃げられたなんて言い出せなくなるよな。


そういう事もあって、国王陛下も交えて緊急の会議が開かれた。クレクルーザ師匠の処罰は…というと、江西 安奈に渡した術式が直接モエリアント王国との戦争の引き金になっているのかは、事実確認が取れていないので、処分は保留となった。


ただ、師匠は江西 安奈に渡した術式をこの数年で改良し、完璧な術式として完成させていた。


この功績を認め、師匠の処罰も取り消しになるので…と俺は見ている。


兎に角


モエリアント王国の戦闘行為を阻止すべく、シーセンサ王国とワズバルア公国、ハレンバレン王国で協議した結果、シーセンサの軍部がモエリアント王国の反体制派と接触出来たということもあり、反体制派の協力の元、三カ国合同で一気に王都を制圧することになった。


俺と千夏も作戦に参加することになった。子供達は魔術師仲間の所に預けて行くことになった。千夏には残れと言ったのだが、逆に怖い顔で言い切られてしまった。


「この世界に来た時から2人で頑張って来たでしょう?今更離れているのは嫌よ。晃ちゃんが考えているより、私は晃ちゃんのことが大事なのよ?」


泣けた…俺ってこんなに愛されてるんだと思って泣けた。


俺達と師匠は、魔術師団の術師達と一緒にモエリアント王国へ向けて出発した。道中、師匠が合流した三カ国連合軍の中でも各軍から推挙された数名(俺達を含む)に例の江西 安奈の術を改めて説明してくれた。


「反体制派の情報でモエリアント国王陛下の側に黒髪に黒い瞳の少女が付き従っている…と知らされた」


シーセンサ王国の大佐と少佐、ワズバルア公国の術師2人が俺と千夏の方を見た。俺達も黒髪に黒い瞳だ。


「攻撃系の術は当時は使えなかったが数年経っている間に、こちらのコウジとチナツが私と同等の術師になったように、エニシアンナも術師として能力を高めている可能性もある。くれぐれも気を付けて欲しい」


何だか師匠がめっちゃ脅すから今頃怖くなってきた。ていうか、江西 安奈自体は怖くないんだよ。小柄なおばさんだと分かってるから…。争いとか戦?が怖すぎる…。


シーセンサ王国側の国境からモエリアント王国へ侵入した。はっきり言って国境警備はガバガバだった。攻撃魔法で砦を攻撃すれば、国境の兵士は逃げ出した。


モエリアント王国内もハレンベレンへの侵攻に戦力を取られているのか、国内の警備も手薄だった。


三ヵ国連合軍は一気に侵攻していった。モエリアント王国軍もやっと戦力を国内に戻して来ていたが、こちらの戦力の方が圧倒的だった。


本隊より先行部隊として、俺達は先にモエリアント城に乗り込んだ。城内も警備は手薄だった。ただ奥、王族の住居部分に向かうにつれて警備は厳重になっている。


「この奥にエニシアンナがおるわ…私の渡した魔術の気配がする」


流石クレクルーザ師匠、色呆けだなんて心の中で貶してすみません。ちゃんと追跡出来るように、自分の魔術印に目印をつけていたみたいだ。


俺達が廊下を進んでいると少し先の角から数人の男女が飛び出して来て庭に出て行くのが見えた。


「エニシアンナ!」


クレクルーザ師匠が叫んだので俺と千夏は庭に走り込んだ。俺達の後をシーセンサ王国の大佐と少佐、ワズバルア公国の術師2人が付いて来る。


「コウジあまり前へ出るな!」


大佐が俺達より前に走り出して庇うように身構えた。庭先には男2人と女性1人がいた。女性は黒目黒髪の小柄な…あれが江西 安奈だろう。


こんな顔なんだ…。というのが江西安奈を見てまず、思ったことだった。


はっきり言うと、平たい顔だった。アジア人特有の凹凸の無い、切れ長の平たい目、低い鼻、薄い唇。まあ平均的な日本人顔だった。


千夏の方が欧米的?というか目鼻立ちのはっきりした顔なのは間違いない。


「え?この人なの?」


千夏もやっぱり絶句している。千夏も俺と一緒で江西 安奈を絶世の美女だと妄想を膨らませていたみたいだ。あまり美醜の良し悪しを言うのあれだけど、特徴の無い顔だと思うので、不審に思いクレクルーザ師匠の顔を見てしまう。


「あの人が江西 安奈で間違いないでしょうか?」


「ああ、間違いない」


すごいな、俺は次に会っても江西 安奈の顔が分からないと思うけどな。


クレクルーザ師匠は少し前に出ながら声を張り上げた。


「何を画策しておるか分からんが、大人しく投降されるが宜しい」


クレクルーザ師匠まだ情をかけるの?大人しくも何も強盗されたんだぜ?


すると、2人いた男の内の1人が俺を指差しながら叫んだ。


「その髪色っ貴様だな!レニシアンナの叡智を姑息な術式で盗んだのはっ!早く返せっそれは私のものだ!」


もしかしてこの人、モエリアント王国の国王陛下か?


「俺達の知識は一般的なものです。それこそ俺達の世界の10才くらいの子供なら誰でも知っているものです。常識という範囲のものです。当然、江西 安奈も知っていることです。江西さん、通販で商品を買ったら誰が届けてくれますか?」


江西 安奈はポカンとした後半笑いになった。


「え?通販…?宅配業者?…」


「そう…ですがこの世界に通販事業はありませんよ。運送業者、宅配システムもありません。この事業を始めていれば膨大な利益が生まれましたね」


「…!」


江西 安奈は顔色を変えた。


「俺達が教えたのはこの世界に無いものだけです。その知識は俺達の頭の中に当たり前としてインプットされています。それを思いつく限り教えただけです。あなたにだって出来た」


すると国王陛下がワナワナと震えながら江西 安奈の肩を掴んだ。


「レニシアンナァ!お前叡智を所持していたのではないかっ?!何故今まで出さなかった…!」


江西 安奈はその国王陛下の手を振り払った。江西 安奈は睨みながら


「くそっ!上手くいってたのにっ!」


そう叫んだ後…………………忽然と消えた。


「…!」


「時を巡る魔法を使った!」


「これが?!」


クレクルーザ師匠の言葉にワズバルア公国の術師2人が、江西 安奈の消えた辺りの術の痕跡を追尾魔法で追っている。


モエリアント王国の国王陛下は大佐と中佐が拘束した。


「師匠…江西 安奈は過去へ逃げたのですよね?」


師匠と魔術師は俺の方を見たが何か表情がおかしい。


「コウジ…以前、話していたな?君達の世界で過去に行った者が世界の破滅をもたらすと…」


えぇ?!そう言えば…そういうSF小説の話をしたような…。


「あ、あれは物語の話で…え~と」


俺がオロオロしていると千夏が代わりに答えてくれた。


「彼女が個人的に何か事件を起こしたとしても、世界が滅亡するような大きなことにはならないかと思います」


「しかし老師の話を聞く限り、望む時間へ戻れるのだろう?あの女はどこに戻ったのだろうか?」


「まさかどなたかの暗殺を企てるとか?」


「見た所非力そうだし、まず要人の暗殺は無理だろう」


シーセンサ王国の大佐と少佐が中々に怖いことを言っている。ワズバルア公国の魔術師の2人が俺達の所に戻って来ると


「追跡が出来ました。どうしますか?」


そう言ってクレクルーザ師匠を見た。師匠は俺と千夏を交互に見た。


「私が追う」


師匠がそう言うと、シーセンサ王国の大佐が声を上げた。


「老師っ!それはなりませんっご老体で大規模魔法を使役して、もし術の反動で命を落とされたらどうされますかっ!」


大佐に大賛成だ。そもそもだけど、何もクレクルーザ師匠だけ行く必要はないんだじゃないかな?俺は思いついたことを師匠に尋ねてみた。


「時を巡る魔法ですが、例えば…過去に行って数年間過ごしたとしても、この時間この場所に戻ってくればこちらでの時間はそのままなんですよね?」


師匠も大佐達もポカンとしている。あ…こういうタイムリープの理論とか考え方って異世界独特かな?すると千夏も


「そうよね、江西 安奈を追いかけて別の時間に移動していても、この瞬間に戻って来ればいいのだから実質瞬きの間に戻って来れるよね?だったら、私達も行きますよ。江西 安奈を捕まえるのに師匠だけでは大変です」


と賛同を示してくれた。すると大佐と少佐…おまけにワズバルア公国の魔術師2人が


「そんなっいくらなんでもコウジ達だけでは危険だ!」


4人共が一斉に反対した。しかし議論している暇は無い…とのことで急ぎハレンバレン王国の国王陛下に許可を頂き…結局は我々全員で江西 安奈の後を追うことになった。


そうして師匠の術で降り立った先は…モエリアント王国のようだった。俺達はまずは使われてなさそうな部屋に入り、今後の作戦を立てた。


姿を隠す魔法を使って、ここがいつの時代かを確認する。単独行動は危険なので皆で移動する。江西 安奈の目的が暗殺の場合は取り押さえてすぐに連れて帰る。


そう言って俺達は部屋を出た……が目の前に燃え上がるような赤髪の男がドアの前に立っていた。目の前の男…40代くらいの男は目を見開き、俺達を見ている。魔法で姿を隠しているのにだ…。


「……誰かいるの、か?」


大佐の動きは早かった。その男の手を掴むと、再び俺達と共にその男を先程の部屋に押し込んだ。手を掴まれたことによって術の効果範囲に入り、男は俺達の姿が認識出来ているはずだ。


「突然なことで済まない、私はシーセンサ王国のシリューデ=ワイア大佐と申す」


大佐…ワイア大佐はすぐに自己紹介をして、胸の紋章を見せている。そして少佐、魔術師達、俺達と師匠も自己紹介をした。ワイア大佐はまだ茫然としている赤髪の男の顔を覗き込んだ。


「失礼ですが、卿は魔力をお持ちですね」


「あっ!」


そうかっ!自分達が魔力持ちだからと失念していた。そう…この赤髪の彼は魔力を持っている、このモエリアント王国の中で魔力持ちは存在したんだ…。


赤髪の男性は…小さな声で違います…違います、と繰り返している。千夏はその男性に


「私達も全員魔力持ちなのですよ?」


と微笑んだ。赤髪の男性は体を震わせながら手で顔を覆った。


男性の名はパラリディアン=ムトアーリデと名乗った。モエリアント王国の公爵位を拝している。つまり現王の弟だ。それだけでも驚きなのだが、彼は魔力を持っているが為に王位継承権を取り上げられ、政務から遠ざけられているらしい。


ムトアーリデ公爵の話には皆、驚愕した。モエリアント王国では『魔力持ち』が迫害対象なのだ。


「私はいいのです…生まれた時から魔力持ちであったことで、嫌と言うほど現実を受け入れて来た。だが…私はまだ恵まれている。この国に住むものは…産まれた子が魔力持ちだと分かると、子供は取り上げられて殺されている」


「何だって?!」


「酷いっ!」


迫害どころか国による虐殺行為だ。あちらの国では魔力無しで迫害され、こっちはこっちで魔力があって迫害される。


ムトアーリデ公爵は事情を話し終えた大佐の顔を見て何度も頷いている。


「あなた方に会わせたい人達がいます。皆…魔力を持ち、迫害され…そして産まれた子供を奪われた方達だ」


江西 安奈の行方を捜すという本来の目的からは外れてはいるが、俺達はムトアーリデ公爵の誘いに付いて行くことにした。


「魔力を持っていないって劣等感から『魔道具』を自在に扱っている私達を妬んだんじゃないの?」


そう千夏がモエリアント王国の侵攻理由を推察したことで皆が、江西 安奈に唆されて愚行に走ってしまった原因はこの迫害が端を発しているのではないか?…と思ったからなのだ。


俺も千夏も異世界から来た訳だが、もし魔力が無かったらどうなっていたのだろうか?あの国を追い出されてモエリアント王国に流れ着いていたのだろうか?


ムトアーリデ公爵は人気の無い大きな邸宅へ俺達を連れて行った。当たり前だが、魔力系の罠も防御魔法の痕跡も無い。


屋敷の中にはムトアーリデ公爵夫人がいた。俺達が他国の者で皆、魔力持ちだと分かると泣いていた。


「私と…妻の間に出来た男の子は国に取り上げられた」


「っ!」


千夏が小さく悲鳴を上げた。そして暫くして部屋に入って来た、男女2人は俺達に会釈をして名乗った。


フロブレン侯爵夫妻…このご夫妻も4人居る子供の内、娘2人を魔力持ちと判定されて国に取り上げられてしまった親御さんだった。


「この国はおかしいのです。昔…自分達が迫害されて逃れてきたのに、今度は自分達が魔力持ちを忌避する。おかしいのですよ」


フロブレン夫人はそう言って静かに涙を流していた。


「俺は異世界人なので…異世界の基準でしかモノの見れませんが、魔力も遺伝…つまりは親から子へ子から孫へ引き継がれます。例え親に魔力が無いと判断されても…体の奥の深層部分に魔力は眠っているだけなのではないかと思っています。人は能力のおよそ三割しか動かせないと言われています。後の七割は眠っている、もしくは動かす回路が切れている…もしくは動かし方を忘れている…俺はそう思っています。この世界の人は全員魔力を持っていて、その使い方を忘れている人と覚えている人がいる。その違いだけだと思います」


「使い方を忘れている…?」


ムトアーリデ公爵がそう呟いたので俺は頷いて公爵夫人とフロブレン夫妻を見た。


「使えないモノを無意識に体の奥の方へ押し込んで鍵をかけて仕舞い込んだ…という感じでしょうか?俺から見れば魔力量が少ないと言っている軍人の方でも身体能力が異常に高い。僕らの世界の人では有り得ない位高いのです。つまり身体強化の特殊魔法を無意識化に使っている…と考えられるほどなのです」


まあここで俺の魔力とは…みたいな話をした所で、現状を打開出来る訳ではないので…という感じでさらりと話は流しておいて今分かっている限りの状況確認をしてみた。


「なるほど、我々は200年前のモエリアント王国に来ているのか…」


「あの本当にそんな先の時から来られたのですか?」


俺達はムトアーリデ公爵の問いかけに顔を見合わせた後、頷いた。


「信じられないかもしれないが、そういう魔法を使ったのだ。モエリアント王国は…200年先の世でハレンバレンに侵攻しようとして、諸外国からの反発を食らい制圧を受けている…近いうちにどこかの国の属国になるだろう。」


ワイア大佐の言葉にムトアーリデ公爵は苦笑いを浮かべながら


「200年か…後200年もこの国は魔力持ちを迫害しながら永らえるのか…」


そう呟いた。そうだ…後200年もこのままこの人達は耐えなくてはならないのか…。


それから、すでに江西 安奈が王宮内にいるのではないかと手分けして捜索しているのだが、見付からないままに数日が過ぎていた。


江西 安奈がこの国の王でも暗殺するのでは…という意見も少佐から出たので、王宮内に現れた時の事態に備えるべく、ムトアーリデ公爵にお世話になるのも気が引けるし…一石二鳥だとムトアーリデ公爵の補佐という形で城での雑用をこなす仕事を始めることになった。


という訳でこの国に潜伏するにあたり俺達は姿を変える魔法を使うことにした。クレクルーザ師匠はご老体なので今回の張り込み?は公爵家で待機という扱いだ。


まず大佐と少佐はムトアーリデ公爵とフロブレン侯爵の護衛として仕事をすることになった。そして俺と千夏と魔術師の2人は一緒に城の事務官として働きつつ、江西 安奈の出現に気を付けることになった。


ところが俺達は事務官職につくなり優秀な人材だと他の事務官から認められて、政務事務官補佐のポジションに入れられた。好都合だけど面倒くさいことになった。まあ働きますけどね…。


「しかしどうもおかしいですね、エニシアンナの魔質を捉えようとすると、魔力が途切れると言いますか…」


事務仕事をしながら術師の1人、スエルトアさんが首を捻っている。するともう1人の術師のキエシトラさんが眼鏡を押し上げながら、俺を見た。


「エニシアンナの時を巡る魔法は不完全だと、老師が以前言ってましたよね?それに他に施した術も術式も見せて頂きましたが、かなりの高位魔法です。素人の女性が予備知識なく乱用出来る術ではありません。故に今の彼女の状態は魔力供給が不安定になっているのでは?」


それを聞いていた千夏が、そうか!と声を上げた。


「だから魔力が途切れて江西 安奈の場所が特定できないのね」


千夏は今、姿を変えてレアンナ=フロブレン元侯爵家の令嬢として生活をしている。因みに俺はログリディアン=ムトアーリデ公爵の子息として生活している。この名前は侯爵、公爵夫妻の本当の子供達につけていた名前だ。そう…魔力持ちだと判明して連れて行かれてしまった子供だ。


レアンナの姿を魔法で作って見せた時もログリディアンの姿を作った時も…両方のご両親に目一杯泣かれたが逆に喜ばれもした。


「あの子達が生きていて…大人なってくれたみたいだわ」


辛いなぁ…同じ親としてもらい泣きをしてしまった。チビ達元気かな…。とか思っていたら、クレクルーザ師匠が子供達もこの時代に連れて来てくれた。もう何でもありだな。


ムトアーリデ公爵夫妻もフロブレン侯爵夫妻も俺達の子供を見てめっちゃ喜んでくれた。本当の孫のようにうちの子供達を可愛がってくれている。泣けるぜ…。


さて江西 安奈が動き出すまで待つしかない状態なのだが俺達なりにこの国の内情に憂いていた。


この時代の王太子殿下…前国王陛下が急に崩御されてもうすぐ王に即位する予定の、ノクタリウス=フゴル=モエリアントは何とも出来の悪い殿下だったのだ。


地頭が悪いとは思わないが何せ、ぐうたらで不真面目だ。俺は自分が異世界人でこの国の人間では無いという心情から結構ずけずけとこの王子殿下に物申している。


この王子、大分おバカのようでいきなり降って湧いて出て来た『従兄弟』の俺を大して怪しみもせずに側に置いたまま、相変わらずぐうたらしているのだ。というより自分の周りに何も関心がないんじゃないかな?馬鹿殿下が持ってくる書類も不備と誤字だらけだ。毎日俺達が修正、訂正と確認作業に追われている。マジで仕事させろ。俺らは添削係じゃねえんだぞ?


「あの殿下アホですな」


「この書類…僕でもすぐに修正箇所は分かりますよ」


術師のスエルトアさんともう1人の術師のキエシトラさんが小声で王太子殿下、後数日で陛下の悪口を言っている。止めてやれよ、あの人マジでアホだと思うしさ。


そしてとうとう江西 安奈が姿を現した。


父のパラリディアン=ムトアーリデ公爵が知らせに来てくれた。


「今、近衛に潜り込ませている密偵から連絡があった。テラース領の森で殿下が不思議な女を拾って連れて帰って来たと…。お前の言っていたあの女に間違いないか?」


俺達は皆で集まって作戦を練った。人目のある所で江西 安奈を捕まえるのは得策ではない。例え姿を元に戻して江西 安奈を上手く浚っていけたとしても、万が一にも後に残されるムトアーリデ公爵とフロブレン侯爵のどちらにも迷惑をかける訳にいかない。


だとすると、どこか人目につかない所で女を捕まえようということになったのだが……これが中々に至難の業だった。何せノクタリウス王太子殿下…陛下になったのだが始終べったりと江西 安奈を連れて歩いているのだ。


今も隙を見付けて捕まえてやろうと俺は虎視眈々と狙っている……が、うちの千夏さんは別の意味で江西 安奈を睨み付けている。


理由は江西 安奈とノクタリウス陛下がテラース領の森から一緒に帰って来て、一応謁見が執り行われた時に起こった事件?からだった。


静々と江西 安奈に淑女の礼をして挨拶をしたレアンナ(千夏)の近くに江西 安奈が来てジロジロとレアンナを見た後に


「なんだぁ~地味ブス女じゃない!あんたなんかこのログリディアン様は似合わないわよ?」


耳元でそう嫌味たらしく囁かれたらしい。俺には生憎と聞こえなかったが…。その後、江西 安奈が俺にしな垂れかかって猫なで声で甘えるような事を言っていたのも千夏の癇に障ったらしい。


因みにリナファーシェ=ソエビテイス様にも


「ログリディアン様…あのような女性にまさか靡かれませんよね?」


と胡乱な目で見られる始末だった。止めてくれ、あれは結構年喰ったおばさんだからっ興味が無い!と強めに女性2人に言っておいた。それからリナファーシェ様とレアンナの共通の敵は江西 安奈だ。


このノクタリウス陛下と婚姻されているリナファーシェ=ソエビテイス元侯爵令嬢は王妃としての政務以外にも陛下分も両方さばいているのに彼女への態度は王妃どころか、部下以下の扱いだった。


俺も千夏もこの大人しく綺麗なリナファーシェ妃が可哀相で仕方なかった。


やっとログリディアンとレアンナ(本物?)が出てまいりました。

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