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突然の異世界

生まれ変わって事務官ですの番外編です。

今作の主人公は謎多き男、過去のログリディアンになります。

全編シリアスで笑う所は一切無しの暗い内容が続きますので、ご了承下さい。



「ログリディアン…どうしたの?」


俺が立ち上がったので、レアンナが声をかけてきた。


今、事務官の詰所は残業している俺とレアンナしかいないはずだ。何か人の気配を感じた気がして廊下に出てみた。廊下の向こう、謁見の間の周りに近衛の数が多いな。


「リディ」


反対側の廊下から父のパラリディアンが足早に歩いて来るのが見えた。


「今、近衛に潜り込ませている密偵から連絡があった。テラース領の森で殿下が不思議な女を拾って連れて帰って来たと…。お前の言っていたあの女に間違いないか?」


血が逆流するかと思った。そう…レニシアンナだっ!たしか江西 安奈と言う日本名のはずだ。俺はレアンナの方を見た。レアンナも父上に気が付いて外に出て来ていた。


「女が現れたそうだ」


「江西 安奈ですね」


レアンナが表情を強張らせた。俺はレアンナを抱き寄せるとお互いに震える体を抱き締め合った。


◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


そう…それは俺達、いや俺と千夏の2人に襲い掛かった不運だった。


クリスマスのあの日


俺は付き合っていた千夏とクリスマスディナーを楽しんだ後、俺の住んでいるマンションに2人で帰ろうとしていた。


その時、通りすがりのスナックの2階の階段から男女が言い争う声が聞こえた。巻き込まれたら…と思って足早に過ぎようとしたら、女の方が数段上の階段から足を踏み外したのか転んで落ちてきた。


「あっ!」


思わず俺も千夏も短く叫んでしまった。そうしたら、その転んで落ちた女が俺達の方を見て、よろめきながらこちらに走って来たのだ。


「ね…ねえっお兄さんっ助けてよ…あたし殺されちゃうよぉ…」


「やめろっ離せ…」


「晃ちゃんっ…!」


女は俺達の背後に回って近付いて来る男の方へ俺達を押し出して逃れようとしている?!


「殺すんならこの人達にしてよぉ!」


「っな?!」


おまけに女は強めに俺を押すと、自分は逃げ出した。嘘だろう?!何だっこの女!男の手には包丁がっマズイ!


俺は千夏を体ごと庇った。俺達は包丁を持った男に体を押されて横に倒れた。


何だか背中や首がめっちゃ痛い気がする…。フト気が付いたら、暗い場所で座っていた。背中や首はもう痛くない。ハッと隣を見ると千夏が倒れていた。


「千夏っ?!千夏…」


千夏はゆっくりと目を開けた。目を開けて左右を見回して…俺と目が合うと泣き出した。


「晃ちゃんっ…晃ちゃ…!」


俺は千夏を抱き締めた。その時気が付いた。俺達の横におじいさんが立っているのを…。


「ぎゃ…!」


俺も千夏も叫んで飛び退いた。おじいさんは長いローブみたいなのを着ていて長い髭を生やしている。


「驚かせてすまないな。私はクレクルーザという魔術師だ」


「マジュツシ…」


おじいさんは白い髭を手で撫でながら、おおそうじゃ!と言った。


「魔法使いと言った方が通じるかな?」


「魔法使い…え?何?どういうこと…」


「ちょっと話が長くなるがええかの?」


と言っておじいさんは俺と千夏の前に胡坐をかいて座った。


「先ずは…巻き込んでしまって済まなんだ。ワシの魔術研究が失敗してしまってな…。異世界とこちらの世界を繋いでしまったんだ。その時に怪我をしていた女性と一緒に君達まで連れて来てしまったんだ」


「怪我をしていた女性…?」


「刃物で刺されていたかの?取り敢えず魔法で治療はしたのだが、怪我の後遺症なのか自分がどこにいるのかどうか明確に理解出来てはいないみたいだったの。名前はエニシアンナと言っていたよ」


「江西 安奈かな?…ああ、あのスナックの女か」


顔は正直思い出せない。小柄な女だとは思うが…。あの女っ俺達を盾にしやがって!


「ちょっと待って下さい。…その怪我人を魔法で治療することが出来るのですか?」


千夏が俺の腕の中でそう叫んだ。


クレクルーザ…だったか?この自称魔法使いのじいさんは千夏に頷いてみせた。


「治療魔法は…色々制約はあるが出来るのだ。元々ワシの魔力研究が失敗して…この世界に引き込んでしまったからお詫びに治療して彼女に特別な魔法も使えるようにした」


「治療魔法…この世界?」


「うむ、ワシが住むこの世界じゃ」


頭が混乱する。この世界?魔法?え…ちょっと待てよ。魔法使いの住む世界…?俺の腕の中で千夏が更に声を上げた。


「ま…魔法で早く私達を元に戻して下さい」


そ、そうだ!それを言わなくちゃ…気が動転していてすっかり忘れていた。


髭のじいさんは頭を下げた。


「一度引き入れてしまった以上…もう元には戻せんのだ。誠に申し訳ない」


「………え?」


暗がりが少し明るくなってきた。室内に光?が差し込んで来る。


「夜が明けた…か。この部屋から出ようかの」


そう言っておじいさんが後ろを向いてドア?を開けた。柔らかく光が差し込んでいる。素朴なウッド調の建具や机が見える。


「晃ちゃん…」


千夏が俺の背中を叩く。ハッとして2人で支え合うようにして立ち上がった。


「ようこそ、ハレンバレン王国に」


じいさんは振り向いてそう俺達に言った。それが俺、坂本 晃司と石橋 千夏が異世界に足を踏み入れた一歩だった。


俺達はクレクルーザのじいさんから魔法やこの異世界の話を聞いた。クレクルーザのじいさんはこの国、ハレンバレン王国の魔術師団の顧問をしているらしい。


そして異世界を安全に旅行する『界移動魔法』の研究をしているそうだ。


「その研究中に魔力暴走が起こっての…お前達と怪我人を引き入れてしまったという訳だ」


クレクルーザは江西 杏奈にも同じ説明をしたらしい。


それを聞いた、怪我人の江西 安奈はクレクルーザの説明を受けると、命が助かって喜んだのも束の間、クレクルーザの庇護下は嫌だと言い、外で生活してみたいと止めるのも聞かずに、この国を出て行ったらしい。


何だかやけに行動力のある女だな…と思ったら、クレクルーザが言うには子供がおる母親だからかの~と言った。そうなんだ…子供がいる親の癖に俺達を盾にしたり、全然思いやりの欠片もない女だった。


「それで…私達は、もう前の世界に帰れないということですね」


一通り説明を受けた千夏にそう言われてクレクルーザのじいさんはハッ…とした後、肩を落とした。


「そう言う訳じゃ誠にすまん…」


済まんじゃ済まねえよ…これから千夏と将来は結婚して幸せに暮らして子供と孫に囲まれて…。


「じゃあ…私達ここで生活していかなきゃいけないのですね」


千夏の言葉にクレクルーザのじいさんは顔を上げた。


「勿論2人の生活の保障はワシが見るぞ。こう見えても顧問をやっとるくらいだから、金は持っている。それに君達は『異世界人』だからの。魔力量も底なしのようだし…魔法を覚えればすぐに一流の魔術師になれるだろう」


「魔術師!」


俺と千夏の声が重なった。悩んだったって仕方がない。そう言い出したのは千夏だ、そう千夏が居る。もし俺1人がこの世界に来てしまっていたらずっとメソメソしていただろう。


1人じゃない、愛する千夏がいる。そうだ、異世界だって変わらない。千夏と結婚して幸せになれるはずだ。


俺達はすぐにこちらの世界で婚姻し、夫婦揃ってクレクルーザのじいさんに魔法を教わることにした。


異世界からの客人…ハレンバレン王国の王族や魔術師団、軍人…皆、俺達に興味津々だった。俺達はこの国には無い技術、魔力に頼らない電気…伝えられる知識を人々に教えた。


そしてハレンバレン王国は魔力と機械技術を上手く融合させた最先端の魔道具生産の産業大国に成長した。その頃には俺達にも子供が産まれ、二男一女の父親になっていた俺は、クレクルーザの弟子として『界移動旅行』の最終段階まで研究を進めることが出来ていた。


「俺達の世界にもこの魔法で行ければいいんだけどな~」


「調べたけど、魔力探査範囲に地球は無かったものね、残念」


「おかーさんの生まれた世界は見れないの?」


一番下の息子ハルトが千夏の膝の上でそう言いながら俺を見た。


「そうなんだよ~今はハレンバレン王国も大分近代化はしてきたがな~。向こうはもっとすごいんだぞ〜!」


ハルトの頭を撫でていると、研究室の扉が激しく叩かれた。


「コウジ、来てくれ。国王陛下がお呼びだ」


声をかけて来たのは軍の中将閣下で俺達とも仲の良いジルビート=マクラーレイだった。彼の魔力が激しく揺らいでいる。何かあったのか…。


俺は千夏とハルトに家に帰っているように言いつけるとジルビートと研究室を飛び出した。


「何かあったのか?」


「モエリアント王国が魔道具開発の技術を独り占めせず、渡せ。と言って来ている」


「え?モエリアントって…確か魔力の無い…」


ジルビートが頷いた。


「詳しくは会議でな」


と行ったのでジルビートと急いで会議室に駆け込んだ。


会議室には軍の元帥達数名と、クレクルーザ師匠と魔術師団の師団長と副師団長、そして国王陛下に王子殿下お2人…物々しい。


俺達が入室したのを確認して、扉が閉められると宰相が声を張り上げた。


「モエリアント王国から異世界から来た異能力者の開発した製品の販売利権を自分達に譲渡しろ、と言ってきている」


「はぁ?」


異能者って誰だ?俺以外の人間からも、驚愕の声が上がっている。第一王子殿下が挙手された。


「この文書だけでは意味不明だろう?私達は返書を返した。『異世界から来た方々から与えられた知識を基にした、魔道具の数々は我が国の独自開発のものだ。何の権利があってそのような事を申されるのか?』返信はすぐ来たよ。『こちらには本物の異世界の客人がいる。その方が自分の知識は盗まれたと、言っている』」


「はああ?」


本物の異世界人?意味不明だ…。


「偽物とか本物とかあるんですか?」


思わず声に出してしまったが、誰も咎めなかったので、ゆっくりと会議室にいる方々に目をやる。


「私や妻が話したことは、ごく一般的な彼方の世界の知識です。それを此方の世界の専門家の皆さんが研究し、開発されたもので今まで開発された魔道具は間違いなくこの世界の知識です」


魔術師団の団長達から拍手が起こる。


「コウジよ、もしかするとエニシアンナがモエリアント王国にいるのではないかと思うのだ」


師匠、クレクルーザの声に皆が声を潜めた。


「私は以前、研究の失敗により異世界からコウジとチナツ…そしてエニシアンナを引き込んでしまった…ことは当時お話しました」


会議の間の重鎮達は皆が其々に頷いている。師匠は話を続けた。


「治療魔法は此方の世界では難しいが、可能です。但し条件があって治療しても全て元通りとはいかない可能性があるということ。記憶障害なども起こりやすい。そして…治療して病状に回復の兆しが現れない場合は即、治療を中止すること。これは…あくまで此方の世界の人間の場合だ。私はそれをそのまま、異世界人のエニシアンナに適用してしまった」


師匠は俺の方を見た。師匠のテーブルの上に置かれた手が震えている。


「ワシはうっかりと彼女を治療して…此方の世界の常識に当てはめて対応してしまった…。彼女は私の治療術の影響を受けて何か精神的な障害を患っているのかも…」


「師匠お待ち下さい。私は以前、話しましたよね?異世界で何が起こったのか。江西 安奈は自分が刺されそうになった時に俺達を盾にして逃げ出そうとした女なんですよ?異世界に居る時から精神的におかしいのです!」


俺がそう言うと、師匠は何故か俯いてしまった。どうしたのだろう…。


「ワシは……コウジの話を聞く前にエニシアンナの話を聞いてしまっていた。その時にエニシアンナは自分はあの2人に見殺しにされた。2人共も自分を助けてくれなかった…と泣きながら訴えていた…」


「師匠?!…まさかそんな話を信じて…」


師匠は益々手を震わせている。ああ……それで江西 安奈に治療を施し、彼女に特別な魔法を与えてしまったのか?


師匠だって男だ。江西 安奈に抱き付かれたり、もしかしてアレとかされて絆されたに違いない…。俺が溜め息をつくと、横のジルビート=マクラーレイも魔術師団長も深い溜め息をついた。


「そんな女に魔法を与えたのですね…」


俺が思わず呟いたのを魔術師団の皆様は聞き取っていたようだ。副師団長が挙手された。


「老師、魔法とは…その女性にどのような魔法を授けたのですか?」


魔術師団の副師団長がクレクルーザ師匠に尋ねた。クレクルーザは暫く言い淀んでいたが顔を上げた。


「時を遡る魔法だ」


「!」


俺も魔術師団の皆様もギョッとして思わず立ち上がった。クレクルーザ師匠に師事して数年…そんな時空魔法をいつ開発して成功させていたのか全然知らない。少なくとも俺と会った時にはレニシアンナに渡したのだから…。


魔術師団の皆様を見ると、結構慌てた感じで腰を浮かしている。魔術師団の方でも把握していない魔法なんだな。


「老師!それは初耳ですぞ?!そんな時空魔法どうして…っ?!」


「具体的にどのような術式なのですか?!」


クレクルーザ師匠は静かに魔術式の説明を始めた。


自分の望んだ時代に行けること。但し本人の魔力と生命力、体力をかなり消耗するとのこと。師匠の見立てでは1、2回が限度だという事。


「つまり未完成というか…多用は出来ない術なのだ。身体的損傷が激しい。無理に時空に歪みを作るのだ」


「ふぅ…じゃあそう頻繁には悪用出来ないのですね。良かったというべきか…しかし危険な術ですね」


「老師、禁術指定に致しますよ?」


魔術師団の団長と副師団長が老師を睨んだ。老師はシオシオと頭を下げた。もしかすると師匠は処罰されるかもしれない。


しかし問題は今、モエリアント王国から来ている親書…警告文?か。俺は手を挙げた。宰相が促したので立ち上がり、口を開いた。


「私は異世界人ですので、改めて確認させて頂きたいのですが…モエリアント王国の国民は、本当に魔力が()()のでしょうか?」


魔術師団の団長が大きく頷いた。


「世界中に稀に魔力の無い子供が産まれているのだが、この世界の者は魔力を使える者達が大半だ。はっきり言ってしまうと、昔は魔力無しの子を迫害していたのだ」


迫害か…。どこの世界でも一緒だな。


「迫害された者達は自然と集まり、国を作った…それがモエリアント王国の始まりだ。大体400年前くらいと言われている。そこからモエリアント王国には魔術師がいない、いないとされている。実際は分からない。他国と国交が無いし表面上は皆が魔力が使えないはずだ」


魔力が無いのに、魔道具の利権を求めるか…。


「兎に角、魔道具は我が国が独自開発したものだ。盗まれたと言うやら…どのように盗まれたか示してもらえばいいだろう?その本物の異世界人の方に技術を提供してもらい、こちらと同じ…いや、こちら以上の性能の良い魔道具を作ればいいはずだしな」


国王陛下は、怒ってるな。


本当にそのような返書をモエリアント王国に返したらしい。


それの返事は……モエリアント王国による我が国、ハレンベレン王国への一斉攻撃だった。


因みにモエリアント王国とハレンベレン王国の間には小さな小国があったのだが、非情にもモエリアント王国がその小国を蹂躙して我が国に侵攻してきたのだ。


これを知った周りの諸外国から激しい反発と抗議が起こった。


大規模遠征で戦力を消耗し、諸外国まで敵に回してしまったモエリアント王国だったのだが、ハレンベレン王国に向けた戦意を失うことは無かった。モエリアント王国はその勢いのまま我が国に侵攻してこようとしたが、うちの国境付近で立ち往生を余儀なくされていた。


そう……我が国の国境沿いには魔道具の『バリア』が設置してあるからだ。


簡単に言うと魔物理防御障壁を国境沿いに張り巡らしているのである。障壁の強度はかなりあり、障壁の高さも上空の雲の上に届くまである。砲弾くらいなら弾き飛ばすし、勿論許可なく人間も通さない仕組みだ。


こちら側は要所要所に障壁に見張りの兵を置いているだけでいいし、更に『バリア』の魔力が無くならないように点検しておけばよいだけだった。


戦争というよりモエリアント王国からの一方的な攻撃だった。こちらは防御に徹している。だが最近は国境沿いの住民から


「モエリアント王国からの怒鳴り声?や叫ぶ声が煩くて夜、眠れない!」


との苦情が多くて、消音魔法の機能を『バリア』に追加した。急いでやったことはこれだけだ。


今日、その消音魔法を魔術師団の団員達と手分けして設置し終わった後、団員達と物見塔に登っていた。そして『遠見』の魔法を使って国境沿いのモエリアント王国側の動きを見ている。


モエリアント王国は一応、毎日攻める場所を変えて投石をぶつけているが無駄骨だ。本当に無駄なことだといつ気が付くんだろうか…。


「あの『バリア』が投石ぐらいで壊れるわけないだろ?」


「余程の魔術攻撃じゃなきゃ壊れないよな」


物見塔で戦況を見ている団員達はモエリアント王国軍の子供騙しのような攻撃を見て失笑を浮かべている。


「そうだ、今日さ師団長が朝議に出た時に、モエリアント王国の侵攻に関することでシーセンサ王国から特使が来ていたって言ってたよ」


「特使か…そろそろシーセンサかワズバルア公国辺りが終結に向けて動くんじゃないかと思ってた。シーセンサはゴリゴリの軍事大国だもんな。こんな子供騙しの攻撃はするわ、ノノクリア共和国潰すわで…モエリアント王国を捻り潰すつもりなんじゃないか?」


「かもな~」


団員の言葉を横で聞きながら、俺も心の中で同意する。


そして国境から戻って来た俺は師匠の所を訪ねた。研究室の中に千夏もいた。


「コウジ、実は内密で話がある」


千夏を見ると、どうやら千夏は内密な話を先に聞いている感じだ。千夏の魔質に動揺はない。だか怒ってる?


「まずは、ワシは嘘をついておった。昔にエニシアンナに授けた魔法、時を巡る魔法だが…実は術に改良を重ねていて、今は術を使うのに魔力も体力もそれほど消費しなくなった。だから跳ぶのに回数制限は無い」


「ええっ!じゃあ魔術師団の団長達に嘘をついて…うぐぐ」


千夏に口を塞がれた。


「晃ちゃん声が大きい。つまりね、師匠はあの術を江西 安奈に渡してしまったせいで今のモエリアント王国の事態が起こっているんじゃないと思っているのよ」


「はあ?だってあげた術って時を巡る魔法だろ?戦争とか侵略とか関係ないじゃないか…分類的に攻撃魔法じゃないんだろ?」


師匠は真っ青になって俯いている。ああ、それでも師匠は気に病んでいるんだな…。


「晃ちゃん、言い方は良くないかもしれないけど、術をあげたのだって詐欺みたいなものでしょう?私達と話す前に師匠は江西 安奈からの言い分を聞いてしまった。勿論、それを丸々信じてしまった師匠も良くないし、今の今まで黙っていたのも良くないとは思うよ?でも誰だって詐欺にあった…騙されて金品を盗られたって…言い出しにくくない?」


千夏に言われて師匠が益々体を小さくさせた。止めてやれ…ジジイと言えども男なんだ、師匠のプライドがズタズタだ。


師匠の心境としては、息子の嫁(千夏)にオレオレ詐欺に引っ掛かったのを、責められずに「お父さんも年だしね」と言われて同情されているみたいだと思うよ。現実にはオレオレどころか戦争も起こっているし笑えない状況だけど…。


しかし今の千夏の言い方で引っ掛かるものがあった。金品を盗られた?何だか物々しい言い方だな…。


「師匠…江西 安奈を助けた時にどんな話をされたのですか?」


俺がそう言うと明らかに師匠は体をビクつかせた。千夏が俺を制した。


「待って、晃ちゃん、師匠…もう一度確認させて下さい。江西 安奈と私達を助けた時に、まず怪我をしていた江西 安奈を助けたのですよね?その後に彼女と話して私達の事を彼女に聞かされたのですよね?」


師匠は目を泳がせている。


「晃ちゃんが来る前に師匠から、江西 安奈の事を少し聞いていたのよ。その時に師匠は『今考えればワシが悪かった。』と言っていたのよね。ねぇ師匠?本当にその()()()()しか渡していないの?言い難いとは思うけど…もっと色々あげてしまってのじゃないですか?」


「!」


千夏の言葉に血の気が引いた。そうだ…何故モエリアント王国が戦争を仕掛けてきたという情報だけで、すぐに江西 安奈のことと結びつけるのだ?と思っていたのだ。


戦争でも起こせるほどの『何か』を江西 安奈に渡してしまった?


師匠、クレクルーザは深く深く息を吐いた。


「ワシは…エニシアンナの怪我を治して、この世界の事を説明した。エ、エニシアンナは命が助かったことを喜んだ後…すぐに怖いと泣きながらワシに縋ってきた。エニシアンナは自分が知らない男に殺されかけたこと、助けを求めたコウジとチナツに見捨てられたこと、コウジ達も一緒にこの世界に来ていることに怯えていた」


「そんな…」


思わず絶句する。何故俺達が怯えられなきゃならんのだ?


「ワシは…恥ずかしい話だが、縋られてその言葉を鵜呑みにして…コウジ達をエニシアンナの目に触れないように………閉じ込めたのだ」


「ええっ!」


俺と千夏は叫んでいた。この世界に倒れていた部屋…部屋というには真っ暗でおかしな空間だと思ったけど、もしかして…。


「俺達は亜空間に入れられていたのですか?」


師匠は力なく頷いた。やはりな…。


「コウジ達を亜空間に入れて時間停止魔法と障壁で出て来れないようにしていた」


「時間停止!に…人間に使って大丈夫なので………っ!もしかして師匠…不認可の魔法を俺達に使いましたね?」


師匠は頷いた。なるほどな~師匠がやたらとビクビクしているのはこれなのか…。人間向けて不認可、つまりは人体に向けて使っちゃいけませんとある魔法を使った訳だ。


「他には何かあるのですか…」


千夏が恐る恐る聞くと、師匠は


「エニシアンナ自身に、時間停止魔法と誘導魔法と…半永久継続魔法と……時を巡る魔法をかけた」


と震える声で呟くと顔を手で覆った。


俺と千夏は師匠を連れて魔術師団棟に向かった。


師匠には申し訳ないけれど、もう隠し通せるものじゃなかった。


シリアスは書きにくい(笑)ギャグを求めてしまいます(笑)暗いけどもう少しお付き合い下さい。

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