二話 入部の在り方
中庭近くの廊下に一年生が群れていた。どこへ行くかの相談が飛び交い、仲良く腕を組みながら集団で歩き出す女子生徒達や、帰ってゲームといわんばかりの男子生徒達でごった返していた。かろうじて部活の並ぶ表を眺めることに成功した。
それぞれの部活がアピールの為に大会の結果などを掲載している。バスケットボール部近畿大会優勝に、野球部はベスト8進出。どうやらここの運動部はなかなか凄いらしい。
あった。吹奏楽部の欄を見て安心する。この学校に吹奏楽部が無ければどうしたものかと思ったが、存在を確認し肩の荷を下ろせた気分だった。
さて、そうとなったらまっさきに部活見学に行きたいものだ。
「あ、あの。吹奏楽部の部室って」
なんとか近くの生徒を捕まえる。「なんだお前」みたいな目で見られたあと、その男子生徒は北校舎を指さし、無愛想に「あっち」と、教えてくれた。
お礼を言うついでに彼に話しかけてみる。
「ありがとう!あの、えーと。教室にいたよね?二年二組に!」
「んだよ。だからなに?」
「え、えーと。よろしく」
「...圧強い」
男子生徒はくるっと方向転換し、校門に向かって歩いて行ってしまった。
「男子は難しいなー」
さすがに名前を聞くことはできず、そんな一言がため息混じりに出た。
しかし、彼の言っていたことは間違いじゃなく、綺麗ながらも古い木造の北校舎を進んでいくと、木でできた扉のある突き当たりへとたどり着いた。
プレートが掛けてあり、『部室使用中』との書き込み。おそらく、中で部活をしているのであろう。
ドアノブを握る手は少し震えていた。き、緊張する。
ふぅと息を吐ききり、深呼吸をしそっと扉を開けた。音楽室の扉は二重で、通路の先に白い扉がある。少し物音もする。中で何かしているのであろうか。
耳をすませば何か小声で話している気もする。
流石、音楽室の壁は防音の性能がすごい。
「し、失礼しまっーーー」
「どういうことですか!」
私の精一杯の挨拶は虚しく掻き消され、教室に響いた怒号は壁に染みていった。
「いきなりすぎます!なんで、なんで...」
一言で表すと混沌だった。泣き崩れる人もいれば状況を呑みきれず、取り残されている人。私もその一人だった。
開きっぱなしの扉から女子生徒二人が駆け込んでくる。
その内の一人は知っている人だった。ガ、ガン見の人!?
「ど、どうして転校生がここにいるのよ」
「ご、ごめんなさい!何もしてないですー!」
「部長!どうしたんですか?」
もう片方の生徒が泣き崩れる部長に駆け寄る。
音楽室の中には、私を含めて八人の生徒と、顧問の先生がいた。
驚きで激しくなる呼吸を抑え、立ち上がる私の横にガン見の人が並ぶ。
「先生...?もう一度言ってください。どういうことですか」
震えながら問いかけたのは灰色の人だ。
顧問の先生は、入学式でみたので覚えている。紗倉先生であっていたはずだ。
彼女の表情は入学式で見たときとは全く違い、深刻な顔をしていた。
彼女の声も心なしか震えていた気がする。
「もう一度言います。落ち着いてきいてください。この田原中学校吹奏楽部は」
「廃部になります」