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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜の喫茶店

作者: ゆっこ



今日もやっと仕事が終わった。


17時頃に部長が飛び込みの仕事を持ってきて、結局終わったのが21時になっちまった。

お腹が空いたから、適当に駅前の立ち食いそばを食べて帰ろう。


まだあの喫茶店が閉店するまで時間があるから寄れるだろ。


仕事終わりに、24時までやっている喫茶店で一杯のコーヒーを飲んで帰るのが日課だ。

一人の部屋に帰るのが寂しくて喫茶店を通いを始めたのだが、これがかなりリフレッシュできる。


「いらっしゃいませ」


店内に入ると薄暗く、バーのような雰囲気だが正真正銘の喫茶店だ。

何人か客はいるが、誰一人話す人がいなくて静かでとてもいい。


皐月がいつもの壁際のはじの席に着くと、腰に黒いエプロンを巻いた店員が静かにやってきた。


「ブレンドを一つ」


「かしこまりました」


水とおしぼりをテーブルのおいて、皐月の目を一瞬見て厨房に戻った。


ーーーーまただ。


毎回あの店員と目が合う。


皐月が喫茶店通いを始めてから半年経つが、ここ1カ月はおかしいくらいに目が合う。

注文の時に一回、コーヒーを持ってくるときに一回、会計をするときに一回。

そして、俺がコーヒーを飲んでいるときにもこちらを見ている。


皐月はノーマルだが、こうまで見られているとさすがにおかしいと感じた。

ゲイか?と思って一時身構えたが、あの店員は視線をよこすだけで何もしてこない。

今は慣れたもので、ああまたあいつまた見ているな、と思うくらいだ。


皐月は飲み終わったコーヒーのカップを置くと、席を立ちあがった。



「ーーありがとうございました」



今日も何も言われなかったな。家へと帰路につきながら、ふと思った。


なんで俺のことあんなに見てくるんだろう。


いくら慣れたとは言え、やはりあそこまで見られると好奇心がむくむくと湧いてくる。


しかも、表情が全く読めないしな。


大抵の人間の考えていることは読めるほうだが、あいつは一切表情がないから、何を考えているのか読めない。


「…試しに俺から話しかけてみるか?」


皐月は、明日彼に話しかけることに少しだけワクワクしながら、夜道を早足で歩いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ーーまた話しかけられなかった。



圭は目当ての彼が足早に店を出ていくのを恨めしく思いながら、姿が見えなくなるまで見送った。



彼が、圭の働いている喫茶店に初めて訪れたのは9月ごろだった。


初めて見たときの印象は、ただのくたびれたおっさんだった。

よれたスーツで肩を落としながら、崩れ落ちるように椅子に座り、目に何重もの隈を作った顔で、眉間を指で押さえながらメニューを見ていた。


お決まりですか、と俺がマニュアルどおりに声をかけると、


「…何がおすすめですか」


と低くかすれた声で俺に聞いてきた。


「ブレンドがおすすめです。」


「じゃあそれで、「あ、でも」」


ブレンドはおいしいが、もう夜22時を回っている。こんな時間にブレンド飲んだら寝れなくなるだろうなとふと思い、「おれはカフェラテが好きです」と言った。


ーーーいや、そこは疲れてるみたいなのでカフェラテだと落ち着きますよ、だろう俺!


なんで自分の好みを押し付けているんだ、と若干後悔していると、


「はは、じゃあカフェラテで」


彼は少し笑いながら、こちらを見てそう言った。

笑うと目の端っこがしわが寄って、笑顔に合わせて綺麗に円を描いていた。



俺はその顔を見て思った。優しそうな人だな、と。


今思えば、あの顔がきっかけだったのだと思う。彼が店に来る度に、目が行ってしまうのは。


あの顔がもう一度見たくて、何度も話しかけようとしたが、毎回緊張して上手くいかなかった。

彼が来る日は平日の21~22時ごろ。ルーチン化してきたころにはすでにその時間にシフトを入れるようになっていた。



ーーー明日こそはちょっとだけでもいいから話しかけたい。


圭は、おっし、と心の中で気合いを入れて、さっきまで彼が座っていたテーブルを片付けにいった。





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