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13話 制御できないくらいに

 鬼ヶ島を旅立った俺たちは、もと来た岸辺に帰り、そのまま村へと足を進めた。距離は長かったが、仲間たち特に黄助が早く戻りたがっていたので、みんなで一緒に行くことにしたのだ。


「早く村のみんなに教えてやろうぜ」


 黄助は意気揚々と叫んでいる。彼にとってはあの村は第2の故郷みたいなものなのだろうか。村を旅立つ前の彼の少し寂しそうな顔を思い出して、彼のためにも一緒について行ってやろうと思えた。


 俺は村へ向かって歩きながら、時折後ろでどんどんと小さくなっていく鬼ヶ島の姿を見つめていた。物事の流れはあっという間に過ぎていく。それは自分なんかには制御できないくらいに早い。気が付けば、鬼ヶ島で戦っていたことが遠い昔みたいに感じてしまうときも近いうちに来てしまうのではないだろうか。そう思うとなぜだか急に寂しくなってしまった。


 体はまだ鬼たちと戦っていた時の疲労を残している。前ほど動けないということはなくなったが、それでも、あれほど大掛かりな動きをしていたのだ。疲れないわけがない。


 体の蟲たちはもうすっかりと動くことをやめ、何事もなかったかのように姿を消した。自分たちのやりたいように動いて、最後には疲れだけ体に遺して勝手に消えてしまうというのだから勝手なものだ。


「桃太郎さん、どうしたんです? はやくいきましょーよ」


 先を進む黄助が俺のことを呼びかけてくる。どうやら知らぬ間に進む足も遅くなってしまっていたらしい。


「ごめん、少し疲れているみたい。先に行ってていいよ」

「いや、そういうことなら桃太郎さんの事待ちますよ」

「いや、ほんとう大丈夫だから。少しゆっくり歩きたいし黄助たちは先に行っててくれ」

「……そういうなら」


 黄助と青音は先に行っている、と言って村の方まで行ってしまった。モモは俺と一緒にゆっくり歩いていくようだ。


「何かあったら大変ですからね」

「なにかって?」

「疲れて寝ちゃったりとか」


 そう言いながらモモはおかしそうに笑う。彼女とこんなたわいのない話ができるようになったのも、平和が訪れた証拠なんだろう。


 モモと話をしながら村までたどり着いた時にはもう朝になりかけていた。しかし、そんな明け方とは思えないほどの明るさで、村ではもう宴会が行われていた。村の人々が酒を酌み交わしながら、あちらこちらで大きな声で叫んでいた。


「あ、モモ太郎さん!」と青音が俺を見つけて叫んだ。

「青音……これは?」

「黄助が一足早く村の人達を呼びかけちゃったみたいで」


 村を見渡してみたら、黄助を見つけた。彼は村の人達の中心に入りながら、酒を飲み笑い合っていた。その酔った顔を見るだけでも、彼の気分が最高潮な呪うことがわかる。

 俺たちはそのまま村の人達の流れに飲まれるままに宴に参加することになった。


「いやあ、やっと鬼がいなくなったんだな」

「これで俺たちもやっと救われるといったもんだ」

「やっと平和な世界が訪れるんだ」


 村の人々は鬼のいなくなったこれからの暮らしをずっと喜んでいる。そりゅあもう自分たちの命を脅かすものは何もないのだ。ずっと抑圧されていた分だけその思いの爆発もすごいことになっているのだろう。


 俺は村の人々たちのやり取りを見ながらもどうにもその中になじめなかった。鬼に対して俺がどういう気持ちで向き合えばいいのかわからなかったからだ。この世界にいる者たちは皆、鬼に対して怒りを持っている。その鬼を倒したのが俺なわけだが、その俺自身が鬼血を引いていると聞いたら、彼らはいったいどう思うのだろう。いつかは俺自身も殺されるのかもしれない。


 ――鬼として。


「桃太郎さん、大丈夫ですか?」


 モモが隣に来て俺に訊ねた。本当に彼女はこういう俺の変化によく気が付く。


「やっぱりちょっと疲れちゃったみたい。ちょっと風でも浴びてくるよ」

「私も行きますよ」

「いいや、ちょっと一人になりたい気分なんだ」

「そうですか」


 モモは何か言いたそうな顔をしていたが、どういえばいいのか言葉に迷っているようだったが、そのまま俺は村の外にまで出て行った。


 村を出て原っぱにまで歩いてみる。もう夜明けというよりかは完全に朝が着て、原っぱにも朝の光が差し込んできていた。鬼ヶ島があるべき方向に目を向けてみる。本当はまた浜辺までいってみてもよかったのだが、そんな時間はないだろう。


 いっぱいに空気を吸い込んで気持ちを落ち着けようとしてみる。頭の中に浮かぶのは、まとまらない混乱だけだ。あまりにも一瞬のうちにすべてが解決され、全てが消えてしまった。ただうつろになった鬼ヶ島の面影を眺めながらそ子での記憶を手繰り寄せようとする。


「お疲れ様」


 後ろから声がした。久しぶりに聞く声だ。いったい今まで何をしていたのだろう。俺のことをずっと漢詩でもしていたのだろうか。

 後ろを振り向くと、そこには女神が立っていた。


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