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12話 待ってくれている人

 モモたちは傷だらけになった体を携えて、俺と鬼が戦った部屋にまでやって来た。モモも黄助も青音もみんなちゃんと生きている。彼らの姿を見ると安心してしまう自分がいて、もう自分でも感情の変化がよくわからなくなっていた。


「終わったんですか……?」とモモがゆっくりと訊ねる。

「終わったよ。これで、もう全部」


 モモたちから安堵のため息が漏れる。緊張していた彼らの力がどっと抜け、その場に座ってしまう。


「ようやく終わったんですね」

「いやー本当大変だった」


 黄助や青音たちももう戦いがないことへの安心からかすっかり力を抜いて談笑を始めた。ここは鬼の死骸の多い敵の本拠地である。それでも、こうやって気を抜けるというのは彼らのすごいところなんだ。


「どうかしましたか?」


モモが俺の顔を覗き込んで訊ねる。


「なにが?」

「いえ、桃太郎さん、ずっとぼおっとしたままだったので」

「ああ、ちょっと疲れちゃったかな。早く出よう」


 俺はそういうと、モモの頭を軽くなでて、歩き出す。モモは何か言いたそうな顔をしていたが、俺が歩きき出してしまったのを見て、黄助たちを呼びながら一緒に歩き出した。


 俺の中ではいろいろな考えが交錯していた。このまま鬼を残していってしまうことへの寂しさ、詩文が鬼の息子であったのだということの混乱。様々な負の感情があって、そのまま死んでしまいたいという思いが胸の中には確かにいる。


 しかし、それと同時に、モモたちの姿を見た時に、俺の人間としての感情も同時に沸き起こってきてしまった。これまでこの仲間たちと俺は冒険をしてきた。初めて会った仲間たち、大事なひと時、それらは鬼退治のための時間であったが、決して無駄な時間などではなかった。むしろ、一瞬一瞬が新鮮温かい気持ちを俺の中に遺していってくれた。


 ――この仲間た地の前で勝手に死ねない。


 結局、俺は鬼としては、生きることも死ぬことも許されないのだ。鬼を退治してしまった今、俺に遺された選択肢は“人間”桃太郎として生きていくことだけだった。


「楽しみですね」とモモが言った。

「なにが?」

「これから帰るのがです。向こうに変えれば、私たちのことを待ってくれている人がたくさんいるんですよ」


「待ってくれている人がいる」という何気ないモモの一言がやけに胸に刺さった。もう俺が人間たちの中で英雄となってしまうのだということを表している。自分の父を殺したその体で、俺は人間たちのもとへ帰っていくのだ。


 鬼ヶ島の中をもと来た道の通りに帰っていく。鬼ヶ島の中は、元から漂う生臭さに、鬼の匂いも相まってひどい匂いを漂わせていた。そこに倒れる鬼の死体をよけながら、一歩ずつ外に向かって歩いていく。どれも俺がやったことなのだ。そのことを忘れないように、しっかりと一人一人の鬼の姿を見つめながら、外までゆっくりと歩いた。


 鬼ヶ島は今はもうやけに静かだ。それは旅立つときにも変わらなかった。この小さな孤島の中には今では大量の鬼の亡骸が眠っている。俺はただじっと鬼ヶ島を眺めながら遠くなるその姿を追い続けた。船は往きと同じように青音が全力で前へと進める。


 その速さは、俺に鬼ヶ島への感傷を全く許そうとしはしてくれなかった。


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