2話 この辺に船がある
夜が明け、朝が訪れた。肌寒い風とともに、秋の控えめでありながらもまだ眩しさを伴った朝日が目に差し込んでくる。俺たちは昨日の宴のまま眠ってしまい、火を囲みながら各々思い思いの場所で眠っていた。
伸びをしながら、ゆっくりと目を朝の光に慣れさせる。空は雲一つない快晴。そのおかげで鬼ヶ島は今日もはっきりとその姿を俺たちの前に表していた。ひっそりとしたその姿を捉えながら、改めて、あの鬼ヶ島に乗り込んでいくのだということを実感する。モモたちもそれぞれ目を覚ましながら、眠たい目をこすっていた。彼女たちの意識の中にはまだそれほど鬼ヶ島のことは入っていないようだ。まあ、起きてすぐに鬼ヶ島のことが気になるなんて言うのもおかしな話ではあるし、これでいいのだ。
「おはよう」と俺はみんなに声をかける。
モモたちはそれぞれ頷きながら朝の挨拶を返してくれる。それでもまあいいのだが、そろそろみんなの意識を鬼ヶ島に向けさせるためにも、俺は指をさしてみんなの意識を集める。
「見ろ、あれが鬼ヶ島だ。今日うまくいけばあそこに乗り込むぞ」
みんなが俺の指さした方を向く。彼らの視界の中には、俺と同じように雲一つない空を背景にしながら、海にぽつんと浮かぶ岩肌が目に見えていることだろう。
「あれが……」
モモは鬼ヶ島のことを見ながら何とも言えないような顔をしていた。一応昨日の夜も見ていたはずではあるが、改めてまじまじと見ると印象も変わるのだろう。
「なんだか想像していたのよりも寂しげなんですね。質素と言った方がいいのでしょうか?」
「それは俺も思ったよ」
「鬼は美しさなんて求めてねえんだよ、きっと!」
黄助が威勢よく言って、鬼ヶ島に謎の威嚇を送る。
「結構距離ありそうですね……僕は飛べるので一応楽ではありますが、桃太郎さんたちは大変そうです」
「俺はお前の上にのるから大丈夫だとして、桃太郎さんとモモは大変だな」
「な、なんで黄助が乗ることになっているの?! 絶対乗せないから」
「いいじゃないか、ちょっとくらい」
黄助たちがまた馬鹿なやり取りをし始めたのをよそに、俺とモモで話を進める。
「村の人達が『この辺に船がある』って言っていたし、まずはそれを探さないとな」
「岩場に停められているって言ってましたけど、あっちの方ですかね?」
モモが東の方に指をさす。確かにこの浜辺にある岩場はモモがさした方角以外には見当たらない。船がないことには鬼ヶ島に乗るこむことはできない。村の人達の情報が正しいことを願って探してみるしかなさそうだ。
俺たちは岩場の方へ向かった。浜辺から少しずつ段差が多くなってきた場所だ。こんなところにいったいどうやって船を停めるのか疑問に残りはするが、とにかく探してみるしかない。
「桃太郎さん、ありましたよ!」
船は案外すぐに見つかった。段差のある岩場からでは見つけにくい位置に停められていたが、空を飛べる青音のおかげで苦も無く見つけることができた。船は岩に縄でくくられた状態で停められていた。船が止められている岩場には、まあまあ強い波が打ち寄せることもあったのだが、木でできた船はその影響をあまり受けることなく、停められた位置にしっかりと固定されていた。
「青音、船を動かせるか?」
「がんばればなんとか……」
青音が船の上に飛び乗り、縄を切ろうとする。縄は案外丈夫らしく、なかなか切れない。俺も飛び乗っていきたいところだが、船が不安定ではなかなか飛び降りづらい。
「俺手伝ってきますよ」
そう言うと黄助は身軽に船に飛び降り、縄をちぎってしまった。そこからは、青音が切れた縄を引っ張りながら飛び、船を浜辺の方まで再び引っ張てくれた。船の準備はこれで大丈夫そうだ。
安心をする反面、俺たちはどうにもすっきりしない疑問を抱えてしまうこととなった。




