聞こえてくる声は
4章突入です。
長いような短いような鬼退治の旅はいよいよ終盤まで来ていた。
砂浜から、絶海の真ん中に浮かんでいる鬼ヶ島を見つめた。絶海の中に浮かんでいる鬼ヶ島は、昼間だというのにどこか薄暗く、孤独に佇んでいた。この静けさの中にはとても、あの乱暴な鬼たちが住んでいるとは思えなかった。周りには寄せ付けるものもなにもなく、ただ荒れた波だけが戦いを挑むかのように何度も鬼ヶ島に打ち寄せている。
そんな島の様子を見ていると、なぜだかとても悲しくなった。この旅の間、何度この気持ちを味わってきたことだろう。鬼の存在が近くなるにつれて心の中で湧いてくる二つの感情。
「鬼を殺せ」と何度も迫る殺意。しかし、そんな感情の裏側に、少しだけ、鬼を憐れに思ってしまう自分がいた。行動には決して現れないが、鬼の亡骸を目にすると現れるどうしようもない喪失感。矛盾するような二つの感情、どちらもどこから湧いてくるのかわからない感情に揺さぶられながら、鬼を斬る。
俺はこの島にいかなくはいけない。そこで何かを見つけ出してこなくはいけない。それが使命なのだ。わからないことばかりであるが、ここにいけばすべてがわかるのだろう。その予感だけを頼りに今は感情にふたをする。
鬼ヶ島につけば、あとは最後の戦いをするだけだ。血も涙もない。生きるか死ぬかの果てに、鬼と人間のどちらがこの世界を支配するのかを決めるのだ。――俺はその戦いに勝たなければならない。たとえどんな結末がそこにあるとしても……。
「準備できましたよ」
モモたちの呼ぶ声がする。この世界にくるまえ、誰からも受け入れられることのなかった俺は、今こうして多くの仲間が共にいてくれるようになった。もう俺一人だけの体ではない。前みたいに勝手に死ぬことだって許されないだろう。
「今行くよ」
俺は仲間たちに声をかけてそのもとに向かう。鬼退治の作戦を考えている彼らは笑顔で語り合っている。平和を勝ち取るためにどうやって鬼を倒すのかを考える希望の顔だ。彼らの希望を俺の手で摘み取ってしまってはいけない。
もう一度目的地である鬼が島に目をやる。あいかわらず孤独な島は俺たちが来ることを拒んでいるようにも、受け入れているようにも見える。だが鬼たちがどう考えているのかはもう関係ない。俺たちはその島に乗り込んでいく。刀を強く握りしめて自分の気持ちに問いかける。
「鬼を殺せ」
聞こえてくる声はただそれだけだった。




