25話 また鬼が攻めてきたときには
村の復興は俺の予想よりもはるかに順調に進められた。そこには俺たちの助けがあったことも影響しているだろうが、何よりも村の人々の気持ちがいちばん大きかった。彼らは鬼の襲撃で失ってしまったものを少しでも多く取り戻そうと、必死に前を向いていた。
「俺たちにはまだ死んだわけじゃないんだ。死んだ人たちの分まで強く生きないと」
そう口に出しながら、家を建て直していく彼らの姿はいつ見ても力強かった。中には家族を鬼の殺されてしまった人たちもいる。それでも、彼らはたとえ小さな理由でもいいから引っ張り出して前を向こうとしていた。村の端に建てられた共同の墓地に毎日顔を出して、復興に励む村人たちは一人一人が大きな力になっていた。そこには、もう鬼におびえて暮らし続けていたかつての影はもうない。
「人間でも鬼退治ができるんだって言う奇跡をこの目で見ちまったからなあ! いつまでもおびえていたって何も始まらないじゃねえか!」
村のおじさんは威勢よくそういっていた。
「そういうことよ! 桃太郎さんは最強だからね! おっちゃん良いこと言うじゃねーか!」
黄助はすっかり村のおじさんたちと意気投合したらしく、勝手に俺のことを持ち上げていた。あいつの中には絶対におじさんが隠れ住んでいる。それも酔っ払っているやつが。青音やモモはそんな黄助の様子を呆れながら眺めていた。でも、不思議と嫌な感じがしないのが黄助のいいところだ。そういえば、モモもあまり黄助に対して強く当たらなくなっていた。
「まあ、うるさいですけど割る奴じゃないらしいですかね」
モモの顔は渋いものだったが、どうやら少しは彼のことを受け入れては上げたようだ。俺たちもここにきてようやく仲間として一つ深まったと思う。
そんなこんなで、村の復興はほぼ片付いた。村の人口はかなり少なくなってしまったが、家の姿は始め来たように元通りになっていた。壊れてし待った家の破片など継ぎ合せて家を作ったため、外観は少し汚いが、それでも人々の思いのこもった頑丈な家だ。村にもまた元の活気が戻って来た。これから彼らの新しい生活が始まるのだ。
そして、村の復興も終わり、俺たちも出発するときがやって来た。俺たちの旅立ちに、と村の人達がみんな見送りに来てくれた。
「もう行かれてしまうんですね……」と弥助が寂しそうに言った。
「鬼退治が終わったらまた顔を出すから」
俺は弥助の頭を撫でてやる。短い期間だけだったが、彼とは本当に濃い時間を過ごした。ここで勇気を出した彼はきっとたくましい青年へと成長していくのだろう。村の人達は俺たちに向かって思い思いに言葉をかけてくれた。黄助なんかは特に村の人達から仲良くしてもらっていたので別れも惜しまれていた。
「また帰って来るんだぞ」
「今度はうめえ酒用意しておくからな」
「おう! 任せておけって!」
やけに黄助の態度がでかいことがきになったが、まあそれも彼なりの照れ隠しか何かなのだろう。嬉しそうな彼の顔を見たら何か言うのも場違いな気がした。
「桃太郎さん」
弥次郎が前に出てきた。まだ奥さんに支えられながらではないと歩けないようだが、それでもかなり表情は明るくなっていた。
「村の危機を救ってくださり、更には復興まで……本当にありがとうございました」
「いえいえ、戦いが終わったら、また顔を出しますね」
「いつでもお待ちしております。その時は今度こそ、うちの宿に泊まっていってください。最高のおもてなしをしますね」
「楽しみにしてます」
弥次郎の顔にはもう迷いはなかった。この村とどういう風に向き合っていくのか、彼なりの答えが出たのだろう。今でも自分が犯した罪として様々な後悔はあるのだろう。誰が何と言おうとそれを完全に拭うことはできない。答えは一生懸命生きて探すしかない。それが生かされているものにとっての使命なのだろう。
「あ、あの」と弥次郎が迷い気味に言った。
「もし、もしまた鬼が攻めてきたときには、私たちはどうしたらいいのでしょう……?」
弥次郎の顔が少しだけこわばっていた。せっかく復興した村だからこそ、また失いたくはないのだ。怖くて当然だ。俺は弥次郎の手を握ってそっと微笑む。
「大丈夫です。次に鬼が来るより先に、俺たちが鬼を退治してしまいますら」
俺の中から自然に出た言葉だった。これはおそらく自分に向けた言葉でもある。どれだけ迷っても答えは出ないのだ。それならばやれることを一生懸命やってみるしか目には進めないのだ。
俺たちは村の人達に別れを告げて先へ歩き始めた。空は快晴。絶好の旅立ち日和である。目指す鬼ヶ島は雲に隠れることなく、小さくではあるがその姿を現していた。目的地はもうすぐなのだ。
俺たちは鬼ヶ島を見つめながらまっすぐと前に足を進めた。




