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23話 しょげてるままじゃ

 鬼との戦いから数日が経った。村は少しずつ、鬼から受けた傷跡を回復させる方向に動き出し始めた。


「このままいつまでたってもしょげているままじゃ、何も始まらないからね」


 村人はそんな事を言いながら、自らが失ってしまった家や設備の修復を始めていた。多くの物を失っているはずなのに、力強い人たちである。だてにこれまで鬼と向き合ってきただけのことはある。


 俺たちも村の復興の手伝いしていた。鬼を大量に倒してしまったせいで、すぐに鬼が復讐にやってくる恐れがあった。いざというときのために村にいた方が、村の人たちにとっても安心だ。と、まあもっともらし理由をつけているのだが、実際のところ、村を出ないのは「俺の心が向かなかったから」というのが大きかった。


 鬼と戦った後、体にまた疲労が出たのは予想通りのことだったのだが、今回は精神的な疲れがどういう訳か大きかった。鬼との戦いが終わった後のだるい感覚がずっと体の中に残ってしまっていたのだ。


「激しい戦いだったからきっと疲れているんですよ」とモモは言っていた。

 たしかに、疲れてはいるのだろう。体が強くなったと言っても、いきなりあんな強敵と戦って疲れないわけがない。しかし、そうじゃないな何かが理由なような気もしてしまったのだ。どこかで、鬼との戦いを拒んでいるような何かが原因なのではないか……? 


 でも、そのような問いに関しては、どれだけ問いかけようとしてみても、決して自分から答えが出てくることはなかった。結局、これは疲れなんだと、自分に言い聞かせることで死か前に進むことはできない、というのが俺の中で絞り出した答えだった。


 俺は自分の中の悩みをかき消すためにも村の復興を手伝うことにした。体を動かしていれば、自分の中の考えもすっきりするだろうと自分に言い聞かせた。村の人達は、俺たちの提案に対して喜んで受け入れてくれた。


「俺たちじゃ鬼には立ち向かえない。そんな当たり前のことがどうしてわからなかったのだろうな……」

「きっと、今までどうにかなっていた現実がおかしかったのだろうな」

「感覚がマヒしていたんだよ」


 村の人達は自分たちのしてきたことを悔い改めるように口々にそんなことを言い合っていた。そして、村の復興が落ち着くまででいいから、と鬼と戦うことができる俺たちの存在を求めてきてくれていた。


 俺たちはまず初めに、鬼の死骸を焼き払うことから始めた。村の人達も、自分たちの村を襲った鬼を一刻も早く視界から消し去りたがっていた。鬼の体は重く、村の人達も触りたがらなかったので、その場で燃やしてしまうことにした。鬼は火をつけられると、簡単に引火して体全体に火が燃え移っていった。


 炎は鬼を飲み込むと、その色を黒く染めながら、鬼の死骸を消し炭へと変えていった。そのどす黒い色が、見る者にも恐怖を与えた。最後まで厄介な存在である。鬼の大将に至っては、炎で燃やされた瞬間に、大きな唸り声をあげた。もちろん、もう死んでいるわけで鬼の本体からそんな声を出せるわけはないのだが、炎に包まれたその体は、死ぬ間際の恨みをすべて晴らすかのような大きな唸り声をあげ、黒い塵へと変わっていった。


「そういえば、森の中の鬼ってそのあとどうなったのだろう?」

 鬼を燃やしている最中に、ふと、森の鬼のことが気になった。あの鬼は、首を切り落としたあと、そのままにしてきてしまった。あのままあそこに放置してきてよい存在だったのだろうか。


「ああ、それなら桃太郎さんが気を失っていた間に女神さまが何かやってくれていたみたいですよ」

「女神が?」

「ええ、なんでも『後のことは私がやっておくから任せない』とか言ってました」

「そうだったのか……」


 全く知らなかった。女神がどんな後始末をしたのかは知らないし、余り想像したくもないが、どうせ今から戻ることは難しいのも事実だ。信じるしかないのだろう。


 鬼たちの死骸を焼き払ってしまうと、村はようやく元の姿を取り戻せるようになった。家もほとんど焼き払われてしまい、村の中はやけにひっそりとした印象に変わってしまっていた。ここから、また新しい村を作るのである。


 灰になった鬼の死骸を見つめていると、後ろから声をかけられた。


「ちょっといいですか?」


 そこには、宿屋の主人が立っていた。

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