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21話 思いきり飛ぶぞ

 青音が合流してからも鬼の攻撃が止まることはない。


 鬼は目の前にいるハエを殺そうとするかのように何度も何度も金棒を地面に叩きつけてくる。その攻撃を俺と青音は左右別々の方向に跳びながらかわし続ける。はじめのうちは気分を良くしていた鬼も攻撃が外れ続けるとさすがにイライラも募ってくるようだ。攻撃が雑になって来る。


「さっさと死ねよ。虫けらどもが」


 金棒を振り回しながら、鬼のぼやきが聞こえてくる。俺はその言葉には答えずにひたすら攻撃をよけ続ける。


 青音も最初は鬼の攻撃の威力に少し戸惑っていたようだが、今はすっかり慣れて確実に攻撃をよけることができている。黄助やモモにも言えることだが、鬼退治に行こうというだけあって、こいつらの適応能力の高さには感心させられる。


 攻撃をよけるために離れていた青音が飛びながら俺のもとに戻って来た。


「桃太郎さん、これからどうしますか?」

「とりあえず、俺が飛んだら一緒に飛んでほしい。鬼を混乱させる」

「分かりました!」


 青音は元気よく答えると再び俺と一緒に攻撃をよける。金棒は振り下ろされるたびに悲しく誰もいない地面を叩きつけられる。村に大きな轟音が響き渡り、その音が村の人々を怖がらせる。俺や仲間たちだけがいる場ならそれでも大丈夫なのだが、村の人達がいるなかでこれを続けるわけにもいかない。できるだけ早く鬼の隙を突かなくてはならない。


「青音」

「はい」

「次の攻撃が来た時に、思いっきり飛ぶぞ」

「飛ぶだけですか?」

「ああ、そのまま鬼の顔の方まで飛んでくれ」

「……わかりました!」


 青音はまた元気よく返事をした。鬼の顔の方まで飛んでいくのは、さっき死線を乗り越えた分怖い思いもあるのかもしれないが、作戦のためにはやってもらうしかなかった。青音もそれをわかってくれたのか、返事をした後に特に何も言わない。


 鬼は俺たちのやり取りを気にする余裕もなく、そのまま攻撃を繰り広げた。金棒を大きく上に振り上げ、そして俺たちをめがけて振り下ろされる。


「今だ!」


 俺は青音に指示を与え攻撃をよけた。青音が鬼の顔の方にめがけて飛んでいく。鬼の注意が青音の方に行く。鬼の顔ぎりぎりまで飛んでいく青音を見ながら怒った鬼の声が響く。


「ちょこまかと面倒臭いんだよ」


 鬼はそのまま振り下ろしていた金棒を振り上げて青音を狙う。一緒に飛んではいない、俺の存在に気づくこともなく……


 鬼の金棒は青音に直撃することなく地面に落ちていく。金棒だけではない。鬼の体自体もうまく体勢を取ることができなくなり倒れていく。倒れていく鬼は何が起こったのかわからないまま下を見つめる。そして気づくことになる。――自分の足が切り取られてしまったことに。


 怒って青音にのみにしか意識が行かなかった鬼は、その下でこれまでとは全く違う攻め方をしようとしていた俺の方には気づかなかったようだ。鬼の片足は綺麗に膝から下を切られ、そのままバランスを保つことができずに倒れていく。腕を斬られたときと同じ痛みが再び鬼を襲っているらしく、鬼のうめき声が響く。そうして大きな音を立てながら鬼は倒れていく。


 俺は倒れた鬼の首の方へと近づいていく。刀についている血を振り払いながら準備をしっかりと整える。飛んでいた青音が俺の方に戻って来る。


「ありがとう、ご苦労様」


 俺は青音の頭をそっと撫でてやりながらもう一度鬼の方へ向いた。片手片足を失った鬼はその痛みに耐えながらみっともない姿をさらしている。


 素早く鬼の首元にまで向かい、刀を向ける。鬼は痛みに歪んだ顔で俺のことをにらみつけてくる。顔中に皺を寄せた醜い顔だ。なにやら低い声を出しているが、いまさら何も聞くつもりはない。


「鬼を殺せ」


 俺の中にいる声が目の前にいる鬼の血を求めてずっと叫んでいる。俺はその声にこたえるように刀を軽く握る。


「てめえ」


 鬼の恨み声が聞こえてくる。にらみつけてくる視線はそれだけ相手によっては殺せそうな勢いだ。


「さようなら」

 それだけ告げて俺は刀を振った。

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