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18話 すみません。遅れました

女の子の体が救いもなく地面に落ちていく。


「青音!」


俺は後ろから追いついた青音に叫びかける。青音は急加速して落ち行く女の子を拾い上げた。そのまま青音は女の子を鬼から離れた安全なところへ運ぶ。


鬼たちは何が起きているのかわかっていないようだった。ただ地面に落ちた鬼の首と、地上に着地する俺のことを眺めている。


鬼の体が大きな音を立てた時、鬼たちはようやく目の前で起こった出来事を把握したようだ。一人の鬼が叫びをあげた。あいかわらず汚い怒鳴り声が村の中に響き渡る。そうしてほかの鬼たちも目を覚ます。鬼たちは何やら叫びかけていたが、正直もう俺の耳には入ってこなかった。


次の動きに向けて態勢を整える。そして周りの声を無視してまた飛び上がる。少しの時間も惜しい。早く鬼たちの首をこの手で切り落としてしまいたい。体の中の欲求に身を任せていると自然と気分が高ぶっている自分がいた。


鬼たちに戦闘開始の合図として微笑みを送り、他の3体に向けて刃を向ける。次の鬼めがけて飛び上がる。幸いなことに鬼たちは宿屋の前で固まっていたから対処がしやすい。


二人目の鬼の肩に飛び乗り、そのまま勢いよく首を切り落とす。鬼は最後の言葉も残さないまま、首だけが地面に斬り落とされる。彼の最後の表情は、最後まで何が起こっているのか考え続けている、なんとも情けない間抜け顔だった。


二人の鬼を退治したところで、ようやく残りの鬼たちも戦闘態勢が整っていた。彼らは手に持っていた金棒を、俺めがけて振り回す。俺は鬼の肩を飛び降りてその攻撃をかわす。金棒は空を切りそのまま宿屋に直撃する。建物の二階部分に大きく穴が開く。大きく空振りしてしまったため、鬼に大きな隙ができる。


――三人目。

地面に着地して、すぐさま鬼の首を取りに行く体勢をとる。鬼は首を切ってくださいと言わんばかりに体を横にそらせていた。飛び上がろうとすると、今度はもう一人の鬼の金棒が飛んできた。仕方なく、別の方向に飛びながらその攻撃をよける。その間に宿屋に隙ができていた鬼が姿勢を取り戻してしまう。


二対一の争いになると若干形成が不利になる。一対一ならまだ金棒を刀で受けて飛び込むことができるだが、もう一人敵がいるとなるとどうしても立ち止ってしまうのは危険すぎる。舌打ちをしながら鬼の攻撃を耐える時間が続く。鬼が金棒を振り下ろすごとに村に穴が開く。おそらく俺の体でも当たれば耐えられないだろう。走り回りながら何とか鬼の隙を探す。


形勢が逆転したことで鬼たちの顔にも残虐を楽しむような表情が戻ってきていた。何とも醜い表情だ。気持ち悪い。


「鬼を殺せ」


俺の攻撃の手が止まると、すぐに鬼の血に飢えた獣が訴えかけてくる。わかっている、俺だって早く攻撃をしたいのだ。そう言い聞かせても焦らされるのが嫌いなこの声は何度も何度も煽り立てて


しばらく鬼たちの攻撃をよけ続けているとようやく青音が戻ってきてくれた。


「すみません。遅れました」


青音は羽ばたきながら俺に叫んだ。


「青音は鬼たちの注意を引いてくれ。隙ができたら俺が首を切り落とす」

「分かりました!」


青音は作戦があるのか、迷う様子もなく鬼たちの方に突っ込んでいった。何をするのか、走りながら見ていたがどうやら作戦らしいものはないらしい。ただ勢いよく突っ込んで鬼の顔に体当たりしている。何とも単純だが、なかなかの度胸だ。そのおかげで体当たりをされた鬼はひるんで攻撃の手が止まる。ただ、青音も少しひるんでいるようだ。しばらく宙に漂ってしまっている。


「今だ」


一瞬を狙って足にもう一度力を込めて飛び上がる。今度こそ、三人目。焦らされたからだが鬼の体い近づけることを喜ぶ。狙いを定めて、しっかりと鬼の首を切り落とす。多分今までで一番きれいな切り筋だった。


何分かおきに浴びる鬼の血にほのかに興奮し、その高揚感を楽しんでいる自分がいた。


「てめえええ!」


群れのなかで最後に取り残された鬼は耳元で大きく吠えた。耳の奥にまで響き渡る大轟音だ。本当に厄介な存在だ。


俺は何とかその声の中で耐えることができたが(耳の中まで少し直なっているなんて自分でも驚きだった)、青音はその声で完全にひるんでしまったようだ。驚いた青音に隙ができる。鬼もその隙を見逃さなかった。にやりと笑い金棒を青音めがけて振り下ろす。


「青音!」


俺は青音に向かって叫んだが、その時にはもう遅く青音の頭上には大きな金棒の影ができてしまっていた。


金棒が青音めがけて振り落とされた。

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