16話 援護をさせてください
村には少しも時間が立たないうちに、到着した。
だが、到着したころには、どこからどこまでが村だったのかがもうわからなくなっていた。
各々の家が炎の渦の中に飲み込まれ、炎の範囲が村の形をかたどりながら、一方で鬼たちの残虐さを物語っていた。
俺は弥助の目を隠すかどうか迷ったが、考えているときにはもう手遅れで、弥助は目の前に広がる光景をただぼうっと眺めていた。彼の瞳の中では、ついさっきまで静かな村だったものが一つの巨大な炎になっているさまをまざまざと映し続けている。炎のはざまの中から聞こえてくる村人たちの悲鳴がさらに痛々しさを増幅させる。
「こんな……ひどい」
モモが声を震わせながら言う。
「多分、中はもっとすごいことになっているぞ、覚悟しておけ」
この言葉はモモへ、というよりは弥助に向けて言った言葉だった。俺たちなんかよりも彼の方が何倍も辛いことだろう。でも、だからといってこのまま外で待ち続けるわけにもいかない。俺には、やらなければいけないことがあるのだ。
モモたちもやはり顔をこわばらせていた。ちゃらけ気味の黄助でさえここではそんな表情を出すことはない。皆が目の前で起こっている惨劇に目を疑わせていた。
「時間はない、今から分担して行動するぞ」
俺はみんなの前に立って呼びかける。モモたちはようやく現実に戻ってきたようで、俺の方に視線を向ける。
「分担といっても、そんなに難しいものじゃない。俺は鬼を退治に向かう。だから、みんなは、村の人達の救護に向かってくれ」
「桃太郎さん一人で行くんですか?」と青音が訊ねる。
「これだけの大変な状況の中だ。村人も多分相当危険な状態の中にいるはずだ。だからみんなにはまずそっちの方に向かってほしいんだ」
正直なところ、青音たちの実力がよくわからない以上、いきなり戦闘を指せるのはどうかと思うところが強かった。それも、相手はどれだけいるのかわからない鬼である。戦うなら俺一人で動いた方が危険がないような気がした。
「待ってください!」
モモ達がうなずいている中で、青音が大きく翼を広げて俺に異議を唱えた。
「僕も桃太郎さんの援護をさせて下さい」
「青音……相手はどれだけいるのかわからない鬼たちなんだぞ? 危険だよ」
「その言葉、桃太郎さんにお返しします。一人で戦うなんて危険です」
青音はまっすぐに俺のことを見つめてきた。
「僕は桃太郎さんと戦うためにやってきました。だから一緒に戦わせて下さい。絶対に桃太郎さんの足を引っ張ったりはしません」
青音の瞳は不思議な魔力を持っている。根拠なんてどこにもないはずなのに、彼に見つめられると自然と大丈夫なのではないかと思ってしまう。この恐ろしい状況の中でも彼は自分の使命に向かって勇気を振り絞って立ち向かっているのだ。
村の中から大きな悲鳴が聞こえてきた。もう迷っている暇も、口論している暇もない。仲間を信じてみるしかないのだ。
「分かったよ。青音に任せる。その代わり自分の身は自分で守るんだぞ」
「ありがとうございます!」
俺はモモと黄助の方を向く。
「それじゃあモモと黄助は、弥助と一緒に村の人たちの救助に向かってくれ」
「え、こいつとですか?」
モモも黄助も嫌な顔を見せる。黄助に関しては全く隠す気がないようだ。
「そうだ。頼むから変なところで仲間割れとかしないでくれよ?」
「……わかりました」
二人はお互いに顔を見会わせながら、しょうがないといったようにため息をついた。
「よし、それじゃあ行くぞ」
俺たちは息をのみ、もう一度目の前に燃え盛る炎を見つめる。
――この中に鬼がいる。
「すすめ!!」
皆に号令をかけながら、俺は先頭を切って村の中に飛びこんだ。
戦いの火ぶたが落とされたのだ。




