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12話 夜中・村の中にて➀

――夜中・村の中にて


 俺は誰かが下の扉を閉める音で目が覚めた。こんな夜更けに盗人でも入ってきたのかと不安になり、適当に近くにあった木の棒を手に取りながら下に降りる。


 下の階はしんとしていて人の気配を感じられなかった。一つ一つ部屋を見て回りながら侵入者がいないことを確認する。いつ侵入者と出会ってしまっても大丈夫なように棒を握る手をゆるめることは無い。


 部屋をみて回る中で、釜の近くだけが妙にちらかったていることに気がついた。ロウソクに火を付けようとしたが蝋燭が見当たらない。しかし、まだ辺りには煙の匂いがほんのりと漂っている。ついさっきまで誰かがここにいて何かをしていたのだ。そして、さっきの扉の音と合わせて考えてみると、推理上はこうなる。誰かがここでご飯を作って外に出ていった。


 さて、一体誰なのか。

 俺は寝室を見て回りながら家族の様子を確認する。妻は娘を抱きながら安らかに眠っていた。俺は2人が目を起こさないようにそっと弥助の元を確認しに行く。


 ――やっぱり。

 弥助はいなかった。となると、さっきの扉の音は弥助が外に出ていった音ということだろう。

 おそらくあいつは、俺が追い出してしまった人達のところへ飯を届けに行ったのだろう。優しいやつだ。自分が呼び込んでしまった客人だから、とあいつなりに責任を感じているのだろう。


 俺が桃太郎とやらを追い出したあとの弥助の反応が蘇ってくる。

「なにしているんだよ!」


 珍しく弥助は俺のしたことに腹を立てていた。どれだけ鬼からの危険から守るためと説得しても彼は引き下がろうとしなかった。


「宿屋がせっかく来てくれた客を追い出すなんて失格だろ」


 歳の割にずいぶん生意気なことを言うようになったものだ。しかし、そんな息子の成長(ただの反抗期なだけかもしれないが)なんだか嬉しくもあった。

 もちろん、まだ弥助は鬼の恐怖を知らない。だからあんなに大きなことを言えるのかもしれない。


(できることなら、このまま一生鬼を知らずに生きてもらいたいものだ)


 そんなささやかな願いを呟きながら弥助の無事を願った。こんな静かな夜だ。最近は静かな夜が続いている。外は危険だが、きっと今日も鬼と出会うことは無いだろう。弥助が、俺に気づかれたと悟らせないためにも寝室に戻ることにした。


 しかし、静かな夜は大きな足音によって打ち砕かれることになった。

 人間は夜に眠るものだということを全く無視して、鬼たちは怒号とともに村にやってきた。


「こんばんわー」


 寝ている者達を起こすための挨拶を村中に轟かせる。建物が軋む音が聞こえてくる。だが、声は弥助が出ていった方向とは逆のようだ。ほっとしながらも俺は嫌なため息をつく。


(なんでよりによって今日なんだ)


 俺は寝室に行く足を止めて、もう一度さっきの釜へと戻っていく。そして家の中にある食料を出していきながら鬼に渡しやすいようにまとめていく。こんな夜更けにただ食料を差し出すためだけに起きている自分が、なんだか無性にむなしくなった。でも鬼に逆らうことはできない。


「せめて弥助が出ていった後に来てくれたのが救いか」と、何とか自分に言い聞かせながら俺は食料をまとめた。


「お父さん……鬼なの?」


 家を出ていこうとした時、娘が訊ねてきた。まだ眠い目をこすっている彼女は、まだ何が起こっているのかわからないながらも、身の危険が迫っていることを感じ取っていた。


 俺は娘の頭を軽く撫でながら優しく語りかける。


「かりんは危ないからお部屋でまっていなさい。お父さんは今から少し鬼たちに贈り物をしてくるから」

「危なくないの? 鬼って怖いんでしょ?」

「変なことをしなければ大丈夫だよ。行ってくるね」


 俺はかりんに手を振りながら家を出ていった。妻があとから出てきてかりんを部屋に連れていく。


「かりんのことは頼むよ」


 妻は静かに頷き、俺のことを見送ってくれた。彼女もまた、鬼の恐怖は知っている。表情には不安な顔が隠しきれてはいなかった。


 鬼たちは村の真ん中に陣をとり、村の人々のことを待っていた。弥助の姿は見当たらない。どうやら鬼たちに見つからずに桃太郎たちの所へ行けたらしい。


 この村に来てからは初めて見る鬼たち。一人一人の体が大きいのに、それが5人もいると自分という人間の無力さを嫌という程に見せ付けられた。


 家から続々と人が出てきている。皆俺と同じように手に食料や財産を抱えながら歩いている。鬼を見て恐れているもの、もうすっかり慣れてしまって疲れた顔をしている者など様々な表情が読み取れたが、みな共通して死んだような顔をしていた。鬼を目の前にするとどうしてもつらい気持ちになるのだ。


「ご苦労。それじゃあ一人ずつ持っているものをこっちに持ってきてもらおうか」


 鬼は自分たちがそれを受け取ることが当たり前という風に、命令を下す。そして俺たちも受け渡すことが当たり前だと自分に言い聞かせて前に進み始めた。


 隣の家に住んでいる太三さんが先頭に立った。彼も俺と同じようにすっかり鬼には諦めてしまってい側の人間だった。彼は少しでも早く面倒毎から離れたいといった表情で鬼に食料を渡す。


「これが今、うちにあるすべてです」


 弱弱しい声でそういいながら太三さんは鬼に荷物を渡した。鬼は渡された荷物の中身を確認しながら何度かうなずいた。どうやら中身には満足をしたようだ。


「いいだろう。ご苦労」と鬼は感情もなく太三さんに告げた。


 鬼から赦しを得た太三さんは深く息を吐きながら、鬼に背を向け家に帰ろうとした。

次の瞬間、鬼は手に持っていた金棒を思い切り振り上げ、太三さんめがけて振り下ろした。


 太三さんは突然自分の真上に迫る存在に驚いた顔をしたが、そのまま声を上げる暇もなく、金棒に押しつぶされてしまった。

 鬼はただ奇妙に笑っていた。

キーボードを新しくしました。この話が初陣です笑

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