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6話 この世界を守ってみたいとは思わない?

 その日の夜、俺は寝付くことができなかった。布団を抜け出してぼんやりと周りの様子を眺めてみる。俺の両隣で眠っているおじいさんとおばあさんは俺の動いたことには気づいていないみたいだ。俺たちはいつも布団を二つ敷いて3人で寝ていた。空いている扉からは夜風が俺の体を通り抜けていく。もうすぐ冬支度もしないといけないな、なんて考えながら、はだけていたおじいさんの布団をそっと直す。それでもおじいさんが起きる様子はない。


 俺は外に出て夜空を眺めることにした。宴が終わった時よりも、空はさらに深みがかっていた。真っ黒な空の上では一つ一つの星たちが輝きをはなっている。その中でも満月はひときわ輝いて地上にいる俺のことを涼しげに照らしていた。俺は近くの岩に腰を下ろす。月を眺めているといろんなことが思い返されてくる。


 この世界にやってきて気づけば一年。自分の体の成長に驚かされて、時間は全く長く感じていなかった。それでもこの1年で得たものは、前の世界で生きてきた16年の歴史(本当は1年くらい長いかもしれない)よりもはるかに温かかった。この世界の粟も山菜も食べたことないものばっかりだったけど、孤児院で食べたどんなものよりもおいしかった。この家にはおじいさんとおばあさんがいる。犬はいないけど。それだけでも、この世界が素晴らしいものなんじゃないかって思うことができた。


 だから……。


「だから、この世界を守ってみたいとは思わない?」


 突然聞こえてきた声。女の人の声だ。どこから聞こえてきたのかわからなかった。あたりを見渡してみたが、周りには誰の姿も見当たらない。俺は手にじんわりと汗がにじんでいくのを感じた。幻聴?俺はこの世界に来て、ついに見えない者の声まで聞こえてしまうようになったのだろうか。頭が痛くなりそうだった。


「ここよ、ここ」見えない声はさらに続ける。「こっちを見て!」


 さっきまで遠くからしか聞こえていなかった声は今度はすぐ近くで聞こえる。すぐ近く、耳元あたりから。


「ここよ!」


 俺は声のする方を頼りに左を向いた。さっきまで誰もいなかったはずの俺の隣には、一人の少女がちょこんと座っていた。俺の胸のあたりまでしかない身長の小柄な少女。ツインテールをしている。この世界ではまず見ることのない髪型だ。服装は、暗闇の中で正確に色を判断することができないのだが、青系のワンピースを着ている(これまたこの世界ではまず見ることのない服装だ)。少女の見た目はどうしてもこの質素な世界の中では浮いていた。


「どうしてすぐに気づかないのよ」少女は機嫌が悪そうだった。

「だって姿が見えないんだからしょうがないじゃないか」俺は返す。「そもそもお前誰なんだよ」


 少女は俺の質問にすぐには答えなかった。答えないまま、いたずらでも企んでいそうな顔を浮かべて、俺のことを見つめていた。そして意地悪な笑みを浮かべて答える。


「女神さまよ。」

「は?」

「は、じゃないわよ。女神さまよ。め・が・み・さ・ま。あんたのところのおばあさんたちが散々あがめている、あれよ」


 自称女神さまは随分と強い口調で名乗ってきた。自分のことを「さま」なんてつけるとはどういう神経をしているのだろうか。確かにこの女神とやらの恰好はこの世界の中では浮いた格好をしている。だからって安易に女神だと信じるのは違う気がする。


「そんな突然女神さまだなんて言われても信じられるかよ。なんか信じられるような証拠でも出してみろ」

「なによ、人間のくせに生意気な口をきくやつね」どうやら自称女神さまの怒りのツボを押したようだ。「これだから嫌なのよ『バケモノ』は」


 バケモノ、その言葉を聞いた瞬間に俺の体が急にこわばった。この世界ではもう聞くことのないだろうと思っていたその名前をこの少女は確かに今、口にした。俺の表情を見て、女神は満足したようだ。そのまま続けて言う。


「これで信じてもらえた?」女神は得意げだ。「私はこの世界では『女神さま』と呼ばれている。この世界の管理者よ。いや、この世界だけではない。あんたの住んでいた世界や、そのほかの世界もまとめて見守る管理者ってところね。『女神さま』という名前は、この世界でだけ使っているものなの」


 女神はいつの間にか、俺の隣から立ち上がって俺の前に立っていた。さっきまで俺が女神を見下ろしていた視点から、今度は俺が見上げる側に変わった。女神は月の光を一心に集め、そのまま身にまとっていた。その光によって彼女のワンピースが水色だったことが分かった。女神のその姿は、認めたくはないが神秘的なものを感じずにはいられなかった。俺は深く息を吸い込んだ。そうして体の緊張がほぐれていくのを確認してから女神に言った。


「あんたが女神なのは分かった。俺のことをどういうわけか知っているということも。それで、俺にいったい何の用なんだ?」

「最初にも言った通りよ。――この世界を守ってみたいとは思わない、桃太郎君?」


 女神は相変わらずいたずらな表情をしながら俺のことを見つめていた。しかし、その目には冗談ではないという意思が現れているように感じられた。


読んでいただきありがとうございました!投稿時間もう少し早めたいな。まずは日をまたぐ前から(笑)

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