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7話 視線を集めていません?

 森を抜けた道は丘のような一本道になっていた。丘の上にまで行ってみると、そこから先の景色を一望することができた。

 ここから少し道を歩くと、いくつかの村や森があり、その先には海がある。そして、その海を越えた先には……


「あれが鬼ヶ島です」と青音が言った。


 海のなかで一つだけ荒々しく浮かぶ岩山、それが鬼ヶ島の概観だった。そこには温かさなんてものは感じられない。多くの人間や生き物を怖がらせた鬼をそのまま体現させたような姿で海からじっとこちらをにらみつけていた。俺も負けじと鬼が島をにらむ。鬼ヶ島とその先にいる鬼たちに向けて送った視線だ。


「そして、あれが俺たちが住んでいた森ですよ」


 これまでの空気をぶち壊すように黄助が言った。黄助は鬼ヶ島より東の方向にある森を指さして自慢げに言った。鬼ヶ島に向かうにはそこを経由することはなさそうだ。

「黄助、いまはそれ関係ないだろ」と青音が突っ込む。黄助は嬉しいのか笑っていた。

「大事なことだろ。桃太郎さんにも俺たちがどこから来たのか知っておいてもらわないと」


「意外と遠いところから来たのね」とモモが言った。

「まあな。まあ、走ってみればそんなに遠い距離でもないぜ」

 たしかに、言われてみると黄助たちが住んでいるという森から、ここまでは村を二つくらい越えないといけなさそうだ。


「お前たち、どれくらい俺たちのことを待っていたんだ?」

「だいたい3日くらいですかねえ」と青音が答える。

「そんなに?!」モモが襲わず叫んだ。

「すごいだろ? 結構待ってたんだぜ。こいつは一度待つって言いだしたら聞かねえからよ。大変だったぜ」


 黄助は腕を組みながら自分の苦労を思い出していた。確かに大変だったのだろうが、黄助が言うとなぜか嘘くさく聞こえてしまうのが不思議だ。


「嫌なら帰ったって良かったんじゃない?」とモモがつぶやく。やはりどこかとげがある。


 黄助はそんなモモのつぶやきをなかったことにするように、鬼ヶ島の方を指さしながら言った。

「桃太郎さん、ここから先は西の道を歩いていけば鬼ヶ島まで行けますよ」


 黄助がさした道を眺める。丘を越えた先に村がある。そしてそこから道を進んでいくと砂浜までたどり着けるようだった。そこから先は鬼ヶ島まで船で行く。


 多少の違いはあるが、やはり物語の『桃太郎』と展開は同じようだ。


 俺たちはそのまま出発をした。穏やかな日差しの中を進んでいると、ふとピクニックをしているような気分になってしまう。適度に気を引き締めながら先を急ぐ。


 しばらく歩いていくと、村が見えてきた。日はもうすぐ夕方に近づこうとしていた。秋の夕方はやけに橙色が綺麗に見える。

 村の中に入って中を軽く中を見て回る。家が大体20軒ほどある。藁ぶき屋根の家が多く、以前訪れた集落よりもやはり活気があった。


「なんか私たち、視線を集めていません?」とモモが言った。

 確かに、村の中で人とすれ違うたびにやけにめずらしい目で見られている。

「まあ俺たちパッと見たら変な集団なんじゃないか? 人間が犬と猿とキジと一緒にいるんだもの」

「私は果たして犬なのでしょうか?」

「確かに。それも含めて視線を集めているのかもな」


 モモは自分の体を一度見返して少し頬を赤らめた。周りからの視線が自分に言っている可能性に照れてしまったのだろう。


「大丈夫だよ。あんたのことなんて見てないって」と黄助が言った。

「いちいちうるさいわね。あんたのことなんてもっと誰も気にしていないわよ」

「わからないぜ?」


 モモは不機嫌な顔で黄助のことをにらむ。どうも馬が合わないらしい。


「まあまあ、二人とも落ち着いて」


 キジが間に入って何とか間を取り持とうとしている。キジが焦るたびに翼の動きが活発になっている。俺も止めなきゃいけないのはわかっているのだが、キジの動きを見ているとついつい観察してみたくなってしまう。


 モモはそっぽを向いて俺の方に再び顔を向けた。


「そういえば、今日はここで止まる予定なんですか?」

「できればそうしたいんだけど、どこか止めてくれるところはあるのかな?」

「見る感じ看板とかは見当たらないですよね」


 俺は村人がみんな家の中に入ってしまう前に、聞いてみることにした。とは言っても、日もだんだんとくれ始め、さっきまで歩いていた人たちもみんな家に入ってしまっていた。勝手に家に押し入って「泊めてくれ」なんていうことはできない。


「どうしようかな……」

 俺の悩みとは関係なく日はどんどん沈んでいく。なんとなくあきらめの気持ちが強くなっていく。


「お兄さんたち、旅の人?」

 悩んでいたら一人の少年から声をかけられた。まだ10歳くらいだろうか、黄助達より少し背の高い少年が、妹を連れていた。


「そうだよ。ここらへんで泊まれる場所はないかって探していたんだ」

「それなら家が宿屋さんだから泊まっていってよ」


 少年はそのまま返事を聞くことなく、こっちこっちと指さしながら俺たちを導いて進みだした。


「なんだかいい具合に泊まれる場所を見つけられましたね」と青音が言った。

「ばか、宿屋なんだから呼び込みをしただけだろ。俺たちはお客さんってことだよ」

 すかさず黄助が突っ込む。口は悪いが、こいつはなかなか頭が切れる。


「とにかく、宿が所が見つかってよかったですね。行きましょう」


 モモがそう言って俺の手を引っ張って進み始める。もう日はだいぶ暗くなっていた。

 俺たちは少年に案内されるがままに宿へ向かって進んでいった。

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