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4話 名残惜しいですか?

 翌日、俺たちはようやく森の出口にまで差し掛かっていた。


 朝の陽ざしが木々に当たりながら森の中に入ってきている。光は違和感なく俺たちのことを照らしている。もう、今ではすっかり俺も森の一員になったような気がしていた。


 短い期間ではあったが、今振り返ってみるといろいろなことがあった。この森の中で狐と出会うことができ、なにより、モモと出会うこともできた。


 森の雰囲気は出て行こうとしている俺を見送っているような気がした。始めてきたときに感じた敵意のようなものは、今ではもう感じることはなかった。


 森の中を我が物顔で歩いていた鬼を退治したことで、少しは森に感謝されているのかもしれない。確信はできなかったが、もしそうなら少しうれしいな、なんて思った。


 女神のことをすべて信じていいのか、いまでもはっきりとした答えが出ているわけではなかったが、俺のやったことで感謝している存在があることも事実だった。集落にいたおばさんや長老の顔が頭に浮かぶ。自分の心配と、この世界の人々の心配、大きな天秤が頭の中で行ったり来たりしていた。

 ただ、それでも一つだけ言えることは、どれだけ迷ったとしても前に進むためには、逃げ出さずにできることをするしかないということだった。


 森が終わりに差し掛かった時、俺たちはこれまで来た道を振り返ってみた。森は赤みを増し、秋が深まっていることを教えてくれていた。


「結構歩いてきたな」

「名残惜しいですか?」


モモは笑いながら聞いてきた。昨日の不満はとりあえずは解消してくれたらしい。


「私は森の外の世界ってほとんど見たことがないので、もう楽しみなんですよね」

「そんなにこの森の中にいたのか」

「この世界に来てからずっとですよ。ある意味第2の故郷ですよ」


 つまりこれがモモの初めての巣立ちという訳だ。この森の記憶に関しては複雑な思いだろうが、それでもお別れはいつだって少し寂しいものなのだろう。楽しみ、と言っているモモの顔はどこかまだ吹っ切れていないようだった。


「それじゃあ、最後にお別れをしていかないとだな」

「森にですか?」

「当たり前じゃないか」


 モモは不思議な表情を浮かべていたが、やがてうなずいて一緒にお別れをすることにした。


「さようなら」


 森に向かって礼をした。できるだけ大きな声で、悩みも全部吹き飛ばせるように願いを込めて……

 

 俺にとっては、新しい出会いも、成長と前進も与えてくれたこの森には感謝しかない。


 森の中は静かに風が通り抜けていくだけだった。大きな遠吠えとか、ドラマチックなことが起こるわけではない。

 それでも森は確かに俺たちの礼を受け取ってくれている、なんとなくそんな感じがした。森には森の距離感という者があるのだ。きっと狐もどこかで感じ取ってくれているだろう。


 俺たちは森の出口にみえる明るい光の方に向かって駆けだした。ようやく、森を抜けて前に進む。胸が高鳴っているのが自分ではっきりと分かった。


 足を踏み出して森から飛び出る。



「お待ちしておりました、桃太郎さん」


 森を抜けた俺たちはその声に足を止められた。声の方に目を向ける。


 そこには猿とキジが立っていた。二匹は俺の姿を確認すると、顔を見合わせてにやりと笑った。


「えーっと、俺に何か用?」


 嫌な予感がする。二匹の中からキジが前に出てきて言った。


「一緒に鬼退治に連れて行ってください!」

「は?」


 キジの目はまっすぐに俺のことを見つめていた。鬼退治の新しい歯車が早くも動き出そうとしていた。

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