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2話 お別れを言いに来たんだ

「きつねーーーー!!!!」


 俺は大きく息を吸い込んで狐のことを読んでみた。


 今度は手ごたえがあった。口から自分のものとは思えない轟音が吐き出された。声は大きな振動となり森中に響き渡る。これだけやれば狐の耳にも届くことだろう。


 声を出し終わった後、体が少ししびれる感覚があったが、しばらくそのままでいたら治まった。声を出すくらいなら体も耐えられるらしい。


「な、なんですか音は」と後ろからモモが言った。


 振り返るとモモは岩から転げ落ちていた。さっきまでの退屈な表情はどこかへ吹き飛び、ただ目の前で起こった出来事に驚いている様子だった。


「ごめんごめん。こうでもしないと呼び出せないんだよ」

「それでも、もう少し周りにも配慮をしてくださいよ」


 モモは思ったよりも今の俺の行動にご立腹な様子だ。なんか、身に覚えのあるやり取りだ。


 そんなことをしているうちに、広場近くの茂みが動いた。


「来た!」


 俺はその茂みの近くに駈け寄る。茂みの中の狐(多分それで間違いないだろう)はもぞもぞと動きながら出てくるのかどうか迷っている様子だった。これもなんだか見たことのある光景だ。しばらくすると動きがなくなってしばらくの間沈黙が訪れる。


「おーいキツネさん、出てきてよ」と俺は茂みの中に声をかけてみる。さっきまでの轟音で怖がらせてしまったのかもしれない。できるだけ警戒心を解いてもらえるように優しく声をかける。

「……桃太郎さんだけですか?」


茂みの中から声がした。少し低い声だった。


「俺だけじゃないけど……女神はいないぞ」


 それを聞くと茂みがまた少しだけ動いた。そして少し間があった後、狐が顔を少しだけ出した。狐は必要以上に周囲を確認している。女神がちゃんといないかどうかまだ安心できていないようだ。どれだけ女神に怯えているのだろう……周りに女神がいないことを確認すると、狐はようやく警戒を解い茂みから体をだした。


「お時間をかけてしまいすみません。突然のことで驚いてしまいましたもので」

「いや、こちらこそ突然読んでしまって悪かったね」

「あの大声は桃太郎さんが出されたのですか?」

「そうだよ。頑張って出してみたんだけど、ちゃんと届いていたかな」

「そりゃあもうすごかったですよ。私も遠くにいましたがすぐに耳に入ってきてしまいましたからね」


 狐は笑いながら返してくれていたが、やっぱりその笑顔はまだ引きつっているような気がした。


「それで、今日はどんなご用で?」

「今日は狐さんにお別れを言いに来たんだ」

「さようでございましたか」

「明日には森を抜けて行ってしまうと思う。狐さんには結構お世話になったから、せめて最後にお礼を言っておきたいと思ってね」

「いえいえ、わたくしは大したことはしておりません」


 狐は謙遜していたが、どこか恥ずかしそうにしていた。しっぽを見るとやはり大きく左右に揺れていた。


「狐さんがいなかったらここまでうまく事が運ばなかったよ。狐さんのおかげでモモとも出会えることができたし」


 俺は後ろにいるモモを指さした。狐がモモを見つけると、モモは狐に軽くお辞儀をした。


「そうでございましたか。わたくしが少しでも役に立ったのでしたら嬉しい限りでございます」


 狐はさっきまでの警戒を解いてくれて穏やかな雰囲気を醸し出していた。こうやって見てみると、やはり森の中で影響力を持っているということもわかるような威厳を感じる。


「それでは、わたくしはこの辺で失礼させていただきます。まだ少しやり残してしまったことがありますので」

「そうなのか、突然呼んでしまって悪かったな」

「いえ、わたくしもまた桃太郎さんと会えてうれしかったです。どうかまた森に来られた時はお声掛けください。今度は、もう少し小さい声にしていただけると助かります」


 狐はそういうと笑いながらもと来た道を帰っていこうとした。


「それでは、桃太郎さんどうかお気をつけて、」と狐は言うと、まだ何かを言おうとしているのか口を半開きにしていた。

「どうかしたのか?」


 狐は顔を俺の耳元に寄せて小さくつぶやいた・


「桃太郎さん、どうか女神さまにはお気をつけて」

「え?」


 それだけ言うと狐はすぐに帰って言ってしまった。女神に気をつけろ。いったい何に気を付ければいいのか、まで教えてはくれなかった。


 俺はモヤモヤした気持ちを抱えたまま、すぐに小さくなっていく狐の影を見送っていた。

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