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1話 狐のおかげ

 モモと森の中を歩き始めた。

 モモは森の中の道に詳しいようで、迷いそうになるとすぐに道を教えてくれた。


「この森はとにかくいろいろと走り回りましたから」

 モモは自信ありげに話したが、すぐに決まりの悪そうな顔をした。


「どうしたんだ?」

「いえ、走りまわる中で桃太郎さんの荷物奪おうとしたな~って思い出しちゃって……」

「ああ、そういえばそんなこともあったな」

「あれが私たちの最初の出会いだったんですもんね。なんだか思い出すと恥ずかしい」


 モモがあまりにも気にしていたので俺は思わず笑ってしまった。


「ちょっと、私は結構本気でへこんでいたんですよ!」

「ごめんごめん。なんだかえさ貰えなかった時みたいで面白くてさ」


 俺は笑いながらモモの頭をなでた。


「まあそれでも、モモが俺の荷物を狙わなかったらこうやって再会することもできなかったわけだし、これはこれでいいんじゃないか?」


 モモは複雑な顔をしていたが、結局納得したようですぐに明るい調子に戻っていた。


「森を超えるにはこの速度だとあと一日はかかりそうですね」とモモはのんきに言った。

「まあ、私の足ならもっと早く抜けられますが」

「俺だってモモの足には追い付けるぞ。力を使えばだけど」

「それじゃあ、使っちゃいますか? その力」

「……やめとく」


 体の調子がやっと落ち着いてきたのに、また変に力を使いたくなかった。鬼に出会ってから、力が常に最大で発揮されるようになってしまった。今も踏み込めばモモより速く走れるだろうが、鬼の前以外ではあまり使わない方がいいと思う。

 

モモは俺のためらう姿を見てなんだかうれしそうだった。


「少しくらい時間がかかってもいいよ。歩いていこうぜ」


 俺たちは二人で歩きながら森の道を進んでいった。森の安らかな音が心を落ち着けてくれる。何日かこの森の中に滞在したおかげか、自分が森の中の訪問者だという感覚が薄くなっていた。周りから警戒されているような感じもしない。狐が何かしら口を利かせてくれたのだろうか。


 そういえば狐は今何をしているのだろう。


 最後に一緒にいたのは、たしか男のところに行った時だ。あの時は気が付いたらいなくなっていたんだっけ。俺は無性に狐に会いたくなった。森を抜ける前にあいさつをしたかったし、いろいろな経緯はあったが、それでもモモと巡り合えたのは狐の協力があったからだ。感謝はしてもしきれない。


「どうかしたんですか?」とモモが訊ねてきた。

「ちょっと会いたい奴がいるんだけど、寄り道してもいいかな?」

「まあいいですけど、この森の中にいるんですか?」

「まあね」


 モモはあまり興味なさそうに返事をしていた。自分の知らないものに会うのはあまり気が進まないのかもしれない。


 しばらく歩くと広場に出てきた。あたりは橙色に染まりつつあった。この時間なら狐も出てきてくれるだろう。いつだって狐と出会うのは森の中の広場だった。今回もきっと来てくれるだろう。


「きつねーーーー!」


 俺は大声を出して狐のことを呼んでみる。返事はなかった。まだ森の中に俺の声は響いていないらしい。モモも退屈そうにしながら近くの岩に腰かけていた。あくびしているのを見る限り、俺の声もそこまで鼓膜に響いていないのだろう。


 女神がどのように声を出していたのかを思い出してみる。あの時は鼓膜が破れるかと思うくらいの大音量だった。やはりあれくらいやらないと森中に声を届けることはできないのだろう。俺は意識を集中して声を出す準備をする。このまま声を出せば、俺の中の力も一緒に手助けをしに出てきそうだ。


(走ったりしたら体に代償があるかもしれないけど、声を出すくらいならきっと大丈夫だろう)


 謎の理論で自分に言い訳をしながら声を出すため姿勢を整えた。大きく息を吸い込んで言葉をしっかりとイメージする。


 そして思い切り体の中から声を出してみた。

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