45話 鬼退治らしくなって来た
何日か過ぎて、ようやく俺の体は正常に戻った。ベッドから起き上がって体を伸ばす。体はようやく動けることを喜んでいるように軽い。俺は久しぶりに動ける喜びに身を任せて体を動かしていた。
「急にそんなに動かしちゃっていいんですか?」とモモが聞いてきた。
「いいんだよ、むしろこれくらい動かしておかないと、あとで旅立った時に支障が出ちゃうだろ」
自分で言っててもよくわからない論理だったが別にいい。とにかく俺は体が動かしたかったのだ。それ以外に理由なんていらない。モモはそんな俺のはしゃいでいる姿を見て、ため息をつきながら眺めていた。
しばらく体を動かした後、俺は再び旅立ちの準備を始めた。おばあさんからもらった服を身にまとい、刀を持つ。どちらも鬼の返り血を浴びていたはずだったが、綺麗に消えていた。
「モモが洗ってくれたのか?」
「まあ暇でしたから」
モモは何でもないかのように言った。いくら暇とはいえ、鬼の血を洗い流そうと思えるとは、やっぱりモモは、鬼たちの言うようなグズなんかではない。
俺は刀を何度か振ってみて感触を思い出す。初めて手にした時よりもしっくりくる。なんとなくだが、鬼を倒したことによって刀の重みが加わったような気がする。
空は晴れていて、絶好の旅立ち日和だった。いつまでもこの小屋の中にはいられない。少しでも早く出発してしまいたかった。俺は外に出て空気を吸う。森の空気は澄んでいて、もうすっかり秋が来たことを教えていた。モモも一緒に出てきて空気を吸い込む。なんだか一緒に森の中を散歩しているような気がして、急に懐かしい思いがこみ上げてきた。
「なあ、」と俺はモモに声をかけた。「今更なんだけど、一緒に来るってことでいいんだよな」
「当たり前じゃないですか」とモモは言った。「これからは一緒にいようって約束したじゃないですか」
「そうだよな」
俺たちは互いの顔を見合って笑った。もう俺たちが離れることはない。世界を越えてここまでやって来た俺たちは、確信していた。
「お似合いじゃない」
モモじゃない声が前から聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。
見てみればそこには女神が立っていた。いつものいたずらな笑みを浮かべながらこっちを眺めていた。
「驚かすなよ」と俺は言った。
「だってあなたたち見てたらなんか面白くなっちゃったんだもん」
女神はくすくすと笑っている。あいかわらず何を考えているのかわからない。
「今まで何してたんだ?」と俺は女神に訊ねた。
「いろいろよ。私もあの男に聞きたいことも多かったし、後処理やら何やらで結構忙しかったのよ」
「あの人、どうなったんですか?」とモモが女神に訊ねた。
「大丈夫よ、もうあなたたちには絶対に近づいてこないから」
それを聞いてモモは安心したようだ。胸をなでおろした。
「それにしても、」
女神は俺の方をじろじろ見ながら言った。
「やっと鬼退治らしくなって来たじゃない」
俺は自分の身の回りを確認してみる。言われてみれば、俺はいつの間にか武器を手に入れ、一緒に旅をする仲間ができていた。それに鬼も一体倒している。鬼退治のための準備としてはこれ以上ないほど完璧だった。
「私はこれからまだやらなきゃいけないことあるから、しばらくはあなたたちで旅をしておいて。まずはこの森を抜けること、いいわね?」
そう言うと女神は、俺たちの返事も聞かずにいなくなってしまった。よっぽど忙しいらしい。取り残された俺たちは反応に困った。
「きっと見送りに来てくれたんですよ」とモモは言った。確かに、忙しい中でも来てくれたのなら、ありがたい。女神にも意外といい一面もあるみたいだ。
俺たちは森の中を出発した。もう森の道も怖くはない。なんて言ったって一人ではないのだから。俺の鬼退治の旅はここからが本番だ。これから先、何が起こるのかはわからない。それでも、モモとならなんとか乗り越えて行けるだろう。
希望を胸に抱きながら、俺たちは新しい一歩を踏み出した。
第二章完結です。思ったより長くなってしまいました。
ここから第三章(おそらく最終章)に入っていきます。ぜひお読みください!




