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40話 何しやがるんだ

 刀を拾い上げ、男の方に歩き出す。男は怒りにとらわれていた。モモに何か反撃でもされたのだろうか。自分が今まで何をしてきたのかよく考えてみろ。


こいつとモモはここで訣別させなければいけない。女神との取り決めもあったな……やるべきことでいっぱいだ。


 俺は怒りで狂っている男へ近づいた。


 男の視界に入って立ち塞がる。男はそこまで来てようやく俺の存在を認識の中に入れることが出来たようだ。息を荒く吐きながらも立ち止まる。男は目を赤くしてなにか(恐らくモモだろう)をただじっと睨んでいる。顔には小さな傷がついていた。洞窟に行く前にはついていなかったはずだ。頬に浮かぶ小さな擦り傷。おそらくモモと小さな争いでもしたのだろう。


 男を目の前にして、俺はなぜだか冷静でいられた。体が疲れていたせいかもしれない。それとも、鬼と戦って来たおかげかもしれない。さっきまで大きく見えた男は今ではただモモを脅かす下劣な存在として目に映る。


 俺は男の目の前に立ち、鞘のついた刀で男を突き、そのまま押し倒した。鞘は男のみぞおちに綺麗に入った。男は鈍い呻き声を上げながらその場で倒れた。何が起こったのかよく分からないようだった。その顔には怒りと、困惑が共存をしていた。


「何しやがるんだ」


 しばらく唸っていたあと、男は低い声で言ってきた。その表情からは困惑の色は消え、再び怒りに歪められてぐしゃぐしゃに変わっていた。


 俺は男の目線までしゃがみながら手に持っていた鬼の首を男の前に差し出した。男の顔よりも大きな鬼の面が男の前に突きつけられる。鬼の首を見せつけられて男は反射的に悲鳴をあげた。甲高く情けない悲鳴だ。ここまで来て、ようやく自分が置かれている現実に気がついたようだ。鬼はその鋭い眼光で男のことを睨みつけている。


 これまで自分がへりくだっていた相手が、目の前で死に顔を晒している。そして、その殺し手が目の前にいる。


 ずっと赤かった男の目が白んでいく。腰を抜かしたのか、倒れたまま後退りをする。少しでも鬼の首から離れようとしているらしい。


「洞窟の中の〈猛獣〉とやらはちゃんと退治してきたぞ」と俺は言った。


 男は声も出さず、ただ首を横に何度も振った。口から漏れ出る音には涙が混ざっていた。

俺は鬼の首を男の横に投げ捨てる。鬼の首は横に転がってもなお、男のことを睨みつけていた。その眼光からは男に対する恨みが漏れ出ているような気がした。


 男は体を鬼の首の反対方向に転がって逃げた。さっきまでの威勢はどこにも見られない。男はただ鬼の呪怨に囚われてしまったようだ。


 俺は刀を鞘から抜き男の喉元に突きつける。


「なんで鬼なんかと手を組んだんだ?」


 俺は男に尋ねた。女神が後で尋問でもするのだろうが、これだけは男の口から直接聞いておきたかった。

 男は突然言い放たれた質問をすぐに理解することができなかったようだ。混乱に陥っている男の頭の中には俺の声はすぐに届きそうにない。


「なんで鬼と手を組んだんだ!」


 俺は語気を強めてもう一度男に問いかけた。鬼のことが絡むと自然と気が強くなる。血が騒ぐとでもいうのだろうか。頭が熱い。


 男はようやく俺の声が届いたようだ。男は俺の声を理解すると少し気持ちが落ち着いたようだ。刀を喉元に当てられながらも、横に転がっている鬼の首を見つめる。


そして急に不気味な笑みを浮かべながら男はしゃべり始めた。

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