37話 不思議な力
「なんか話でもしようぜ」と俺は提案した。
何か話していなければ意識が持っていかれそうな気がした。
「どんな話がしたい?」
女神は軽く伸びをしていた。いったい何に疲れたというのだろう。俺は女神に聞きたいことはいくつかあった。ぼーっとしてしまいそうな頭を回転させながら女神への質問を言葉にしていく。
「鬼と戦っている最中にずっと頭の中で声がしていたんだよ。『鬼を殺せ』ってな。それで鬼を倒した途端にその声が止んだんだ。お前何か知らないか?」
へえ、と女神は相槌を打った。これまた興味なさそうである。
「なんか不思議な力にでも目覚めたんじゃないの? 自分の中に宿るもう一人の自分! みたいな。そいうのなんかかっこいいじゃない」
女神はあくびをしていた。とてつもなく適当な返答である。これがこの世界の管理者の回答だと思うと何だか悲しくなる。こんな適当だから鬼に世界を乗っ取られそうになるのではないか?
「いや、でも俺がこの世界に転生されたとき、お前は俺に力を与えたわけだろ? その時に俺の中に何かしたっていうのじゃないのか?」
「たしかに、あなたを転生させるときに力を与えたわ。でも、それはあくまで肉体的な力よ」
女神は俺の方を指をさす。
「あなたには肉体的に大きな力を持つことができる力があった。だから鬼を倒せるような人物としてあなたを選んだ。だけど、そんな力を持っていても、超能力みたいな力を持てるかどうかは話が別よ。そんなことできる器があったらとっくに即採用しているんだから」
「じゃあやっぱり俺が急に力に目覚めたってことなのか?」
「そういうことなんじゃない? 私があなたに鬼退治をしてほしいって頼んだから、あなたの意識の中でそれをかなえるための意識でも芽生えたんじゃないかしら」
それだけ言うと女神は先に前に歩き始めた。なんとなく不機嫌なような気がしたが、自分がやってないことを変に聞かれて嫌だったのだろうか。
俺の中の自我か……。鬼と戦っていた時の自分を思い出してみる。あの時はどうにも強気で、鬼に対してただ倒すことだけに集中をしていた。その中には初めて見る鬼であっても容赦しない、確かな思いがあった。殺気なんて言ってしまうと恐ろしいが、それに近いものもあったのかもしれない。なんだか別人のような気がしてしまったのだ。
世界が変われば、自分自身も知らないうちに変わって行ってしまうのものなのだろうか。
「それとも」
俺が考えていると、女神は振り返っていった。顔にはいつものいたずらな笑みが浮かんでいた。
「だれかがあんたの頭の中に入って操作していたりして」
女神は自分で言った言葉に対して笑っているようだ。人が勝手に操作されているという状況がそんなに面白いのだろうか。
「怖いこというんじゃねえよ」
俺は鬼の首を持ちながら女神を追いかけた。首は重かったが、疲れはさっきよりは感じなくなった気がする。洞窟はもう少し続く。だんだんと見えてくる光に向かって俺たちは歩き続けた。




