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30話 このまま押し通せば貫ける

 俺は鬼の首めがけて一気に跳び立った。川で感覚を掴んでいたから、もう迷いはない。足が鬼の肩に着く。こん棒を振り下ろした鬼の肩は下を向いたまま、突如として現れた俺に対して反応することができなかった。


 鬼は肩に伝わって来た振動に気付き、俺の方に顔を向ける。鬼と目が合った。俺はしっかりと鬼の目を睨みつけながら、これから鬼に対しての反撃を予告する。鬼は眼を丸くしながらただ俺の顔を見つめていた。


 俺は鬼の肩から更に跳び、鬼の首にめがけて飛び込む。


「お前の番はこれまでだ」と俺は鬼に向かって叫んだ。


 刀をしっかりと握りしめて、吸い込まれていくように近づいていく。自然と叫び声が出る。全ての神経が集中される。


 しかし、あと少しのところで鬼も首を守った。鬼は左の手を反射的にくびの前に出し、刀の動きを止めようとした。刀は鬼の硬い筋肉に阻まれ、首にまでその刃を届けることができなかった。刀と鬼の腕との奇妙な鍔迫り合いが始まる。鬼の方が姿勢は不利だ。このまま押し通せば貫ける。


 しかし、鬼の方も譲らない。人間を凌駕するだけの力を持っているのは当然だ。このままはじき返されてしまえば、また鬼の猛撃から逃げなければならない。この機会を逃すわけにはいかない。


 俺は力を腕に集中させる。川を飛び越えた時と同じように、足に集中させた力を今度は腕に持ってくるだけだ。自分でも驚くほどに声が出る。叫び声が部屋中に響き渡る。腕が熱くなっていく。力がこもってきたあかしだ。


 段々と刀が腕にめり込み始めるのが感じられた。それまでの鋼鉄のような腕が、少しずつ肉本来の姿を取り戻していく。それまで聞こえなかった鬼の叫び声が聞こえてくるようになってきた。


「鬼を殺せ」


 強い口調で頭に直接声が語りかけてくる。その声は俺の思いになり、俺の力になり、俺の行動に伝播していく。刀を握る力がより一層強くなる。刀はそれにこたえるように震えながらもしっかりと鬼の腕の中にめり込んで、その首を討ち取ろうとする。俺と刀が一つになっていく感じがする。


 なるほど、良い刀だ。 


 もう鬼に、俺の勢いを止めることはできなかった。俺は最後のひと踏ん張りを加え、鬼の腕を叩き切った。俺と鬼との、全く正反対の叫び声が部屋の中をこだまする。


 そのまま鬼の首を斬ろうとしたかったが、鬼は首の位置を変え、何とか討ち取られないように抵抗する。腕を切ったままの勢いでは鬼の首を取れない。


 俺の刀は仕方なく、鬼の額に当たった。切り傷をいれることはできなかった。


 それでも、鬼はそのまま倒れこんで床に崩れた。鬼はもうボロボロになり、その場で左腕をかばいながら俺のことを見ている。その目には恐怖の色が窺えた。


 俺は鬼の体の上に飛び降りる。鬼の首はもう目の前だ。


 刀についた血を払いながら、ゆっくりと首を目指して鬼の上を歩いて行った。

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