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28話 侵入者か

 俺はゆっくりと鬼の背後に回り、その武器の方へ近づいていく。鬼の後姿は荒く削られた岩のようだった。その岩の後ろにいくらかの武器が顔を出していた。数本の刀だ。武器に対して評価を下せる目を持っているわけではないが、その光輝いている刀には職人のこだわりがあるように感じられた。鬼の後ろには刀の他に鈍器も並べられている。俺の体ほどはあるだろうかと思われる鉄の塊がくっついている。


 とても人間が扱える代物ではない……


 俺の頭の中に、鬼のために金属を打つ男の姿が浮かんできた。男に対して怒りがこみあげてくる。鬼に魂を討った卑しい人間、いったい彼のせいでどれだけの武器が鬼の手に渡ったのだろう。その武器でまた人間が苦しめられる。男がなぜ鬼に武器を提供しているのか。とにかく早く男のもとに戻って問いただすしかない。人間の敵だ、許す訳にはいかない。


 刀の奥に置いてあったその鈍器をに手を伸ばそうとした。しかし、それがあだとなった。中に踏み込んだちょっとした衝撃で、武器が重なり合っていた微妙な均衡が崩れてしまったようだ。乾いた金属音が部屋の中に響く。


「誰だ」

 頭上から声がした。


 目の前にあた青い岩壁が動きだす。ゆっくりと、しかし確実にそれは生き物としての体温が上がっていく。


 俺はとっさに、一番手前にある刀を手に取った。雑に取り上げたせいでさっきよりもさらに大きい音が部屋に響く。


 刀は、柄の部分がひどくひんやりとしていた。まるで主人を失ってしまいうなだれていた子犬のような悲壮感を持ち合わせた刀だった。その刀をしっかりと握りしめる。


「鬼を殺せ」


 早まる鼓動と共に、見えざる者の声が何度も頭の中に鳴り響く。戦いはもう始まっている。鬼にも気づかれている以上戦うしかない。


 鬼はゆっくりと立ち上がった。そしてこちらに顔を向ける。立ち上がった鬼は俺のことを見つけると面倒くさそうに睨んだ。そして一回あくびをする。


「侵入者か。しかも人間かよ」鬼はあくびをしながら言った。


 鬼は肩を軽く回す。筋肉のほぐれる音が大きく鳴る。鬼の動作は一つ一つが無駄に大きく、無駄に響き渡る。


「人間さんよ、あんたに罪はねえが、あいつとの約束で侵入者は叩き潰すことになっているんだ」


 そう言いながら鬼は鈍器に手を伸ばす。俺の目の前にあった時はただの金属の塊だったその武器は、一瞬として立派なこん棒になり鬼の手に収まる。


「だからよお、恨まないでくれよな」


 鬼はいやらしい笑みを浮かべながらこちらに言い放った。


 鬼との戦いが始まるんだ。目の奥が熱くなる。早まる鼓動を抑えながら、俺はじっと鬼をにらみ続けた。

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