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27話 鬼を殺せ

 扉を開くと、それまで向こう側のすべての情報が閉ざされていたことが分かった。松明の光とは比べ物にならないほどの光が俺の目を襲う。松明のような橙色の優しい光ではなく、あくまで実用的な黄色い光だ。その光を浴びて俺は一瞬目がくらむ。そのせいで扉の向こう側の様子がどうなっているのかすぐに把握することができなかった。


 しかし、たとえ目が使えなくなっていたとしても、その中に何かがいるということだけははっきりと分かった。音がするのだ。それも俺たちの耳を大きく震わせる低い振動だ。生き物がのどに振動を与えて、口から外に出す類の汚い音。扉を少し開けた隙間からこれでもか、というくらいに外へとあふれ出ている。


 あまりの衝撃に、一度扉を閉めようかと考えたが、開いてしまったものはもう戻せない。恐れを押しのけて俺はそのまま扉をめいいっぱいに開く。扉は重い音を立てながらゆっくりと開いた。


 扉が完全に開いた時、俺たちは目を疑った。


 扉の向こうに鬼が寝ていたのだ。


 俺ははじめ、自分の目がまだちゃんと見えていないのではないかと思った。しかし、何度目をこすってみても見える風景は一緒だ。殺風景な作業場の真ん中に、俺の身長の倍くらいはあるだろう青鬼がいびきを立てながら眠っている。さっき俺たちに聞こえてきていたのはすべて奴の音だったというわけだ。


 俺は女神の方を見る。女神はすでに自分の姿を消していた。目の前にいる対象が人であろうが、鬼であろうが、自分が縛られるルールは変わらないのだ。この非常事態に対しても揺るぎのない管理人である。女神からもっと早めに助言でも貰えばよかったと後悔したが、もう後の祭りだ。


 俺はこの鬼を倒さなければならない。一人で。


 そう覚悟を決めた瞬間、俺の中で何かが灯った。目の奥が急に熱くなる。


「鬼は殺さなければならない」

 

 何者かが俺の中でささやきかけてくる。その声は女神の声なんかではない。もっと暗く、低い声だ。それは俺の声であるように思えた。


「鬼を殺せ、鬼を殺せ」


 何度も何度も俺の中で繰り返し、叫び続け、俺の目を鬼の首に向かわせようとしている。その声を聴いていると


 鬼を起こさないようにゆっくりと間合いを詰める。男が言っていた「猛獣」とやらは間違いなくこいつのことだろう。男はどういう訳かこの鬼を飼いならしていたというわけだ。俺がやるのは鬼退治前の試練なんかではない、鬼退治そのものだったというわけだ。


 足音が鳴らないように慎重に足を進める。


 これから討ち取らなければならない首をじっと見つめる。鬼は侵入してきた俺たちの存在にも気づかずに気持ちよさそうに眠っている。いびきをするたびに部屋中に振動が響く。ひんやりとした部屋の中であるはずなのに、首筋にいやな汗が染みだしている。乾いたのどに無理やりつばを流し込みながらゆっくり、ゆっくりと間合いを詰めていく。


 間合いを詰めながら、俺は部屋の中を見渡した。鬼と手ぶらで戦うわけにはいかない。ここが鍛冶職人の作業場であるのならば、必ず何かしら武器が置かれているはずだ。男も何か武器を持って帰ってきていいと言っていた。


 武器はパッと見ただけではわからないところに隠されていた。それは鬼が寝ている、その後ろに並べられていたのだ。


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