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25話 天才少女名探偵さま

 奥まで歩くと光の差す広場に出た。そこには岩の壁があって、右の方に穴が開いていた。おそらく、これが洞窟だ。その洞窟の入り口は光に当たっているはずなのに、暗い森の中よりも殺風景に見えた。まわりには荒い岩肌が広がり、静かに中に入る人のことを待ち受けている。中を覗きこむと同じような岩の通路が奥にまで続いていた。


 この中に猛獣がいるということだが、外にいる限りではうめき声は聞こえてくる気配はない。洞窟が奥深くてここまで届いてこないだけかもしれない。とにかく、中に入って確かめるしかない。


 俺たちは洞窟の中に足を踏み入れた。中から冷たい風がふきつけた。盛大な歓迎のあいさつだ。その風を顔に浴びながら目を開く。一歩歩くたびに床の砂利の音が洞窟の中に響く。女神は足音はしないようだ。2ミリくらい浮いているのかもしれない。つまり、俺の足音以外の音は、何もしない。暗く、孤独な洞窟だ。


 洞窟の中は奥に進むにつれて、外からの光も入ってこなくなる。昼間ならまだ明るい光で中が見えるのかもしれないが、それでもこのままでは完全な暗闇になってしまう。俺は松明のようなものを持ってこなかったことを後悔した。男はきっとこのことは分かっていたのだろう。そのうえで何も言わなかった。男の怪しい笑顔が浮かんでくる。


 一旦引き返そうか? そう女神に聞こうとしたとき、ふと前が明るくなっているのを見つけた。ちょうどもう昼間でも光が入ってこなくなるだろう、といった深さまで進んでいた時だった。光の下へ行ってみると、松明がかべにとりつけられていた。そのまわりを円形に炎の光が照らしている。洞窟の奥に目を向けると、ここから先、同じような光が点々と続いてた。暗闇の対策もばっちりというわけだ。


「松明が、まだ燃えているということは、」と女神がつぶやいた。

「奴は今日もこの場所に来ていたということよね」


 女神は一人でうなずいている。まるで事件のに迫る名探偵のようにほくそ笑む。


「よっ、天才少女名探偵さま」と言ってみた。声に感情はこもらなかった。


 女神はまんざらでもないようだ。鼻の穴が少し大きくなっていた。女神は手を腰に当て、名探偵を気取って、男が付けていったであろう松明を調べている。


「奴は『猛獣が住み着いた』なんて言いながら、今日ものんきにこの洞窟に足を運んでいた」

 女神の推理はまだ続く。


 俺は小屋の前で男と出会った時のことを思い出す。あの時男はこの洞窟から帰って来たのだろうか。いつも通り洞窟の中で金蔵を打ち、帰って来る。安全な洞窟ならそれが可能であるが、そんなことでは、とっさに洞窟に「猛獣が住み着いた」なんて言葉を言うことができるだろうか。


 単なる度胸試しをしようとしていたとは思えない。それなら「猛獣が住み着いた」とは言っても、ただ剣を持ってこいとだけ言えばいい。男はわざわざ猛獣の首を要求してきた。戦いが所望なのだ。


「なあ、」俺は女神に訊ねる。


「男とその猛獣とやらグルだってことか?」


 まだたいまつを観察していた女神は俺の方に顔を向ける。松明のにおいを嗅ごうといしていたらしく、顔が妙に火に近かった。なびいた長い髪が火に当たりそうでヒヤリとしたが、女神はそんな事気にしないようだった。


「まあ、そんなところね」と女神は答えた。

 松明の火は静かに黙々と燃え続けていた。

こちらの作品ではお久しぶりです。また再開します。

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