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22話 悪くない話だろ?

 頼まれごとと男は言った。モモを取り返せる提案だ。これを逃すわけにはいかない。


「どんな用事だ?」


 俺が食いついたと判断した男は、少し間をあけて用件を話し始めた。


「俺は普段、この先を少し歩いたところにある洞窟の中で金属をたたいているんだ。武器やら防具やらが主な専門だ。しかし、最近その洞窟の中に何やら猛獣が住み着いてしまったらしくて近寄れないんだよ」


 男はいかにも困ったというような顔をして話し始めた。森の中の洞窟。狐から聞いていた情報の通りだ。俺は続きを促すようにうなずいた。


「それで、悪いんだけどその洞窟まで行って猛獣を追い払ってきてくれないか?もし無事に追い払えたら中にある武器を持ってってもいいぜ。鬼退治には必要だろ」


 男の提案に真っ先に反応したのはモモだった。それまで貫いてきた沈黙を破り、えっ、と一言反応をした。男はモモの方に目を向けた。男の表情を見たモモはすぐに驚きの表情をひっこめた。そのまま急いで口を紡ぎ、再び元の体勢に戻ってしまった。


「どうだ、悪くない話だろ? 人助けだと思ってやってくれないか」


 俺はこの男の言うことを信じていいのか自信がなかった。男は常に不敵な笑みを浮かべながらこちらの出る様子をうかがっている。なにか裏があるのかもしれない。


 しかし結局のところ、モモを取り返すには、この男のいうことに従うしか方法は残されていなかった。俺はモモの方に目をやる。モモはまだじっと地面に視線をやりながら、立ち尽くしていた。その彼女の姿が現状に満足しているとはやはり思うことができない。――モモを助け出したい。俺の中で湧き上がっていた思いが確かなものになっていく。


「受けよう」


 俺は男に答えた。何が待っているのかはわからないが、それでもなんとかやれるだろうという自信は持っていた。


 男は返事を聞くとにやりと笑った。これで「契約成立だな」と言いながらこちらに手を差し出して来た。俺は差し出された手を握り、男と契約を交わした。契約を済ませると、男はモモの肩を抱きながら、扉に手をやった。


「それじゃあ、愛しのモモちゃんの為に頑張ってくれよ。猛獣を追い払ったら首を持ってここまで持ってきてくれ。頼んだぞ」


 それだけ言うと男とモモは小屋の中に消えていった。扉が閉まるとあたりは急に静かになったような気がした。秋風が体に寂しく吹きさらす。


「たすけて」

 

 男に声をかけられる前、モモは確かにそういっていた。かすれた声で聞き取ることも難しかったが、それでもあの時のモモは俺に助けを求めていた。


 モモを助けるためには男の用件をこなすしかない。こぶしを握りしめながらじっと小屋の中を見つめた。その中で今もおびえているだろう、モモを見つめて決意を強く持った。

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