20話 たとえどんな形でも
扉は開いたものの、半開きのままで、中からモモは出てこなかった。半開きのドアから何やらこちらの様子を窺っているようだ。小屋の中に灯っている薄明かりがほんのりとドアの隙間から漏れ出ていた。その明かりにぼんやりとうつる影によって、そこに誰かがいるのだということを確認することができた。
「おいおい、恥ずかしがってねえで早く出て来いよ」と男は小屋の中に向かって呼びかけた。
小屋の中にいるモモはそれでドアの向こう側で待機をしていたが、やがて意を決したのか、扉をあけて外に姿を現した。月の明かりが彼女を照らす。モモは自分の姿が映し出されていることが恥ずかしいといったように、体を縮めながら小屋の前に立っていた。間違いない。確かに昼間見た、あのモモだ。
俺はモモのもとに駈け寄った。なにを話せばいいのか、頭の中を整理できていなかった。それでも、もう一度何かを話したい、その思いだけが俺を動かしていた。俺が駈け寄る野と同時に後ろで男が歩きながらついてきていた。男はやはり奇妙に笑っている。
「モモ、」と俺は呼びかけた。「モモ、覚えているか?俺だよ、太郎だよ」
モモはもうその名前を聞いても驚くようなそぶりは見せなかった。視線をしたに向けて、俺と目を合わせないようにしていた。なにかを考えているような複雑な感情を抱えているように見えた。昔見た元気なモモの姿ではない、なにかに押さえつけられているようにモモはおとなしかった。モモはじっと自分の首輪を手でいじくっていた。
俺はモモにかまわず言葉をつづけた。とにかくなにかを喋っていたかった。
「なあ、モモ、記憶は思い出せたか?俺はこの世界に来てからずっとモモのことを考えていたぞ。夢にだって出てきたくらいだ、笑えるだろ?こんなよくわからない世界にきてもずっとお前のこと考えてるんだぜ?」
俺はだんだんと自分の言葉が震えてきていることを感じた。モモの返事はない。ただじっと下を見つめている。その視線の先には緑の草が広がっているだけだ。首輪をいじっていた手は今は、自分の腕を握りしめている。その手はもかすかにふるえていた。
「俺はこの世界でお前ともう一回再会できたことが本当にうれしいんだ。たとえどんな形でも、お互い違った姿になっていてもな」
俺はモモの肩に手を置いた。一瞬体がびくっとしたが、俺の手を振り払おうとはしなかった。モモの体は今でも温かく、それが生きている存在なのだということを俺に訴えかけてきていた。
しばらく沈黙がつづいた。モモはあいかわらず返事がなかったし、俺も言葉が出てk無くなってしまった。言いたいことがなくなったわけではない。ただ、実際にのどから言葉を出すことが難しくなったのだ。頭の中で言いたい言葉だけが行ったり来たりしている。
モモが口を少し開け、なにかをつぶやいた。吐息と間違えてしまうような小さな、とてもささやかな音だった。しかし、それは確かに口を動かして出したモモの言葉だった。
「え?」俺は聞き返す。モモが言おうとした言葉をもう一度聞き取ろうとする。モモはもう一度静かに息を吸った。そこには大事な何かを込めようとする意志が込められていた。
「もう言いたいことは言えたかい、お兄さんよお」
モモが行おうとした動作はすべて男のこの一言で中断されてしまった。男は腕を組みながらただにやけながらこちらを覗いていた。




