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12話 奴の情報を手に入れないといけないわね

 夕日が沈み始め、あたりがだんだんと暗くなり始めた。

 秋になると日が短くなるのはどの世界でも共通のようだ。


「さて」と女神は言った。

 俺たちは木にもたれかかっていた。モモにもう一度会いに行くための作戦会議だ。

「まずは奴の情報を手に入れないといけないわね」

「奴って?」

「モモちゃんを連れて行った男よ。奴の情報がないとこっちも動くに動けないじゃない」

「女神さまは知らないんだな」


 女神は深くため息をついた。それから、あのね、と立ち上がりながら言った。

「この前も言ったと思うけど、私は干渉したものにしか関わることができない。そういうルールなの。だから言ってしまえば、私の目を逃れることだってやろうと思えばできるわけ」

「それで、その男はどういう訳か女神さまの目をかいくぐることができているという訳か」

「そういうこと。私に隠れてこそこそやろうなんて、なんて生意気なやつ!」


 女神は口をすぼめて何やら文句を言っていた。管理者というのもいろいろとストレスのたまる役目のようだ。俺が管理者だったらきっと耐えられなかっただろう。


「でも情報を得るって言ったって誰から得るんだよ?」と俺は言った。

「そんなの、森の情報について詳しい生き物に聞くだけよ」

「そんなの都合よくいるもんなのか?」

「まあ、みてなさい」と女神は笑顔で言った。自信あり、といった感じだ。


 女神は大きく息を吸った。その呼吸に合わせて森の木々がざわめく。少女の小さい体の中にありったけの空気が補充されていく。

 女神は、たっぷりと息を吸い込むと息を止めた。ざわめいていた木々が静かになる。あたりが急に静かになる。嵐の前の静けさ。女神は一度俺の方を向いて、目だけで軽く微笑んだ。


「キツネ!!!!」


 女神は特大の大声で叫んだ。静かに待っていた木々がもう一度大きく揺れ出す。その振動に合わせて落ち葉がどんどんと増えていく。俺はその衝撃にやられて気に頭をぶつけた。すかさずに耳をふさぐ。そうでもしないと鼓膜が破れてしまいそうだった。女神の声はおそらく森の中に響いているのだろう。しかしそれはとある一匹だけに向けられている。


 女神の声がようやく鳴りやんだ。あたりが静まり返る。全くの無音ではないのだが、女神の大号令のあとではどんな音もないに等しいようなものだった。俺の耳の中ではまだキーンと音が鳴っていた。頭も痛む。これはきっと木にぶつかっただけの痛みじゃない、絶対に。


「どうだった?」と女神は言った。その目はやけに輝いていた。

「どうだったじゃねーよ!」と俺は言い返す。耳がおかしくてうまく音量の調節ができない。

「そんなに叫ばなくたっていいじゃない!」

「誰のせいだと思ってるんだよ。大体その言葉、そっくりそのままお返ししてやるよ!」


「はあ?!」と女神は不機嫌そうにいった。自分のやったことが感謝されていなくて納得のいかないようだ。「ただ狐を呼んだだけじゃない」

「もっと他に呼び方があっただろう。こんな大声を上げたらみんなびっくりだろうが」

「だって、どこにいるんだかわからないんだから大きな声で呼ぶしかないでしょ?」


 俺はもう何も言い返す気になれなかった。頭も痛いしこれ以上くだらないことで悩みたくなかった。この女神は少し頭がおかしい。規則に縛られているとか何とかいいながらよくわからないグレーゾーンを攻めてくる。声だけなら認知されてもいいのだろうか?管理者とはよくわからない。


「ほら、来たわよ」と女神は茂みを指さしながら言った。

 

 茂みががさがさと動いて、そこから狐が顔を出して現れた。


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