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8話 聞き覚えがあるような気がします

 俺の手は、はっきりと獲物の肩をつかんだ。獲物は態勢を崩してその場にその場に倒れた。地面にこすりつけらていたが、落ち葉があるのでそこまで傷を負ってはないだろう。俺はその上にまたがって取られた荷物を取り返す。そして、襲撃者の姿がどんなものなのか観察した。それはやはり獣という姿ではなかった。


 全体は人間の姿をしている。身長は150センチくらいだろうか。茶色い髪に茶色い毛並みをしていた。髪は肩にかからないくらいのショートといったくらいの長さで、ぼさぼさとしていた。首には赤い首輪をつけられていた。俺はその体についた焦げ茶色のしっぽと、三角形の耳に目が行った。長い年月ずっと見てきたからわかる。それは犬のものだった。それも柴犬の……。


「モモ」と思わず俺は言った。

 それが本当にモモであるはずなどほとんどない。しかし反射的に声に出してしまっていた。そのモモらしき生き物から降りて体を自分の方へ向けさせてみる。それは少女の顔をしていた。彼女はひどくおびえた目で俺のことを見つめていた。俺は彼女の腕をつかんでいた力を少し弱める。そうして敵意がないことを相手に伝えようとする。


 モモもメスだったことを思い出す。頭の中で様々な要素が勝手にパズルのように組み合わさっていく。


「なぜ私の名前を?」と彼女は震えた声で訊ねた。また新しいピースが埋まっていく。

 俺たちはしばらくの間お互いの顔を見つめ合っていた。モモは不思議だというような顔で俺のことを見つめている。


「俺は桃太郎という。前の世界では太郎と呼ばれていたんだ。その名前に覚えはないか?」と俺は訊ねた。

「太郎?」とモモは何やら記憶をたどっているようだ。

「思い出せないか?」

「聞き覚えがあるような気がします」とモモは言った。「正直記憶があまりはっきりしていないのですが、その名前の人と一緒に過ごしたような、不思議な温かさがあるんです」


 これはモモだ。俺はなぜだかその時に確信した。モモがこの世界で生きている、姿は変割ってしまったけど、それは俺も一緒だ。俺はモモの体を抱きしめた。

 モモの体はまだ震えていた。こんな少女が突然襲撃をするような大胆さを持っているとは到底思えなかった。俺はモモの体を離した。モモは俺のことを見ながらも、どこか目を泳がせていた。どうやら混乱しているようだった。


「なぜ荷物を奪おうとした?」と俺は訊ねた。できるだけ優しい声で訊ねた。

「それは……」モモはその後の言葉を繋げなかった。

 沈黙が二人の間を襲う。遠く生き物の気が風に揺れる音が聞こえた。

それ以上モモの口から言葉が出てきそうにはなかった。彼女は何かを言うのをおびえているように見えた。俺はモモに微笑みかけて「答えなくても大丈夫」という意志を見せた。まずはモモに一度落ち着いてもらうことにした。聞きたいことはそれから聞いてもよかった。


 その時どこからともなく鈴の音が聞こえてきた。

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