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3話 それじゃあ何も解決しないじゃないか!

「やめておけと言っているんだ。鬼退治なんて言ったところでろくなことがないぞ」


 長老は俺の目の前を左右にあるきながら(それでも絶対に俺から目を離さずに)言葉を投げつけてきた。俺は思わす前のめりの姿勢になり、長老に言い返す。


「な、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだよ」

「お前みたいなのが鬼退治に行ったところで無駄死にするだけだ。そんなことで命を落としたって誰も喜ばないだろうが」

 

 俺の頭の中におじいさんたちの顔が浮かぶ。それと同時に出発した時の誓いも思い出される。

「それでも、俺はいかなきゃいけないんだ」

「どこにそんな理由がある?」

「……女神さまに啓示を受けたからだ。この世界の危機を救ってほしいって」


 長老はその言葉を聞くと鼻で笑った。俺は目を丸くした。正直女神さまに言われたことであればこの世界の人々は無条件で信じるものなのかと考えていた。この長老は何かが違う。俺にはこの長老がもう全く図れなくなってしまっていた。


「女神さまに言われたから旅に出る。そんな奴は貴様以外にもこの世界に腐るほどおるんじゃよ。一人で乗り込もうとする奴、軍隊まで出して鬼退治に行く奴まで様々いるが、結局野垂れ死にしただけだ。貴様だってその一人になるに決まっている」

「……俺は大丈夫だ」

「鬼退治に行くとほざいていた奴はみんなそう言った」

「俺は鬼を退治するためにこの世界に生まれてきたんだ。そのためにやって来た。確かに女神さまにそう言われたんだ」

「だからなんだ?特殊な人間なら鬼退治ができるというのか?鬼が出るこの世界だ。特殊な人間が出たって不思議なことではないんだよ。どうせ貴様だって他の夢見る奴らと同じだ」


 俺と長老の言葉はだんだんと強くなっていった。


 長老は俺が鬼退治に行くことに対して絶対に肯定しようとしなかった。強く、強く俺のことをにらみつける。俺も最初はただその圧力にひるまされるばかりだったが、次第にこぶしに力が入り始めた。このままこの人に負けてはいけない、と考えた。俺も長老をにらみつける。そして反撃を試みる。


「お前はこの世界の状況、この集落の状況を見てきていなかったのか?鬼の集落に苦しんでいる人々の姿を?」

「知っておるさ。貴様なんかよりも詳しくな」

「じゃあなんで何とかしようとしないんだよ!」


 俺は思わず立ち上がり、長老の肩を大きく揺さぶった。立ち上がってみると長老の背はやはり低くかった。俺が見下ろす形になっても、長老の目の鋭さは変わらず俺の目を捉え続けた。長老はしばらく揺さぶられ続けていたが、途中で俺の手を払いのけた。その勢いに俺は後ろにバランスを崩した。


「自分の身の回りの人間すらしっかり守れるかわからない人間が何を言っているんだ。世界の危機を心配する前にまずは自分にできることをしろ。身の程をわきまえずに自分の命を無駄にするな」


「それじゃあ何も解決しないじゃないか!」


 俺は長老の言葉に反応するように大声をあげていた。長老もさすがに驚いたようだ。俺をもう一度長老の前に歩み寄る。ここで引くわけにはいかなかった。


「今こうしているあいだにも鬼の恐怖に震えている人がいるんだぞ。収穫した作物を仕分けしながらも今回は襲われないかって恐怖におびえているんだぞ」

「貴様が動けば解決するとでもいうのか?」

「させてみせる」


「根拠のない自信は命を無駄に散らせるだけだぞ」

「それでも、俺はそんな人たちのことを見ながらじっとしているのは嫌なんだ」

「女神さまに言われた使命感か?」

「最初は女神に言われたからだったさ。でもここの人達を見ていたらそんなことは関係なくなった。死ぬ・死なないじゃないんだ、人々を助けるには鬼を退治するしかないんだ」


 長老はそれ以上言い返さなかった。ただ、俺のことをにらみつけた。長老は俺から目を離すと背を向けた。


 そしてそのまま壁の方に向かって歩き始めた。


個人的に8月の一番忙しい時期を乗り越えました。ここからどんどん書いていく

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