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2話 長老は静かにしゃべり始める

 長老の家は集落の端っこにあった。集落全体にめぐらされた柵と長老の家の周りの柵がちょうど重なって作られていた。その家は、他の家から少し離れた場所に建てられているせいか、どこか特別な感じがした。木造でできているその家は他の集落の家よりも一回りほど大きい。どこかの山の別荘のような雰囲気のある家だった。家には庭があり、ニワトリが放し飼いされていた。


「どう、立派な家でしょう?」おばさんは最後まで案内してくれた。

「けっこう偉い人なんですね」

「そりゃあ長老だからねえ」とおばちゃんは笑って言う。「まあ、長老って言ってもまったりとしたおじいちゃんなんだけどね。それでも私らの中じゃ一番偉い人だね。みんな長老の意見は大事にしているのさ」

「愛されているんですね」


 長老はマスコット的な存在らしい。この集落の人々から愛されるのならば長老も幸せに暮らせているのだろう。


 俺はおばさんに案内されるままに庭の中に足を踏み入れる。庭でえさを探していたニワトリが足元に駈け寄ってきたが、俺たちがえさをくれないとわかるとすぐに離れていった。この空間は穏やかに時間が進んでいるようだった。


 扉にまでつくと、おばさんがノックして長老を呼びかける。


「長老さま~、噂の桃太郎さんを連れてきましたよ。挨拶したいらしいので会ってあげてください」


「ほーい」と中から返事が聞こえた。家の雰囲気にそぐわない穏やかな返事だった。俺たちはそのまま家に入った。


 家の中は質素な作りだった。仕切りのない広めの一部屋の中に畳が敷かれていた。長老はその部屋の中で俺たちの方に背を向けながら、何やら窓の外を眺めていた。


「長老さま。山の上に住んでいる桃太郎さんを連れてきましたよ。これから鬼退治に行くんですって」

「ほう、鬼退治とな」


 長老はこっちの方に顔を向けた。長老は白いひげを胸くらいまで伸ばしてるおじいちゃんだった。白い眉に目が隠れていて、目が開いているのか確認することができない。長老は(おそらく見えているだろう目で)俺の事を見つめていた。


「それで出発の前に長老さまに挨拶しておきたいんだって。長老さま、ちょっとお話してあげて」

「それはそれはうれしいことじゃ。ささ、桃太郎とやら、中に入って座りなされ」


 俺は長老に促されるまま中に入って長老の前に座った。近く寄ってみると、長老はものすごく小柄だった。向かい合って座ってみても長老の頭は俺の肩のも届いていないだろう。長老は愛嬌のある笑みを浮かべていた。


「それじゃあ」といっておばさんは出て行ってしまった。おばさんは最後まで水を持ったまま俺のことを案内していた。おばさんの腕力は見習わなければいけないと思う。


 おばさんが行ってしまうと家の中に静けさが下りてきた。おばさんがいた時の明るさがどこかに行ってしまった気がした。空気が重くなる。とりあえず何か話さなければ、と長老に話しかけようとしたとき、長老が急に立ち上がった。


「さて」


 立ち上がった長老は静かにしゃべり始める。さっきまでおばさんと話していたトーンとは明らかに違う。一段階トーンが低くなっていた。立ち上がった長老は座っている俺よりも少しだけ背が高くなった。目線はあまり変わらないはずなのにどこか威圧されてしまう不思議な迫力がそこにはあった。


 気が付くと、さっきまで隠れていたはずの目がしっかりと開いて俺のことをにらんでいる。鋭く冷たい目だ。その目で見つめられると背筋に寒気を感じた。長老はそのまま言葉を進める。


「貴様、鬼退治に行くのだな?」

「はい」

「やめておけ」


「は?」突然の長老の言葉に思わず変な声が出てしまった。


転生するなら夏のない世界に行きたい

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